【M&Aリブート】ソニーグループ―電機メーカーからエンタメ企業へ、40年の事業転換史―

企業の事業構造は通常、時間をかけて徐々に変わる。しかしソニーグループ<6758>は、M&Aという経営手段を通じて事業ポートフォリオを大胆に変え、創業時とはまったく異なる企業へ進化してきた。

エレクトロニクス企業として世界的成功を収めた同社が、なぜコンテンツ企業へ転換したのか。その軌跡を追う。

エレクトロニクス企業としての成功(1946~1987)

1946年創業の東京通信工業(現ソニー)は、トランジスタラジオやテープレコーダー、テレビ、ヘッドフォンでカセットテープに録音した音楽を楽しむ「ウォークマン」、家庭用ビデオカメラなどの革新的製品で世界市場を切り拓く。1980年代までの売上・利益はほぼエレクトロニクス事業で占められ、日本の高度成長期を象徴する電機メーカーだった。

【M&Aリブート】ソニーグループ―電機メーカーからエンタメ企業へ、40年の事業転換史―
2024年のドイツ・ベルリンでの家電見本市IFA開催を前に展示されたソニーの初代ウォークマン「TPS-L2」(1979年発売)(Reuter)
2024年のドイツ・ベルリンでの家電見本市IFA開催を前に展示されたソニーの初代ウォークマン「TPS-L2」(1979年発売)(Reuter)

この時期の特徴は、技術革新とオーガニック成長だ。小型化・高性能な製品づくりがソニーブランドを世界に普及させた。米アップルが登場するまでは、ソニーブランドが若者に人気のある最先端テックブランドだった。

こうした製品開発力とブランド力を武器にグローバル展開を進めたが、M&Aや事業多角化は限定的で、日本を代表するエレクトロニクス企業として海外市場開拓を進めていた。

大型クロスボーダーM&Aの衝撃(1988~2000)

転機は1988年のCBSレコード(現 ソニー・ミュージックエンタテインメント)買収(約20億ドル)と1989年のコロンビア・ピクチャーズ買収(約34億ドル)だ。当時の日本企業としては異例の大型クロスボーダーM&Aであり、しかもモノづくり全盛時代での巨大コンテンツ企業買収だけに国内経済界を驚かせた。

背景には二つの要因があった。

第一に外部環境の変化である。家電市場は成熟し、価格競争が激化していた。とりわけ大型カメラ販売店や全国展開する家電量販店の大量出店によって、価格競争力では圧倒的に小売側が有利になる。

ハード単体では収益成長が限界に近づきつつあった。

第二に社内戦略だ。音楽や映像関連機器で高い競争力を持つこともあり、同社は早くから「ハードとソフトの融合」による新たな価値創造を構想していた。コンテンツを自社で保有することで、製品とサービスの両輪を築こうとしたのだ。

この時期、ソニーは「電機メーカー+コンテンツ企業」というハイブリッド型へ転換し始めた。

新たなモノづくり「パソコン事業」の成功

一方で、オーガニックでのポートフォリオ拡大にも取り組む。その代表的な製品がパソコン(PC)だ。マイクロソフトの「Windows 95」発売でPCの普及が進むと、1996年にソニーは「VAIO(Video Audio Integrated Operation)」ブランドでPC市場に参入した。

1997年に発売した薄型軽量の「VAIO 505」など、デザイン性とAV連携を強みに差別化を図り、2000年代前半には国内外で存在感を高めた。

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2003年11月、ソニーが東京で発表した新型ノートパソコン「VAIO NOTE 505(PCG-X505/P)」(Reuter)
2003年11月、ソニーが東京で発表した新型ノートパソコン「VAIO NOTE 505(PCG-X505/P)」(Reuter)

当時は「コンテンツ制作・再生のハブ」として、PCとデジタルカメラやビデオ、音楽機器との統合を志向し、ソニーのデジタル家電とPC連携戦略の中核を担った。ソニーは自社のAV技術やブランド力を活かし、プレミアムPCとしてポジションを確立した。

1996年にはアップルが巨額赤字を計上し、ソニーが同社を買収するのではないかとの憶測が株式市場で飛び交った。実際、アップル創業者のスティーブ・ジョブズ氏が「もしアップルが売却されるなら、売るとしたらソニーが良い」と語っている。

だが、実際には買収提案や交渉の事実はなかったとされる。当時のアップルの時価総額は約30億~40億ドル規模で、当時のソニーであれば、十分に買収可能だった。ただ、当時はアップル製品と競合する「VAIO」が急成長していたのに加えて、ソニーのような日本の大企業がスタートアップを買収する事例はほとんどなかった。

もし、ソニーがアップルを買収してPMI(経営統合プロセス)に成功していれば、ソニーは時価総額約4兆ドルのテック企業の親会社となり、デジタル・エコノミーの最先端を走っていたかもしれない。

デジタル時代への模索(2001~2008)

2000年代初頭、出井伸之社長(当時)は「デジタル・ドリーム・キッズ」構想を掲げ、ネットワーク時代への対応を進めた。2001年には携帯電話合弁のSony Ericsson設立や音楽出版権ビジネスの強化など、デジタルプラットフォーム構築を意図した施策を進めた。

しかし、この戦略は評価が分かれる。理念は先進的だったが、実行段階ではエレクトロニクス事業との連携が不十分だったとされる。

さらにテレビ事業の低迷も重なり、ソニーは2000年代後半に停滞期を迎えた。ソニーを代表する世界的ヒット製品だった「ウォークマン」も、音楽のデジタル化に十分対応できず、アップルの「iPod」シリーズに顧客を奪われるなど、ソニーブランドを支えてきた人気製品が次々と「失速」していった。

一時はアップルの「Mac」シリーズに迫る高いブランドイメージを誇った「VAIO」シリーズも、PCのコモディティ化による価格競争が激化し、米国のデルやヒューレット・パッカード(HP)、台湾勢が台頭。スマートフォンやタブレットの普及でPC需要の成長が鈍化した上に、ソニー全体でもテレビやモバイルの不振が重なり、PC事業はグループの足かせになる。

「デジタル・ドリーム・キッズ」構想が、結果的に後のコンテンツ・サービス重視戦略の基盤となったのは間違いない。


ゲーム買収とプラットフォーム戦略(2010年代)

2010年代、ソニーはプレイステーションを中核とするゲーム事業を強化し、ゲーム開発会社の買収を進めた。そこで力を入れたのがM&Aだ。

【M&Aリブート】ソニーグループ―電機メーカーからエンタメ企業へ、40年の事業転換史―
2010年代、ソニーはゲーム事業に注力(Erman Gunes / Shutterstock.com)
2010年代、ソニーはゲーム事業に注力(Erman Gunes / Shutterstock.com)

2019年に子会社のソニー・インタラクティブエンタテインメント(SIE)を通じて、約2億2900万ドルで米Insomniac Gamesを買収。同社は「スパイダーマン」シリーズや「Ratchet & Clank」など、ソニーのゲーム機「PlayStation」向けのヒットゲームを開発していた。

従来からのハード販売だけでなくソフト・サービス収益を重視するプラットフォーム戦略への転換である。これは、当時の任天堂が比較的内製中心でゲーム開発を維持してきた戦略と対照的と言える。

独占コンテンツ確保とIP(知的財産)戦略の強化が目的だった。特に「スパイダーマン」はInsomniac Gamesのゲームソフトにとどまらず、同じソニー傘下のソニー・ピクチャーズが制作する映画やグッズ、コンテンツ配信といった横断展開できるのが魅力だ。

社内的には、出井時代のデジタル路線と久多良木健氏のゲーム主導戦略の力学も影響したと指摘されるが、結果としてゲーム事業はソニーの最大収益源へ成長した。

一方で、事業ポートフォリオの見直しも始まった。2014年にソニーはPC事業を日本産業パートナーズ(JIP)へ売却。譲渡額は非公表だが、500億円程度と報じられている。同事業は新会社「VAIO」として独立した。

携帯電話事業は、2012年にソニーがエリクソンの持ち分50%を取得して完全子会社化したが、スマートフォンへの乗り遅れが響き、2021年にソニー本体に吸収統合して事業規模を縮小した。

ソニーは低収益・成熟市場のPCから撤退し、ゲーム・音楽・映画・イメージセンサーへ資源を振り向けた。コングロマリット・ディスカウントの解消と資本効率改善を目指す。

「選択と集中」のM&Aを推進(2020年代)

2020年代に入ると、IP関連のM&Aが本格化する。2021年にソニー・ピクチャーズとソニー・ミュージック日本の子会社 Aniplex が共同出資する合弁会社Funimation Global Group(当時) を通じて世界最大級のアニメ配信プラットフォーム米Crunchyrollを約11億7000万ドルで買収した。

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2023年5月に行われた経営方針説明会で、INSOMNIAC、Crunchrollの買収などコンテンツクリエイションに注力してきたことを説明する吉田憲一郎CEO(現会長)(Reuter)
2023年5月に行われた経営方針説明会で、INSOMNIAC、Crunchrollの買収などコンテンツクリエイションに注力してきたことを説明する吉田憲一郎CEO(現会長)(Reuter)

M&AによるエンターテインメントIPと配信サービスの強化が目立つ。ストリーミング市場の拡大を踏まえ、音楽・映画・ゲーム・アニメを横断するIPエコシステム構築が狙いだ。

事業ポートフォリオの入れ替えについては、躊躇なく決断する。1981年に米プルデンシャルとの合弁でソニー生命を設立したのを皮切りに、1998年にソニー損害保険、2001年にはインターネット専業銀行のソニー銀行を、相次いで立ち上げる。2004年に金融持ち株会社のソニーフィナンシャルホールディングス(現ソニーフィナンシャルグループ)を設立。2007年に東証第一部に上場した。

その後、2020年にソニーグループがTOB(株式公開買い付け)で完全子会社化した。これは金融事業をグループの収益安定源として位置づけていたためだ。

確かに2000年代~2010年代前半のエレクトロニクス事業低迷期には、グループの利益を補完する役割を果たした。

しかし、2023年に金融事業の部分スピンオフ計画が決議され、2025年10月以降は連結対象から外れる予定だ。約4000億円を投入した親子上場解消のTOBから、わずか3年で方向転換したことになる。これは「守りの金融」から「攻めのコンテンツ投資」への資源配分転換と見ることができる。

一方、祖業のエレクトロニクス事業では、2026年1月にテレビ事業をスピンオフする方針が明らかになった。中国の家電大手TCLが51%、ソニーが49%を出資する合弁会社にテレビ事業を移管する予定だ。2027年頃の事業開始を目指す。「ソニー」や「ブラビア」のブランドは継続するが、実質的な製造・販売委託体制へ移行する。

【M&Aリブート】ソニーグループ―電機メーカーからエンタメ企業へ、40年の事業転換史―
テレビ事業はスピンオフへ。2017年テック見本市CES(REUTER)
テレビ事業はスピンオフへ。2017年テック見本市CES(REUTER)

現在、エレクトロニクス事業の売上シェアは約3割、営業利益では約2割に低下し、ゲーム・音楽・映画などコンテンツ事業が利益の中心となっている。

テレビ事業の売却・再編検討も、この流れの延長線上にある。成熟市場の低収益事業から、IPやサービスなど高収益領域へ資源を振り向ける戦略は合理的といえる。


今後のM&Aはどうなる?

ソニーの今後のM&Aは、

* コンテンツIP

* ゲームプラットフォーム

* AI(人工知能)・XR(現実世界とデジタル世界の融合・拡張)技術

* 映像制作技術

などに集中し、IP・テクノロジー融合型企業としての成長を目指す可能性が高い。

ソニーは祖業の頭打ちが見え始めてから、40年にわたりM&Aを通じて事業構造を大きく転換してきた。電機メーカーとして成功した大企業が、コンテンツとテクノロジーを融合したグローバルエンターテインメント企業へ進化した例は世界的にも稀だ。これからもM&Aを武器に新たな事業を開拓していくことだろう。

文:糸永正行編集委員

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