日本を代表する半導体メーカーのルネサスエレクトロニクス<6723>(東京都江東区)は、2010年に三菱電機と日立製作所の半導体事業を統合したルネサステクノロジと日本電気(NEC)の子会社、NECエレクトロニクスが合併して誕生した。
「To Make Our Lives Easier(人々の暮らしを“ラク”にする)」を存在意義に掲げ、企業理念に「夢のある未来をつくる企業」を標榜して、マイコンやシステムLSI、アナログ&パワー半導体の三つの製品群を“柱”に、自動車や産業機器、家電、情報通信など幅広い分野に製品を供給。
そんな同社も一時は経営危機を経験。積極的な「選択と集中」による事業再編と大型の成長戦略型M&Aを手がけることで、グローバルカンパニーとしての地歩を築いた。その軌跡と成果をみる。
非コア事業の売却とコア事業の強化
設立当初から、ルネサスエレクトロニクスは国内の半導体市場の縮小や中国をはじめとする国際的な価格競争の激化、円高による収益圧迫など厳しい経営環境に直面し、継続的な赤字と財務基盤の脆弱化で苦しんでいた。2013年、政府系ファンドの産業革新機構(現 INCJ)が約69%の株式を取得。事実上の国有化に乗り出したのを契機に、ルネサスは抜本的な経営改革に着手した。
事業ポートフォリオの再編では、経営資源の「選択と集中」を徹底。大規模なリストラ策として人員削減や工場の閉鎖・譲渡を実行し、非コア事業や不採算事業の売却と資本増強、組織改革を徹底的に進めた。これにより、コア事業への投資を強化。財務体質の改善と経営の効率化を図った。特に、自動車、産業機器、インフラ、IoT(モノのインターネット)の分野を成長基軸と位置付け、資源を集中投下する戦略を明確に打ち出したことで、収益構造の改善とグローバル展開の基盤を整えた。
例えば、ルネサスハイコンポーネンツをアオイ電子に譲渡したほか、セミコンダクタ(半導体)事業を手がけるルネサス北日本とルネサス関西、ルネサス九州の組立・検査工程(函館・福井・熊本工場)と北海電子の製造支援事業を、ジェイデバイス(現 アムコー・テクノロジー・ジャパン)に譲渡。
こうして子会社や関連事業の統廃合・売却を相次ぎ断行したことで、固定費の削減と資産効率の向上を実現。加えて、半導体技術とソフトウエアの統合によるプラットフォーム化を推進して製品の差別化を図ったことが、収益構造の転換と中長期的な競争力の強化に寄与した。
成長戦略型M&Aの海外展開
政府系ファンドによる実質国有化からの復活を目指して、2017年以降、本格的に着手したのが成長戦略型M&Aだ。国内事業に一定の目途をつけると、グローバル展開へと舵を切った。
同年に米インターシル(Intersil Corporation)の買収でアナログ&パワー半導体技術を獲得し、製品群を拡充。2019年には米半導体企業のIDT社(Integrated Device Technology)を買収して通信や産業機器、IoT向けの先進技術やセンサー技術を入手した。
2021年、英ダイアログ・セミコンダクター(Dialog Semiconductor)の買収では低消費の電力技術やモバイル向けソリューションなどを、2022年には米リアリティAI(Reality AI)やインドのステラディアン・セミコンダクターズ(Steradian Semiconductors)の買収で、AIアルゴリズムやミリ波レーダー技術、電子設計ソフトウエア、IoT通信技術などを獲得。さらに、ソフトウエア企業の米アルティウム(Altium Limited)の買収を2024年に完了。電子機器設計への参画を容易にしたほか、多様な分野への対応力を強化した。
一方、ルネサスは2024年にセルラーIoT向けの無線チップやモジュールを手がける仏セカンス・コミュニケーションズ(Sequans Communications)を買収しようとしたが、想定外の税負担が生じたことを理由に断念。2026年2月にはルネサス のタイミングデバイス事業を、米サイタイム(SiTime Corporation)に30億米ドル(約4680億円)で売却すると発表した。
もともと、同社のタイミングデバイス事業は2019年に米IDT社を買収して獲得したもので、それ以降、無線インフラやAI(人工知能)、データセンターの需要拡大、産業用市場に向けて、クロックジェネレータやクロックバッファ、ネットワークシンクロナイザなどの製品を提供してきた。
“実質国有化”後、同社は非コア事業の売却を進めた。IDT社の買収から7年が経ち、タイミング事業やディスクリート(個別半導体)事業を整理することで、コア事業である自動車や産業機器、インフラ、IoT分野に向けて再投資する“道筋”をつけた。今回の事業売却は2026年末までに完了する見通しで、ルネサスが得る売却資金は成長投資や株主還元に充てるとしている。
また、同社とサイタイムは、サイタイムのMEMS(微小電気機械システム)共振器をルネサスのマイコンやSoC製品(System on a Chip=スマートフォンやタブレット、IoT機器、スマート家電等)などの組み込みプロセッサに統合するパートナーシップを検討するための覚書(MOU)を締結。ルネサスのコンピューティング技術とサイタイムのMEMSタイミング技術を統合したソリューションの共同開発を目指す。
真の「グローバルカンパニー」への第一歩
これまでの海外M&Aは単なる事業規模の拡大だけではなく、アナログ&パワーや情報通信、IoT分野の技術力の強化や製品ポートフォリオの最適化、顧客価値の向上といった戦略的な意図に基づいており、M&Aによる技術融合と製品ラインアップの拡充が売上高や海外売上比率の向上を後押し。グローバル競争力の強化に大きく寄与している。
なかでも、自動車向けの車載用半導体は、グローバル自動車メーカーとの連携強化、先端安全技術や電動化、自動運転技術への対応を急ぎ求められるなか、ルネサスの半導体製品は重要な役割を果たしている。加えて、産業機器やインフラの分野ではIoT関連製品やエネルギー管理など新たな領域への展開を進めたことで、産業用半導体といった成長分野での競争力が高まり、欧米市場での存在感が増している。
そうしたなか、2023年11月にはINCJが保有するルネサス株をすべて売却し、実質的な国有化から脱却。2024年1月、旧親会社のNECと日立製作所が、同2月には三菱電機が保有する全株式を売却。
現在、ルネサスは世界30か国以上で事業を展開。「選択と集中」による事業再編や成長戦略型M&Aを通じてグローバルなネットワークと多様な技術を獲得してきた。半導体産業は国の経済安全保障、AIやデータセンター需要の拡大などを背景に重要性が増しており、今後はマイクロコントローラやSoC製品などの次世代半導体市場でのリーダーシップの確立が持続的成長のカギとなりそう。
ただ、課題もある。
M&A後のシナジー(相乗効果)の創出や人材確保、迅速な意思決定などの成長戦略に伴う課題に加え、中東における紛争リスクや米中対立、ウクライナ情勢など、激化する地政学リスクやサプライチェーンの混乱といった外部環境は成長戦略の阻害要因になる。
M&Aによる事業拡大は、一方で経営資源の分散やリスク管理の複雑化も招いているのだ。ルネサスは今後も事業ポートフォリオの見直しと「選択と集中」の継続、経営資源の最適化とリスク管理の高度化が求められている。
文・髙橋べん(ライター)
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