ケップルグループ、IPO長期化を踏まえたスタートアップ支援政策の現状は?

スタートアップのIPO(新規株式公開)が長期化する中、セカンダリー投資やM&Aを活用した出口(EXIT)戦略の多様化が注目されている。スタートアップ投資データプラットフォームやセカンダリーファンドを運営するケップルグループ(東京都港区)は、報道関係者向け勉強会を開き、日本のスタートアップエコシステムの現状と課題、IPOとM&Aの比較、今後の資金循環の展望について説明した。

国は成長資金確保と海外マネー獲得で制度整備

冒頭、経済産業省イノベーション・環境局 イノベーション創出新事業推進課の石川浩課長が、「国はIPO長期化とグロース段階の資金不足を構造課題と位置づけ、資金供給と制度整備の両面から支援策を拡充している」と、国のスタートアップ政策を紹介した。

研究開発・実証フェーズでは、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)の「ディープテック・スタートアップ支援基金(DTSU)」として1000億円規模の基金を設け、補助金による資金供給を実施。成長段階では、中堅・中小企業成長投資促進事業として2000億円規模の補助金を用意し、設備投資や事業拡大を後押しする。

官民連携ファンドを通じた資本供給も強化しており、産業革新投資機構(JIC)では2400億円規模の成長投資ファンドを組成。IPO前後のレイターステージ資金の受け皿拡充を進めている。

海外投資家の呼び込みに向けては、「ファンドへのLP(有限責任組合員)出資に対する非課税特例の要件緩和など税制改正を実施。出資比率要件を引き上げることで、海外機関投資家がより大きなチケットサイズで日本のスタートアップ市場に参入しやすい環境整備を目指す」(石川課長)という。

1号ファンドはIPOとM&Aの双方で実績

続いてケップルグループの堂前泰志執行役員CIO(最高投資責任者)が、日本で初めてダイレクトセカンダリー投資に特化した「Kepple Liquidity」ファンドの投資実績として、IPOおよびM&AによるEXIT事例を紹介した。

1号ファンドの主な投資先では、ドローン開発・データ活用事業を手がけるLiberaware(リベラウェア)が2024年7月にIPO、レシピ動画サービス「クラシル」を運営するdelyが2024年12月にIPOしたほか、オンライン融資・債権回収DX(デジタルトランスフォーメーション)のCreditEngineは2024年11月にM&AでEXIT。人工衛星の開発・運用を行うAxelspace(アクセルスペース)も2025年8月にIPOを果たした。

こうした事例を通じて、堂前CIOは「IPOに限らずM&Aを含めた多様なEXITの組み合わせが、投資回収と成長資金循環の両立につながる」と強調した。

事業会社とCVCの「早期売却ニーズ」が高まる

さらに、事業会社やCVC(コーポレートベンチャーキャピタル)が抱える潜在的な株式売却ニーズについても言及した。

堂前CIOは、「満期を迎えていなくても、早期の売却ニーズが発生するケースが増えている」とし、背景として①事業シナジー評価の厳格化、②未上場株式の管理コスト負担、③金融商品取引法適用による減損リスク、④税務上の損失確定ニーズ――などを挙げた。

セカンダリー市場は、こうした株主側の事情と、成長フェーズにあるスタートアップの資本政策の柔軟化を同時に実現する「調整弁として機能している」(堂前CIO)という。

同社が取り扱った複数のセカンダリー案件も紹介された。

あるスタートアップでは、創業初期に資本業務提携を結んだ事業会社が、事業成長に伴い条件面での優位性を失い、株式売却を希望。Kepple Liquidityファンドが株式を取得することで、売り手はEXITを実現し、発行体側は取引先選定の自由度を高めた。

別の案件では、事業シナジーを前提に出資していた企業が、経営方針の転換により保有株の譲渡を検討。セカンダリー取引を通じて関係を円滑に整理し、双方が新たな経営資源配分に移行できたという。

さらに、インフキュリオンのケースでは、三菱UFJキャピタルが増資引き受けと同時に既存株主の持分を取得。資本政策上の課題解消とIPO準備の加速につながったと説明した。

IPOとM&A、EXITの選択肢はどう違う?

ケップルの米安隼人執行役員は、スタートアップEXITにおけるIPOとM&Aの違いについて解説。「IPOは通常、準備に2~3年を要し、内部統制整備やガバナンス対応などの負担も大きい。市場環境次第で上場時期が左右される不確実性も高く、成長途上の企業にとっては経営リソースを消耗しかねない」と指摘した。

一方、「M&Aは買い手が見つかれば半年から1年程度で成立するケースもあり、資金回収と事業成長を同時に進めやすい」(米安執行役員)。さらに、VC(ベンチャーキャピタル)のファンド運用期限も、スタートアップM&A増加の背景にある。「一般的に10年前後とされるファンド期限を意識し、シリーズB~Cで投資した案件については、IPOを待つよりもM&Aによる早期回収を選択するケースが増えている」(同)という。

一方、シードやシリーズAといった超初期段階では事業の不確実性が高く、買収側が評価しにくいためM&Aは限定的となる。

特に「純資産規模の小さいスタートアップでは、買収後ののれん負担が相対的に重くなりやすく、M&A成立のハードルを高める要因となっている」(同)。

逆に「IPO直前のレイターステージでは企業価値が高騰し、買収よりもIPOを選ぶ傾向が強まる」(同)。こうした構造から、日本のスタートアップM&Aは成長初期フェーズに集中しているようだ。

「IPO一択」から「複線型EXIT」へ

日本のスタートアップM&Aの課題としては、①多数株主の合意形成の難しさ、②優先株式による創業者リターンの後順位化、③投資回収目線へのバリュエーション転換、④のれん負担の重さ――が挙げられた。

今後の見通しについて同社は、スタートアップへの投資資金総額は中長期的に増加傾向が続くと分析。新たなファンド設立や取引プラットフォームの登場により、セカンダリー市場への参入プレイヤーも多様化するとした。

また、国内で発行される未上場株式の残高は、BSI(スタートアップ投資統計)ベースで3兆円以上に達するとの推計も示され、流動化ニーズは今後さらに高まると見込まれている。

勉強会を通じ、ケップルグループは「IPO一択」だった従来の成長モデルから、セカンダリー取引やM&Aを組み合わせた複線型EXITへの転換が、日本のスタートアップエコシステムの次の段階になるとの見方を示した。

IPOの長期化が進む中、出口戦略の多様化と資本循環の円滑化が、スタートアップの成長加速と投資マネーの呼び込みを左右する重要テーマとなりそうだ。

文・写真:糸永正行編集委員

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