
ゼネコン大手の大林組<1802>は2025年11月中旬以降に、クリティカルエンバイロメント分野(研究施設、データセンター、病院、工場などの高度な環境管理が要求される施設)に強い、米国の建設会社GCON(アリゾナ州フェニックス)と、グループ会社2社(同)を子会社化する。
米国で住宅や病院、教育施設などの建設事業を手がける傘下のウェブコー(カリフォルニア州サンフランシスコ)を通じて実施する。
米国で急成長しているクリティカルエンバイロメント分野に本格参入するとともに、ウェブコーの拠点であるカリフォルニア州に隣接するアリゾナ州に事業領域を拡大することで、大林グループの企業価値向上につなげる。
AIの普及で需要が拡大
GCONは、アリゾナ州やニューメキシコ州など米国10州で、データセンターや半導体製造、ヘルスケア、航空、商業、高等教育、公共事業などの分野で建設事業を展開しており、2024年の売上高は約3億2500万ドル(約487億円)だった。
半導体製造施設の改修工事実績で高い評価を得ているほか、コロケーター(複数のユーザーがスペースを共有し、サーバーやネットワーク機器などを設置するデータセンター)向け施設の建設でも多くの実績を持つ。
米国のデータセンターや半導体製造施設などの建設、改修などの需要は、AI(人工知能)の普及によって拡大しており、今後も成長が見込まれている。
またGCONが拠点を置くアリゾナ州をはじめとする米国の南西部は、こうした施設の集積地として投資が活発化しているという。
大林組は、日本やアジア諸国でクリティカルエンバイロメント分野での施工実績を持っており、GCONの現地ネットワーク、顧客基盤、施工実績を活用し、急成長する米国のクリティカルエンバイロメント分野に本格参入することにした。
非建設事業のM&Aを含む参入戦略を実行
国内の建設市場は、老朽化インフラの改修や維持管理に対する需要が拡大しているほか、サプライチェーンの強靭化政策などによる民間工事の増加などもあり、当面は底堅い受注環境が見込まれる。
ただ将来は人口減少により、建築市場が縮小することが予想されるため、海外市場開拓の動きが見られる。
大林組などの大手ゼネコンが会員の海外建設協会がまとめた海外工事受注実績によると、受注額はコロナ禍の2020年に大きく落ち込んだあとは急速に回復しており、2023年度、2024年度は2年連続で過去最高を更新した。
大林組は海外での事業拡大に力を入れており、直近では2023年に水処理関連施設を主力とする米国の大手建設会社であるMWH US Acquisitions, Inc.を子会社化。これに先立つ2011年にもカナダで土木工事を手がけるKenaidan Group Ltd.を子会社化した実績がある。
同社では2025年8月に公表した「コーポレートレポート 2025(統合報告書)」の中で、アジアについて「強化対象国を絞り込み、非建設事業のM&Aを含むエリアごとの参入戦略を実行していく」としており、今後もM&Aには力を入れる計画だ。
大林組のほかにもゼネコン大手では、鹿島<1812>が2022年にシンガポールの不動産企業セントラル・キャピタルを子会社化しており、中堅ではトーエネック<1946>が2024年にタイの電気、空調管工事のトライエンを、東洋エンジニアリング<6330>がブラジルのエンジニアリング企業TSPIをそれぞれ子会社化している。
MWHの子会社化などで2ケタの増収
大林組では構想力(コンサルティング力、エンジニアリング力)、実現力(施工力)、人間力(人材力)の三つを自社の強みとして位置付けており、総売上高の95%ほどを占める建設事業を中心に、3%ほどの不動産事業、2%ほどのその他事業(ソフトウエア開発、販売、再生可能エネルギー発電事業など)で事業を構成している。
2025年3月期は売上高2兆6201億100万円(前年度比12.7%増)、営業利益1434億4200万円(同80.7%増)と好調に推移した。
国内建設事業で大型工事の進捗やMWHの子会社化などで2ケタの増収となったのに加え、国内建設事業で好採算案件への入れ替えや追加請負金の獲得などで、2倍近い営業増益となった。
2026年3月期は、大型工事が竣工したことによる反動や施工キャパシティに見合った計画的な受注活動などにより、売上高は2兆5600億円(同1.2%減)、営業利益1220億円(同14.4%減)を見込む。

文:M&A Online記者 松本亮一
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