米アマゾンは2026年1月、無人レジ店舗「Amazon Go」と食品スーパー「Amazon Fresh」の実店舗を原則閉鎖し、一部店舗を傘下の高級スーパー「Whole Foods Market」へ転換すると発表した。閉鎖対象はAmazon Freshが約57店舗、Amazon Goが約15店舗、合計70店超で、多くの店舗は2月1日が最終営業日となる。
実験店舗から脱することができなかった
Amazonの説明は明確だ。「大規模展開に必要な差別化された顧客体験と持続可能な収益モデルを確立できなかった」。つまり、実験店舗としては成立したものの、全米規模で拡張できる小売の「勝ちパターン」を作れなかったという判断である。
「Amazon Go」は都市部オフィス街の小型店舗(店舗面積100~200㎡程度)が中心で、即食・飲料・日用品を扱う「次世代型コンビニ」という立ち位置。一方「Amazon Fresh」は、郊外型の中規模スーパー(同約2000~3500㎡)で、生鮮食品から日用品までを扱い、ウォルマートやクローガーに対抗するストアだった。
両店舗ともにITを利用した自動化・省力化がセールスポイントだったため、センサーやカメラ、AI(人工知能)認識システムなどの初期設備投資が高額で、加えて都市部の高い賃料負担も重なり、採算ラインに到達しなかったようだ。
テック主導の小売改革は不発に
Amazon Goは2018年、シアトルで1号店をオープン。最大の特徴は「Just Walk Out」と呼ばれる無人決済技術だ。入店時にアプリで認証し、商品を手に取ってそのまま退店すれば、自動的に決済される。アマゾンはこの仕組みを「次世代小売の標準」と位置づけ、後にニューヨークやシカゴなど主要都市のビジネス街に展開した。
ターゲット層はタイパ(タイムパフォーマンス=時間対効果)を重視するビジネスパーソン層。「レジ待ちゼロ」の利便性で、従来のコンビニに対抗する構想だった。
Amazon Freshは、オンライン食料品配送事業と連動する「オフライン拠点」として構想。
技術は先進的だったが、ビジネスとしては未完成
世界でも最先端のIT技術を投入しながら失敗した理由は、Amazon自身が認めているように「顧客体験が十分に差別化できなかった」点だ。Amazon Goのレジなし体験は新鮮で話題性こそ高かったが、実際の利用頻度を大きく押し上げるほどのキラー機能にはならなかった。
Amazon Freshも、「価格が特別に安い」「品揃えが圧倒的」といった独自の強みを打ち出せず、既存スーパーとの競合において苦戦した。
外部から指摘されているのがコスト問題だ。Amazon Goは数百台規模のカメラ、重量センサー、AI演算システムを店舗ごとに導入する必要があり、通常のコンビニより設備投資額が大きく跳ね上がった。
加えて、都市中心部の高額賃料が固定費としてのしかかり、「技術投資と家賃コストが大きな負担となり、採算に合わなかった」と、Amazon関係者も認めている。
Amazon Freshはウォルマートやクローガー、コストコといった圧倒的な価格競争力を持つ既存の大手小売と正面衝突していた。食品小売は利益率が薄く、物流効率とスケールが勝敗を分ける分野だ。オンラインで優位を築いたAmazonでも、これらの流通大手をリアル店舗で圧倒するにはスケールが足りなかった。
本来ならば、こうしたライバルが存在しない地域でドミナント展開すべきだった。しかしアマゾンは、ECで培った圧倒的なIT技術と自社ブランド力を過信して都市部を中心に出店したため、ライバルとの激しい競合にさらされてしまった。
アマゾンの実店舗は「撤退」ではなく「再集中」
今回の決定は、実店舗からの完全撤退ではない。アマゾンは「勝ち筋」が明確な分野へ経営資源を集中させる戦略に切り替えた。
第一の柱は「Whole Foods」だ。2017年に買収した高所得層向けオーガニック市場でブランド力を持つ同社を軸に、今後数年で100店舗以上の新規出店を計画している。
第二はオンライン生鮮配送だ。Same-Day(同日)配送網を全米に拡張し、リアル店舗は物流ハブやブランド拠点として位置づけ直す。
Amazon Goで培った無人決済技術は、自社店舗よりも他社小売業者への技術提供や空港・スタジアム・オフィス内売店などB2B(企業間取引)用途への展開が中心になる見通しだ。
Amazon GoとAmazon Freshの失敗は、最先端技術を持つIT企業でも、リアル店舗の経済性は別次元の難しさがあることを示した象徴的な事例だ。
日本でもAmazon Go型モデルは早くから注目され、コンビニ各社が無人決済・省人化実験を進めてきた。しかし、アマゾンの撤退は「技術的に可能=ビジネスとして成立」ではないことを明確に示した。
特に日本は、既存コンビニ網が極めて高密度かつ高効率で、人件費も相対的に抑えられている。
文:糸永正行編集委員
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