ビール大手の「キリン」バーボン事業を切り離し アサヒ、サッポロは酒類に集中 上位3社で分かれる成長戦略

ビール大手のキリンホールディングス<2503>が、米国のバーボンウイスキーブランド「フォアローゼズ(Four Roses)」を製造する米国子会社「フォアローゼズ蒸溜所(Four Roses Distillery, LLC ※ケンタッキー州)」を譲渡(実施は2026年7~9月の予定)する。

同社は「事業ポートフォリオ(事業構成)の見直しを行った結果」と説明している。

酒類の海外拡張を進めるアサヒグループホールディングス<2502>、酒類事業への集中を進めるサッポロホールディングス<2501>に対し、キリンは酒類事業に加え、医療やヘルスサイエンスにも経営資源を振り向けるとしている。

今回の譲渡によって、ビール大手3社の成長戦略の違いが鮮明になりそうだ。

アサヒはアフリカでの酒類事業を拡大

国税庁の統計によると、日本国内の酒類の課税数量は、少子高齢化や人口減少などを背景に、1999年度をピークとして減少傾向にある。

海外市場でも、原材料価格や物流コストの上昇、為替変動などのリスクがあり、酒類大手は限られた経営資源をどの分野に重点配分するかの判断を迫られている。

こうした環境の中、アサヒは統合報告書で、アサヒスーパードライ(Asahi Super Dry)やペローニ ナストロアズーロ(Peroni Nastro Azzurro)など五つのグローバルブランドを成長を牽引していくドライバーと位置付けており、既存エリアでの販売数量拡大や新エリアへの拡大展開を進めていく方針を示している。

この方針はM&Aにも表れており、同社は2025年12月に、英国の大手酒類会社ディアジオ(Diageo)が保有する東アフリカ(ケニア、ウガンダ、タンザニア)でのビールやスピリッツなどの事業を取得することを決定(実施は2026年下半期の予定)した。

ビール大手の「キリン」バーボン事業を切り離し アサヒ、サッポロは酒類に集中 上位3社で分かれる成長戦略
アサヒホールディングス本社
東京都墨田区のアサヒホールディングス本社(Buzz_v2 / shutterstock.com)

サッポロは不動産子会社を売却

サッポロは、中長期経営方針で「競争優位な強みを有する事業に集中し酒類の市場創造力に磨きをかける」としている。

さらに企業価値向上のためには酒類、食品飲料、不動産など多様化した事業ポートフォリオは見直しが必要としていた。

この方針のもと、同社は2025年12月に不動産事業を担う子会社のサッポロ不動産開発(東京都渋谷区)の外資系投資ファンドへの譲渡を決定(実施は2026年6月の予定)した。

得られる資金は酒類事業を中心に活用していくとしている。

アサヒとサッポロはともに、酒類事業を引き続き事業の中核に据え、同事業の強化を通じて成長を目指す方針だ。

ビール大手の「キリン」バーボン事業を切り離し アサヒ、サッポロは酒類に集中 上位3社で分かれる成長戦略
サッポロホールディングス本社
東京恵比寿のサッポロホールディングス本社

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キリンはフォアローゼズを譲渡

これに対し、キリンは、酒類事業を重要な収益源として維持しながらも、次の成長の柱を酒類の外に求めている。

同社は中期経営計画で「食領域」「医領域」「ヘルスサイエンス領域」に経営資源を重点的に配分する方針を掲げている。

単一事業に依存しない収益構造を構築し、中長期的な企業価値の向上につなげる考えだ。

2023年のオーストラリアの健康食品大手ブラックモアズや、2024年の化粧品・健康食品大手のファンケルの買収はその具体例といえる。


今回のフォアローゼズ譲渡は、こうした事業ポートフォリオ見直しの延長線上に位置付けられる。

キリンは、2002年にフォアローゼズ事業を取得して以降、同事業が「米国市場を中心に順調な成長を遂げ、当社の企業価値向上に貢献してきた」と評価する。

一方で同社は「中長期的な視点からバランスシート・事業ポートフォリオの見直しを定期的に実施してきた」とも説明する。

こうした方針の下、慎重な検討を重ねた結果、譲渡を決断したとしている。

さらにキリンは「今回の譲渡によって、より成長が可能な事業にリソースを集中し、企業価値向上を実現していく」との考えを示した。

ウイスキー事業は、熟成期間が長いことなどから、資本が長期間固定されやすい特性を持つ。

フォアローゼズはブランド力のある資産であるものの、こうした事業特性も踏まえ、事業ポートフォリオ全体のバランスの中で、位置付けを見直した形といえそうだ。

ビール大手の「キリン」バーボン事業を切り離し アサヒ、サッポロは酒類に集中 上位3社で分かれる成長戦略
Four Roses
キリンホールディングスが譲渡を決めたフォアローゼズ(Four Roses)ブランドシリーズ(同社ニュースリリースより)

売却案件が中心に

キリンが2020年以降に適時開示したM&Aは今回のフォアローゼズの売却を含め7件に達する。

このうち傘下に収めたのは、ブラックモアズとファンケルの2件だけで、残りの5件は売却案件だった。

フォアローゼズの売却以前には、2024年の傘下の協和発酵バイオが手がけるアミノ酸・ヒトミルクオリゴ糖事業の譲渡、2023年の傘下の協和ファーマケミカルの研究用試薬製品の製造販売権の譲渡などがある。

フォアローゼズをはじめとする企業や事業の譲渡は、酒類で稼ぎながら次の成長に備える段階に入ったことを示す動きといえそうだ。

ビール大手の「キリン」バーボン事業を切り離し アサヒ、サッポロは酒類に集中 上位3社で分かれる成長戦略
2020年以降に適時開示されたキリンホールディングス関連のM&A

文:M&A Online記者 松本亮一

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