NTTドコモが“銀行空白”状態をついに解消する。住信SBIネット銀行を買収することになったためだ。
金融サービスをフルに提供へ
NTTドコモが5月29日に買収を発表した住信SBIネット銀行は2007年に開業した。預金残高は約10兆円で、インターネット専業銀行として楽天銀行(3月末11兆4763億円)に次ぐ。
ドコモはこれまで証券会社、カードローン会社を買収してきたが、銀行を傘下に取り込むことで、金融機能のフルサービス体制を整える。スマホ一つで、預金の受け入れから、決済(d払い、dカードなど)、証券投資、保険、ローン、ポイント(dポイント)付与までをまとめて提供できるようになる。
住信SBIネット銀行は三井住友信託銀行とSBIホールディングス(HD)を母体とし、両社がそれぞれ株式の34.19%を保有する。ドコモはTOB(株式公開買い付け)で一般株主が保有する約32%の株式を取得したうえで、SBIHDの保有分をすべて買い取り、持ち株比率を65.81%とする。
三井住友信託銀は34.19%の持ち株比率を維持し、大株主として残る。買収完了は2026年1月をめどとし、住信SBIネット銀の東証スタンダード市場への上場は廃止となる。
銀行・証券をそろえ、周回遅れを挽回へ
1年8カ月前にさかのぼる。NTTドコモはネット証券大手のマネックス証券を買収すると発表したのは2023年10月。買収額は約485億円で、翌2024年1月4日付で子会社化した。この1月に新NISA(少額投資非課税制度)のスタートを控え、銀行・証券、通信が入り乱れて個人投資家の囲い込みが過熱する中、ぎりぎりセーフのタイミングで金融事業に本格的に乗り出したのだ。
当時、KDDIはauじぶん銀行、auカブコム証券(現三菱UFJeスマート証券)、ソフトバンクはPayPay銀行、PayPay証券、楽天グループは楽天銀行、楽天証券をそれぞれグループに抱えていた。
これに対し、ドコモはグループ内に銀行・証券を持たず、金融事業で大きく出遅れていた。マネックスを子会社化し、スマホ決済とのサービス連携やポイントの共有化などを進めてきた。しかし、それでも周回遅れは決定的だった。
携帯大手はスマホと決済サービスやポイントをリンクさせた金融サービスを軸に独自の「経済圏」を競っているが、ドコモだけが銀行を擁していなかったからだ。自前での銀行機能を欠き、金融サービスの広がりに制約が否めなかった。
◎携帯大手4社の主な「経済圏」

※auカブコム証券は三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)との提携関係見直しに伴い、MUFGが2025年1月に100%子会社化。ただ協業は継続。
非通信事業のサービス拡大に力
ドコモはマネックス証券に続き、2024年3月にオリックス傘下でカードローン事業を手がけるオリックス・クレジット(25年4月にドコモ・ファイナンスに社名変更)を約792億円で買収した。ドコモは個人向け無担保ローンとして「dスマホローン」を提供してきたが、その業容拡大を狙いとした。
保険については日本生命保険グループや東京海上グループと連携し、医療保険や自動車保険、賃貸火災保険などの各種生損保商品を提供。保険料の支払いでdポイントがたまる。
携帯各社は契約者の頭打ちなど国内市場の飽和を受け、金融以外でも非通信事業のサービス拡大に力を入れている。
KDDIは昨年8月、コンビニ大手のローソンに50%を出資。5000億円規模のTOBを行い、元々の親会社だった三菱商事との折半出資による共同経営に乗り出した。携帯大手でコンビニを持つのは初のケースで、「au経済圏」の間口と奥行きを広げるのが狙いだ。
ドコモ自身も2023年、市場調査最大手のインテージホールディングスを子会社化した。インテージが持つデータ集計・分析や可視化のノウハウと、ドコモの顧客基盤から得られる行動データを組み合わせ、新サービスの提供を目指す。
SBIホールディングス、NTTと資本業務提携
一方、住信SBIネット銀行の経営に対する関与がなくなるSBIHDは今回、ドコモ親会社のNTTとの資本業務提携を決めた。
NTTはSBIHDが実施する第三者割当増資を引き受け、約1108億円を出資して同社株式の8.18%を取得する運びだ。新たな金融サービスやシステムの開発などで協力を進める。

SBIHDは傘下にネット証券最大手のSBI証券、SBI新生銀行(旧日本長期信用銀行)、保険持ち株会社のSBIインシュアランスグループなどを抱える。SBIHDはSBI新生銀行に残る公的資金(約2300億円)の返済を懸案事項としており、NTTとの資本提携や住信SBIネット銀の売却で得られる資金を充当するとみられる。
◎NTTドコモをめぐるM&A関連の主な動き(カッコ内は買収額)

文:M&A Online
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