【2026年小売】人口減少社会を見据えて店舗の在り方に変化、食を巡る競争がM&A誘発要因に

2025年の小売業界で大きな動きがあったのは、総合スーパーや食品スーパー、ドラッグストアだ。これら小売は、M&AがM&Aを生む競争激化のスパイラルに突入している。

背景には、Eコマースの普及によるリアル店舗の役割の変化や、少子高齢化により郊外の大型店舗や広域な商圏を前提としていた従来のビジネスモデルが限界を迎えているといった要因がある。

M&Aは単なる規模拡大ではなく、時代に合わない店舗フォーマットからの撤退と、顧客の生活圏に適応するためのフォーマットの再定義に他ならない。

出店戦略に大きな変化

従来の大型店舗フォーマットや広大な商圏を前提としたビジネスモデルが限界に直面しつつあることを示す一事例として、セブン&アイ・ホールディングスによるスーパー事業のヨークHD売却(取引総額8147億円)が挙げられる。

計30社が米投資ファンドのベインキャピタル傘下で再成長を図ることとなったが、この取引の本質は、不振が続いていた基幹事業の一つ、総合スーパーのイトーヨーカ堂をグループから切り離し、本業のコンビニに経営資源を集中させること。この事業の切り離しは、大手企業が長年続けてきた既存の店舗フォーマットには限界があることを示唆し、業界全体で構造転換の必要性を改めて認識するきっかけとなり、総合小売モデルからの脱却と専門特化・機動型経営への構造転換を加速させる象徴的なメッセージとなった。

他方で、時代のニーズに合わせた大型M&Aもあった。トライアルHDによる西友の買収(買収総額3826億円)はその代表例だ。九州に地盤を持ち、郊外で展開するスーパーセンターに強みを持つトライアルが、関東の都市部で展開する西友を獲得。その西友・既存のトライアル店舗を軸に、小型店舗のトライアルGOをサテライト出店して、エリアシェアを高めるドミナント戦略を目指す。駅近、都心部において、単身世帯、共働き世帯、高齢単身世帯の増加を見越しての戦略となる。

また、イオンはイオンモールを完全子会社化。様々な生活必需品をワンストップで購入できるNSC(ネイバーフッド・ショッピングセンター)などのマルチフォーマットを活用し、地域の不動産・マーケット情報を共有することで、よりエリア特性にきめ細かく対応できるショッピングセンターの出店をめざす。

激化する「食」を巡る商圏浸食戦争

競争激化のもう一つの要因は、食品を巡るワンストップ化競争だ。

生活必需品である食品は、顧客を店舗に引き寄せる「マグネット商材」としての役割を持つ。

ドラッグストアにとって、店舗構造が似通ったスーパーマーケットは格好のM&A対象で、盛んに買収が行われている。スーパー自体も、物流費や燃料費の高騰など、コストダウンを図るために同業を買収する動きが盛んだ。バローHDは、高コスト環境への対応として、主力事業であるスーパーマーケット事業の基盤強化と収益改善のため、ドミーを完全子会社化。買収総額は51.8億円。商品の共同調達によるコスト削減や物流センター等の流通機能の共通化によるコスト削減を企図している。

マグネット商材の食を巡るなかで、今後注目されるのは、コンビニの動向だ。セブン-イレブンの「SIPストア」は生鮮食品に力を入れたコンビニとスーパーのハイブリッド型店舗で、高齢化による調理定年の増加や、共働き世代のタイムパフォーマンスニーズに対応し、自宅近くで買い物を完結させる地域密着のワンストップモデルを志向している。ドラッグストア、食品スーパーの間に割って入り、消費者ニーズをつかむことになれば、ドラッグストア、スーパーにとって脅威となる。さらなる規模拡大のM&Aを誘発するか注目される。

【2026年小売】人口減少社会を見据えて店舗の在り方に変化、食を巡る競争がM&A誘発要因に
2025年 総合スーパー、食品スーパー、ドラッグストアの 主なM&A(適時開示ベース)

文:市橋明季

【M&A速報、コラムを日々配信!】
X(旧Twitter)で情報を受け取るにはここをクリック

【M&A Online 無料会員登録のご案内】
6000本超のM&A関連コラム読み放題!! M&Aデータベースが使い放題!!
登録無料、会員登録はここをクリック

編集部おすすめ