【工作機械業界のM&A】非自動車分野の開拓や、自動化、省力化などの課題解決に活用

工作機械業界で、主要顧客である自動車分野以外の新市場の開拓や、製造業が抱える自動化や省力化などのニーズに応えるために、自社の技術だけでは不足する部分を補う手段としてM&Aを活用するケースが増えつつある。

景気の変動や技術の動向によって需要が変動

工作機械は金属を削ったり、穴を空けたりする機械で、さまざまな機器や部品などを造るのに不可欠であり、製造業の基盤を支える重要な役割を持つ。

ただ自動車や半導体などの業界への依存度が高いため、景気の変動や技術の動向によって、需要が変動することがある。

近年は急速に進んだ自動車のEV(電気自動車)化の流れが減速するなどの変化の影響もあり、自動車業界での設備投資が振るわなかったことなどから、工作機械の受注総額は2023年、2024年と2年連続で減少(日本工作機械工業会調べ)した。

この変化に伴って厳しい状況に追い込まれている工作機械メーカーもあり、航空宇宙や医療機器など自動車以外の分野の開拓に注力する取り組みが散見される。

一方で、製造業は人手不足に見舞われており、自動化や省力化が大きな課題になっている。このニーズに対応して、経験の浅いオペレーターでも高精度な加工が可能になる制御技術の開発や、一人のオペレーターで多くの加工ができる多機能機械の開発などが進んでいる。

こうした非自動車分野の開拓や、自動化、省力化、効率化、多機能化などの課題を、M&Aを活用して解決しようとする取り組みに増加の傾向が見られるのだ。

DMG森精機、故障の予防などでM&A

最大手のDMG森精機<6141>は、工程集約、自動化、DX(デジタル・トランスフォーメーション=デジタル技術で生活やビジネスを変革する取り組み)化、GX(グリーントランスフォーメーション=温室効果ガスを削減し、経済社会システム全体を変革する取り組み)化などを加速させている。

顧客が抱える生産工程の最適化や効率化、省エネ化、故障の予防などのニーズに応えるためで、これらニーズへの解決策をワンストップで提供できる体制を目指している。

同社はM&Aに積極的で、これまでに多くのM&Aを手がけてきた。直近では2025年3月に顧客企業の効率化や故障の予防などに貢献できるとして、保守や修理、オーバーホールに関する経験豊富なエンジニアを数多く抱える宮脇機械プラント(兵庫県明石市)を子会社化したばかり。

大手のオークマ<6103>は機械が自律的に高精度・高生産性と、脱炭素を両立する工作機械「Green-Smart Machine」の拡販に力を入れており、EV(電気自動車)や半導体製造装置のほか、航空、宇宙、建機、農機、油圧機器などの生産向けに新機種を相次いで投入している。

製造業で自動化や省人化のニーズが高まっているのに加え、熟練技能者の引退や人材の流動化により、高いスキルや経験を持った人材の確保が難しい状況に対応したものだ。

同社はM&Aについては、海外拠点の拡充やサプライチェーン(製品の原材料の調達から販売までの流れ)の強化などで活用するという。

芝浦機械、システムエンジニアリング事業を強化

工作機械や火器、建材、特装車両などを手がける業界中堅の豊和工業<6203>は、M&Aによって新たな資源やノウハウなどを獲得し、インオーガニック成長(外部の資源を活用した成長)を目指す。

同社売り上げの28%ほどを占める工作機械関連事業とかかわりの深い自動車業界で、設備投資需要が不透明化しているため、新たな事業の育成が必要と判断した。

中堅の芝浦機械<6104>も、システムエンジニアリング事業(製品の単体売りではなく、制御を含めたシステムで販売する事業)を強化する。

自動化や省力化を求める製造業のニーズに応えることで企業規模の拡大とともに、高付加価値商品を増やし利益率を高めるのが狙いで、強化策の一つとしM&Aを活用する。

中堅のエンシュウ<6218>も、自動車業界向けを中心とする汎用機などの販売を中心とする現在の事業構造では今後の成長が見込めないと判断し、製造業の自動化に必要となるロボットや搬送装置の分野でM&Aに踏み切る。

ニデック、引き続き工作機械メーカーを買収へ

他業界企業による工作機械メーカーの買収の動きもある。モーター大手のニデック<6594>は、2025年4月に業界大手の牧野フライス製作所<6135>へのTOB(株式公開買い付け)を開始したが、東京地裁に申請していた牧野フライスが導入した買収防衛策の差し止めを求める仮処分が却下されたため、買収を断念した。

ニデックは工作機械事業拡大の方針のもと、2021年に三菱重工工作機械(現ニデックマシンツール)を、2022年にOKK(現ニデックオーケーケー)を、2023年にイタリアのPAMAを、2023年にTAKISAWAを傘下に収めており、引き続き工作機械メーカーのM&Aに踏み切る可能性は高い。

一方の牧野フライスについては、ニデックによる買収を阻止するホワイトナイトとして名乗りを上げていた投資ファンドのMBKパートナーズが2025年6月3日に、牧野フライスをTOBで子会社化し、株式を非公開化すると発表した。

牧野フライスはTOBへの賛同を表明しており、2025年12月上旬までにTOBが開始される予定だ。

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文:M&A Online記者 松本亮一


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