トランプ復活がホンダと日産を経営統合に走らせた|ホンダ・日産経営統合①

ホンダ<7267>と日産自動車<7201>が経営統合に向けて動き出した。18日の報道によると持ち株会社を設立し、両社と三菱自動車<7211>が傘下に入る見通しという。

両社は「将来的な協業についてさまざまな検討を行っている」と報道を否定せず、「更新情報があれば適切な時期にステークホールダー(利害関係者)に知らせる」とのコメントを発表している。事実上、ホンダによる日産の救済M&Aだが、厳しい経営環境にさらされているのは両社とも同じ。なぜ両社は経営統合を模索するのか。シリーズで背景を追う。

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中国市場での販売減で経営に打撃

背景の一つは海外市場での販売懸念だ。日本自動車工業会によると、日本車が現地生産している市場は中国を含むアジアが1000万台(2023年、以下同)、北米が417万台、中南米が181万台の順。輸出は北米が171万9000台、欧州が77万5000台、アジアが57万4000台の順となっている。アジアと北米が「稼ぎ頭」となっていることが分かる。ところが年間1000万台を超える日本車が販売されているアジア市場で変調が起こっている。

その「震源地」は、日本車メーカーにとってアジア最大の自動車市場である中国だ。日本車の中国新車販売は2020年をピークに下がり続けている。2023年は日産が前年比16%減の79万台、ホンダも同17%減の34万台に落ち込んだ。直近の2024年10月にはホンダが低調だった前年同月比で42%減、同じく日産も17%減と下げ止まる気配がない。

これは中国車の品質が向上した結果、日本車と比較対象となり、価格競争で負けるケースが増えているためだ。ホンダは中国合弁の2工場を閉鎖・休止し、日産も一部工場を閉鎖。日産傘下の三菱自は中国市場から撤退した。安価な中国車はアジアでも人気が高く、日本車の牙城だった東南アジア市場でも中国車に押されている。

「ドル箱」だった北米市場が関税上乗せで不透明に

そうなると日本車の人気が高く、文字通り「ドル箱」の北米に期待をかけるしかない。幸い現在は円安基調にあり、北米で販売台数を伸ばすことができれば収益改善に期待をかけられる。ところがトランプ氏の大統領返り咲きで雲行きが怪しくなった。

トランプ氏は、これまで無税だった「メキシコやカナダからの輸入される全製品に25%の関税をかける」と明言。ホンダはカナダとメキシコ、日産はメキシコにそれぞれ工場を持つ。

ホンダの青山真二副社長は11月の決算説明会で「メキシコ生産車の8割を米国に輸出している。そこに関税がかかるのであれば事業に与える影響は非常に大きい」と、トランプ氏の課税強化を憂慮している。

それに加えて輸入日本車に世界一律10%のユニバーサル・ベースライン関税が課せられる可能性もあり、実行された場合の関税は現行の2.5%から12.5%に跳ね上がる。

「関税ショック」による北米市場での販売不振の懸念が高まっているのだ。

さらにトランプ氏による中国製品への関税が上乗せされることで、行き場を失った中国車が世界中の市場で販売攻勢をかけてくる可能性が高い。当然、日本車の海外販売に影響は出てくる。

中国と米国という2大市場で販売が伸び悩むと、ホンダと日産の両社の収益は大幅に悪化する。一方、日本国内はダイハツと日野自動車を除くトヨタ自動車<7203>本体が新車販売シェアの33.0%を占め、12.4%のホンダ、10.4%の日産を大きく引き離している。

販売面で苦境に直面するホンダと日産には、経営統合するしか道がないのは自明の理だ。この年末のタイミングで両社が経営統合を決断した背景に、「トランプ復活」による関税強化の懸念があったのは間違いないだろう。

文:糸永正行編集委員

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