ワタミ「から揚げの天才」が海鮮丼を販売?から揚げブーム終焉か

ワタミ<7522>の「から揚げの天才」が、2022年10月3日から一部店舗で「ねぎとろ丼」の販売を始めました。「築地テリーの海鮮丼」というカテゴリの第1弾と銘打っていることから、売れ行き次第では海鮮丼シリーズをメニューに追加するものと予想できます。

から揚げの天才は、揚げたてのから揚げにこだわる専門店というコンセプトでスタート。から揚げ店は原価率が低く抑えられるうえ、初期投資がかからないという特徴があります。ワタミは低投資で収益性が高いビジネスモデルを構築し、FC加盟店で拡大する戦略を立てました。海鮮丼の取り扱いは、当初のコンセプトから大きく外れているように見えます。

その背景には、から揚げの市場が縮小に転じている一方で、競合店は増えていることがあると考えられます。

この記事では以下の情報が得られます。

・から揚げ需要の変化
・から揚げの天才の変遷

パチンコ店のダイナムもFCに加盟

ワタミ「から揚げの天才」が海鮮丼を販売?から揚げブーム終焉か
※「新登場!「から揚げの天才」の新カテゴリー『築地テリーの海鮮丼』一部店舗にて、先行販売スタート!」より


から揚げの天才の公式ホームページには、メインキャラクターであるテリー伊藤さんが、35年から揚げにこだわっている居酒屋のオーナーと出会い、その美味しさを日本中に広めたいとの思いから店舗を立ち上げたと書かれています。このストーリーを軸に店舗展開していました。

から揚げの天才は2018年11月に東京都大田区に1号店を出店。ワタミは駅前の繁華街に大型の居酒屋店を構え、宴会客をメインに獲得するビジネスモデルを得意としていました。から揚げの天才はから揚げに専門特化したブランドであり、テイクアウト需要を獲得するという、これまでのビジネスモデルを大きく変える業態でした。

しかも、FC展開を当初から計画しており、直営店の出店にこだわっていたワタミの転換点を示していました。

2020年に入って新型コロナウイルス感染拡大が深刻化。

人々の生活様式が一変すると宴会需要は消滅、テイクアウト・デリバリーが盛り上がりました。新たな生活様式に合致したブランドがから揚げの天才でした。

2021年7月に100店舗を達成。1号店のオープンからわずか2年7カ月という異例の速さで達成しています。素早く店舗を拡大できた要因に、初期投資額を999万円に抑えた低投資モデルを開発したことがあります。ワタミは更に380万円で出店できるコンテナ型の店舗を開発しました。

ワタミは2020年3月に、カラオケ店を運営するコシダカホールディングス<2157>とから揚げの天才のFC契約を結びました。また、パチンコ店運営のダイナム(東京都荒川区)とも契約を結び、2022年6月にパチンコ店の駐車場にコンテナ型の店舗を出店しています。

から揚げの天才のFC店数は、2021年3月末の25店舗から2022年3月末の80店舗まで大幅に拡大しています。FC加盟店を主軸に店舗拡大をしたワタミは、集客に全力を注がなければなりません。商品開発とプロモーションがFC店の継続と更なる拡大のカギを握ります。

しかし、不穏な空気が漂います。

から揚げブームの終焉が見え始めたことです。

から揚げの市場は2020年比で1割程度縮小

ニチレイフーズ(東京都中央区)はから揚げに関する消費者の意識調査を実施しています。それによると、2022年のから揚げの消費個数は推計で372億個。2020年の417億個から10.8%減少しています。

■から揚げの年間消費量の推移

ワタミ「から揚げの天才」が海鮮丼を販売?から揚げブーム終焉か
※ニチレイフーズ調べ


から揚げの消費量は2019年の水準から大幅に増えているものの、年を重ねるごとに減少しているのは間違いありません。

下のグラフはGoogleトレンドの「から揚げ」の検索結果。2004年1月から2022年10月まででどれくらい「から揚げ」が検索されたのかを示しています。2020年10月に最高値である100を迎えますが、2022年9月に82まで下がっています。検索数は2022年と比較して10~20%減少しています。

■Googleトレンド「から揚げ」

ワタミ「から揚げの天才」が海鮮丼を販売?から揚げブーム終焉か

コロナ禍でから揚げ専門店は過剰気味になりました。すかいらーくホールディングス<3197>は、から好しとガストの2枚看板化を進めました。から好し単体で見ると店舗数は88に留まりますが、併設型の店舗は2021年1月に600店舗を突破しています。

養老乃瀧(東京都豊島区)は2022年2月にから揚げ専門店からきち屋を白井駅前にオープンしています。

市場が拡大する中でから揚げ店が増えるのであれば、集客力はある程度維持することができます。しかし、新規出店が続く一方で市場が縮小するのであれば、激しい顧客の獲り合いとなり、場合によっては価格競争が起こります。から揚げは比較的原価を抑えやすい料理ですが、から揚げの天才がFCをメインとしているために簡単に値段を下げることはできないでしょう。

そうなると、ワタミは集客目的のプロモーションに力を入れるか、メニュー開発で集客力を高めるか、その両方を行うかの選択が迫られます。ワタミはFCビジネスの経験が浅く、マス向けのプロモーションが得意ではありません。そのため、商品力で集客力を高めようとしたものと予想できます。

から揚げの天才は、海鮮丼の販売と同じタイミングで、「たんぱく質の天才」というチキンとブロッコリーで構成された料理を全店で販売しました。

ワタミ「から揚げの天才」が海鮮丼を販売?から揚げブーム終焉か
※「大好評!「から揚げの天才」の新カテゴリー『たんぱく質の天才』が10月3日(月)から全店で販売スタート!」より

低糖質、高たんぱくのメニューで、トレーニングやダイエットに励む人を狙い撃ちした商品です。高カロリーのから揚げと真逆の需要を獲得しようとしています。

「から揚げの天才」から「たんぱく質の天才」、「築地テリーの海鮮丼」と取り扱うメニューの幅を広げています。その背景には、から揚げブームがいよいよ収束を迎えたという焦りがあると考えられます。

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