建設・不動産業界のM&A、2025年は件数増も金額は減少か?海外案件も低調

2025年の建設・不動産業界におけるM&Aは、件数では前年の2024年を上回る勢いを見せている一方で、取引総額は大幅に減少している。上場企業に義務づけられている東証の適時開示によると、2025年1月から5月までの5カ月間に公表されたM&Aは25件に達し、年間換算では60件に相当する。

これは前年通年件数(43件)から約4割増のペースだ。

事業拡大を目的としたM&Aが続々

一方、取引総額は約875億円にとどまり、年間換算では約2100億円。2024年の約1兆3000億円と比べると、実に84%減となる計算だ。この「件数増・総額減」という傾向は、金利上昇や資産価格の高騰を受けて、企業が大型投資を控え、小規模かつ戦略的なM&Aに軸足を移している可能性がある。

2025年の特徴として注目されるのは、既存事業の強化を目的とした子会社化の増加だ。大東建託<1878>は、東京都心を中心にマンション開発を手がけるアスコット<3264>をTOB(株式公開買い付け)により完全子会社化。取得価額は351億円で、今年に入ってから最大の国内案件となっている。アスコットは分譲・賃貸マンションに加え、収益不動産投資など幅広い開発実績を持ち、大東建託が掲げる不動産開発強化方針と合致する形だ。

同様に、三井住友ファイナンス&リースは、物流施設開発を手がけるシーアールイー<3458>の長期的な成長投資に向けたMBO(経営陣による買収)に参画した(取得価額217億円)。住友林業<1911>も、東京・大阪圏を中心に賃貸マンション開発を展開するLeTech<3497>をTOBにより取得した(同88億円)。いずれも取引総額は中規模ながら、事業拡大を目的としたM&Aである。

地域密着型企業の買収が活発化

地域密着型企業を買収する動きも見られる。オープンハウスグループ<3288>は、埼玉・東京北部で戸建て住宅やリフォーム事業を展開する永大ホールディングスを買収した(同非公表)。

コロンビア・ワークス<146A>は、沖縄県で不動産開発を手がけるACSホールディングスを買収し(同)、同県での事業拡大を図った。

インバウンドをはじめとする観光客需要を背景に成長余地のある沖縄市場に布石を打つ動きである。

首都圏で戸建てやマンションの買い取り再販事業を展開しているLivenup Groupは、横浜市を地盤に賃貸管理業を手がけるジーエーコンサルタントを買収した(同非公表)。その後、同社はグッドコムアセット<3475>によって子会社化されており(同17億9000万円)、地域密着型企業をめぐる連鎖的な再編も見られる。

非中核事業の切り出しとベンチャーへの譲渡も進展

事業再構築の一環として、非中核の建設・不動産事業をベンチャー企業や専門事業者に譲渡する動きも。

伊藤忠商事<8001>は、長野県や和歌山県で展開していた別荘地管理事業を不動産ベンチャーのMirai Nihon Venturesに譲渡した(同 非公表)。Mirai Nihon Venturesは那須塩原で別荘地管理を手がけており、収益性の高い管理業務の規模拡大を図る。

三菱HCキャピタル<8593>は、インドネシアの物流施設賃貸子会社の株式を大和ハウス工業の現地子会社に譲渡(同36億円)。大和ハウスは現地事業の統合による効率化を目指している。

And Doホールディングス<3457>は子会社が手がける賃貸管理・修繕工事事業を、アパート・マンションの建築請負や運営・管理、コンサルティング事業を手がけるアーキテクト・ディベロッパーに譲渡し(同 非公表)、主力であるハウス・リースバック事業への集中を進めている。

海外案件は低調、国内再編が活発化するか?

2024年には、積水ハウスによる米M.D.C.の買収(約7700億円)や、ヒューリックによる香港ファンド傘下のレーサム買収(1735億円)といった大型案件をはじめ、5件の海外企業買収があった。これに対し2025年は現時点で飯田グループHD<3291>による米アトランタの住宅会社Patrick Malloyグループの子会社化(約83億円)1件のみと、件数・金額ともに低調だ。

2024年は少子高齢化による国内市場の縮小を見越して、建設・不動産業界ではIN-OUT型の海外企業買収が活発だった。しかし、2025年に入り「トランプ関税」による米国発の世界的な景気後退リスクが顕在化したことで、不動産業界のクロスボーダーM&Aは「様子見」局面に入っている可能性がある。

一方で、国内建設・不動産市場の中・長期的な縮小は避けられないことから、前述のように国内での事業拡大や地域密着型企業のM&Aが加速する可能性もある。

その場合、件数の増加に反して案件規模が小口化する傾向は、6月以降も続きそうだ。

2025年1月~5月の建設・不動産業界のM&A(取引総額順)

公表日案件内容取引総額(億円) 1月31日 大東建託<1878>、不動産開発事業のアスコット<3264>をTOBで子会社化 351.5 1月28日 三井住友ファイナンス&リース、シーアールイー<3458>をTOBで子会社化 217.1 3月28日 住友林業<1911>、不動産開発のLeTech<3497>をTOBで子会社化 88.8 4月7日 飯田グループホールディングス<3291>、住宅開発の米国Patrick Malloyグループの事業会社を子会社化 82.6 2月28日 三菱HCキャピタル<8593>、傘下の三菱HCキャピタルエステートプラスを通じて岡山空港南開発特定目的会社を子会社化 40.5 2月21日 三菱HCキャピタル<8593>、物流施設賃貸のインドネシア子会社HCD Properti Indonesiaを大和ハウス工業<1925>の現地子会社に譲渡 36 4月10日 長谷工コーポレーション<1808>、ウッドフレンズ<8886>をTOBで子会社化 25.1 5月28日 グッドコムアセット<3475>、不動産業のLivenup Groupを子会社化 17.9 2月17日 北浜キャピタルパートナーズ<2134>、レンタル倉庫「収まるくん」展開のNo.1都市開発を子会社化 11.5 2月20日 キムラタン<8107>、不動産特定共同事業のSwanStyleを子会社化 2 3月27日 キムラタン<8107>、不動産賃貸業の九建機材を子会社化 1.6 3月17日 アーキテクツ・スタジオ・ジャパン<6085>、不動産業のトルネードジャパンを子会社化 0.6 5月12日 日本アジア投資<8518>、不動産業のブルームデベロップメントを子会社化 0.07 3月11日 バルニバービ<3418>、淡路島プロジェクトの不動産開発会社エナビードゥーエを子会社化 0.001 3月19日 エンゼルグループ<5534>、大林組<1802>から静岡県東伊豆町の別荘地管理事業を取得 0.00000001 4月18日 Livenup Group<2977>、不動産仲介・賃貸管理のジーエーコンサルタントを子会社化 3月17日 ユカリア<286A>、不動産相続コンサルティングなどのGplusを子会社化 3月12日 ベステラ<1433>、株式の流動性向上を目的に創業家の資産管理会社TERRA・ESHINOを子会社化 2月28日 丸紅<8002>と第一生命ホールディングス<8750>、国内不動産事業を7月1日に統合 2月27日 オープンハウスグループ<3288>、戸建住宅・リフォーム事業の永大ホールディングスを子会社化 2月7日 スペースマーケット<4487>、関西エリアを中心にパーティー向けレンタルスペースを運営するエミーナを子会社化 2月6日 And Doホールディングス<3457>、子会社が手がける賃貸管理・仲介・修繕工事事業をアーキテクト・ディベロッパーに譲渡 1月21日 伊藤忠商事<8001>、別荘地管理事業を不動産関連投資・ベンチャー投資のMirai Nihon Venturesに譲渡 1月21日 コロンビア・ワークス<146A>、不動産開発のサンクス沖縄を傘下に持つACSホールディングスを子会社化 1月9日 フォーシーズHD<3726>、投資会社のネクスタから太陽光発電所3物件の土地権利を取得

*空欄は取引総額非公表

文:糸永正行編集委員

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