
化粧品や健康食品などの通信販売事業を手がける中堅企業のプレミアアンチエイジング<4934>と同業の北の達人コーポレーション<2930>が相次いでM&A推進の方針を打ち出した。
EC(電子商取引)などの通販事業者で構成する日本通信販売協会によると、規模拡大が続く同業界ではM&Aによる事業多角化の動きが目立つという。
AIとM&Aに動きが
日本通信販売協会が2025年8月に発表した2024年度の通販市場売上高調査(2025年6月24日~同年8月18日に会員385社と有力非会員392社を対象に実施)によると、2024年度(2024年4月~2025年3月)の通信販売(衣料品や雑貨、化粧品、健康食品など)の売上高は、前年度比7.3%増の14兆5500億円で、1998年度以来26年連続の増加となった。
また、同協会では業界全体の動向として、注文から顧客に届けるまでの一連の物流・業務プロセスであるフルフィルメントや、コールセンター、マーケティングなどの領域で、AI(人工知能)の活用による業務効率化が進展しているほか、事業の多角化を目的にしたM&Aの動きも目立つとしている。
化粧品や健康食品などの市場は、人口減少の進展に伴って、将来規模が縮小していくことが予想されるのに加え、コロナ禍でEC(電子商取引)を強化する企業が増え競争が激化している。
また競争激化の影響で、新規顧客獲得コスト(広告宣伝費やネット広告費)が上昇し、経営を圧迫しているのも経営課題の一つで、北の達人コーポレーションは2025年2月期の決算短信で「採算性を度外視し広告投資を拡大すれば必ず新規顧客獲得人数は増加するが、採算が合わず収益性が低下する」としており、厳しい状況にさらされていることがうかがわれる。
プレミアアンチエイジングは、2024年7月期の決算説明資料で「広告マーケットの競争激化から、CPO(新規顧客獲得単価)の上昇傾向は継続する」と見ており、困難な経営環境下にあることが分かる。
新成長分野や新興ブランドを探索
そうした状況を乗り越えるための施策として、M&Aによって新たな商品やブランドを獲得する成長戦略を模索する動きが広がっているもので、化粧落とし「デュオ」などを展開するプレミアアンチエイジングは2025年9月11日に「事業計画及び成長可能性に関する説明資料」を公表し、この中でM&Aの方針を打ち出した。
同社は2023年9月に公表した中期経営計画でM&Aの方針を固めていたが、計画の初年度となる2024年7月期の業績が計画を大きく下回ったため、2024年9月に中期経営計画を取り下げていた。
この中期経営計画では、アンチエイジングに関連した新たに成長が見込める分野への展開をM&Aを活用して推進するとの目標を掲げており、新たに公表した「事業計画及び成長可能性に関する説明資料」では、この目標を改めて掲げ直した。
同社は2023年に、リカバリーウエア(疲労回復専用の衣類)を開発、製造するべネクス(神奈川県厚木市)を子会社化しており、今後は「第2、第3のリカバリーウエアのような新成長分野や、新興ブランドを探索する」としている。
2025年7月期は、子会社のベネクスによるリカバリー事業が順調に推移したものの、主力の化粧品などが振るわず、売上高は161億6000万円と前年度比20.6%の減少となった。2026年7月期は反転し、売上高165億円(前年度比2.1%増)を見込む。
事業や商品の一部を買収
「北の快適工房」のブランドで美容液などの化粧品や健康食品を展開する北の達人コーポレーションは2025年7月に、2028年2月期を最終年とする3カ年の中期経営計画を公表。
この中で魅力的な商品を持つ企業の一部事業や一部商品を買収し、自社のシステムや制度のもとで事業運営を行う考えを示した。
自社のシステムや制度を活用することで、受注、物流、家賃、新規顧客獲得費(主に広告宣伝費)などのコストを削減でき、収益性が改善するとしている。
同社では2028年2月期に2025年2月期比約2倍となる235億6400万円の売上高を見込んでいるが、この数字はM&Aによる増収分は含めておらず、M&Aによってさらに上積みする計画だ。
M&Aで上振れも
両社のほかにも「パーフェクトワン」ブランドの化粧品や「Wの健康青汁」などの健康食品などを手がける新日本製薬<4931>は、2024年11月に公表した中期経営計画で「自社の強みと親和性の高いM&Aの実現に取り組む」としており、2025年9月期から2027年9月期までの3年間にM&Aなどに125億円を投じる計画を公表している。
同社では前中期経営計画の総括の中でM&Aについて「計画に織り込んでいたが、大型案件の実施に至らなかった」と反省しており、現在の中期経営計画では実現に向け本腰を入れることが予想される。
2027年9月期に売上高520億円(2024年9月期比29.8%増)を見込んでいるが、M&Aなどによる増収分は含めておらず、M&Aが実現すれば上振れすることになる。
文:M&A Online記者 松本亮一
【M&A速報、コラムを日々配信!】
X(旧Twitter)で情報を受け取るにはここをクリック
【M&A Online 無料会員登録のご案内】
6000本超のM&A関連コラム読み放題!! M&Aデータベースが使い放題!!
登録無料、会員登録はここをクリック