倉庫大手の「三井倉庫ホールディングス」なぜM&Aは止まっているのか 量から質への戦略転換の背景は

倉庫大手の三井倉庫ホールディングス<9302>が、慎重なM&A姿勢を続けている。

同社は2010年代、国際貨物やメーカー物流、陸運といった分野で相次いでM&Aを実行し、フルスペックの物流機能を備えたグローバル総合物流企業へと成長した。

一方、2023年3月期から2027年3月期までの中期経営計画では、M&Aを通じて物流サービスの価値向上を掲げるものの、計画開始から4年近くが経過した現在も目立った案件は実現していない。

背景には、過去の積極投資を経て、規模拡大を優先する戦略から、シナジー創出や資本効率を重視する質への戦略転換がある。

フルスペック物流が完成

三井倉庫ホールディングスは2010年代に、M&Aを成長戦略の中核に据え、物流機能の拡充を一気に進めた。

国際貨物分野では2011年に大手旅行会社JTBから国際貨物事業を運営する子会社群(JCグループ)を買収。

陸運分野でも2012年に家電分野の3PL(サードパーティーロジスティクス=荷主企業の物流業務を一括して受託)事業を展開している三洋電機ロジスティクスを子会社化した。

さらに2015年には、ソニーグループの物流子会社のソニーサプライチェーンソリューションや、大阪府に本拠を置く丸協運輸など丸協グループ6社を相次いで傘下に収めた。

この間の積極投資の過程では、有利子負債の増加に加え、消費活動の鈍化やグループ内の連携不足などにより利益水準が低迷した。

2017年3月期に、のれんの減損を計上するなど、課題が表面化した時期もあった。

こうした経験を経て、同社は安定的な収益を確保する不動産事業に加え、倉庫運営によるストック型ビジネスと、輸送業務によるフロー型ビジネスを組み合わせたバランスの取れた事業構成を確立した。

直近期は物流事業が売上高の約97.6%、不動産事業が2.4%を占める。

倉庫大手の「三井倉庫ホールディングス」なぜM&Aは止まっているのか 量から質への戦略転換の背景は
三井倉庫ホールディングスが2010年以降に適時開示したM&A

進まないM&A

同社は2010年代の状況を踏まえ、2023年3月期から始まった現中期経営計画では、M&Aなどを通じて、物流サービスの価値を高める取り組みを推進している。

それにもかかわらず、具体的な案件が表に出ていない理由は、M&Aに対する判断基準そのものが大きく変わった点にある。

同社では、顧客基盤を拡大できるか、有する機能やノウハウの深化によるグループシナジーが実現できるかどうかなどをポイントに、資本コストを意識しながら企業価値増大につながるM&Aを検討するとしている。

売上規模や拠点数の拡大を目的とするM&Aではなく、狙いが明確な案件に絞って検討しているため、条件に合う案件が限られ、結果としてM&Aが表に出にくい状況が続いているとみられる。


今後の成長戦略では、イノベーションを生む仕組みづくりを目指す内部共創と、顧客ニーズの多様化に対応し、さらなる成長を見据えたM&Aや提携などの外部共創を進める。

デジタル技術やデータ活用、プラットフォーム(基盤)分野など、自社単独では補いにくい領域では、M&Aに加え、資本提携や業務提携といった形で外部の力を取り込んでいく可能性もある。

投資計画では2023年3月期から2027年3月期までの5年間で1300億円を予定しており、このうちDX(デジタルトランスフォーメーション)やM&Aなどの成長領域への戦略投資に1000億円を投じる。2026年3月期までの投資額は、1300億円のうち870億円に達する見込みだ。

規模拡大から価値創出へ

三井倉庫ホールディングスは1909年に三井銀行倉庫部から東神倉庫として分離独立し、1942年に三井倉庫に社名を変更した。

1966年に自動車運送取扱業を開始し、1968年に海上コンテナの取扱に着手。さらに1977年に国際運送業務を本格展開するなど業容を拡大していった。

2025年3月期は売上高2807億4200万円(前年度比7.7%増)、営業利益178億3100万円(同14.1%減)の増収営業減益となった。

2026年3月期については、2025年11月に業績予想を上方修正。売上高は従来通りの2940億円(同4.7%増)に据え置いたが、自動車関連貨物の物量増を理由に、営業利益は5億円多い215億円(同20.6%増)に引き上げた。

現中期経営計画の最終年となる2027年3月期には売上高3500億円、営業利益230億円を見込む。

三井倉庫ホールディングスにとって、今後の成長はM&Aによる規模拡大ではなく、既存の物流機能と顧客基盤をどう活かすかにかかる。

慎重なM&A姿勢は、量から質への戦略転換を進める過程にある同社の現在地点を表しているといえそうだ。

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三井倉庫ホールディングスの業績推移

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文:M&A Online記者 松本亮一

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