ストライク<6196>は2026年1月14日、「時価総額100億円時代の上場戦略」と題したセミナーを開催した。東京証券取引所のグロース市場における上場維持基準の変更を背景に、IPOを目指す企業や既存の上場企業にとって、市場選択はこれまで以上に重要な経営課題となっている。
第一部 IPOとM&Aで描く成長戦略:エスネットワークス高畠氏・ストライク荒井社長
第一部では、エスネットワークス<5867> 代表取締役社長の高畠義紀氏と、ストライクの荒井邦彦社長が登壇。最新のIPO・M&A市場の動向を踏まえ、時価総額100億円を目指すための新たな成長戦略について議論した。
IPO市場の現状とM&A活用の重要性
高畠氏はまず、2025年のIPO市場を振り返った。IPO社数は前年の86社から66社へと減少し、その多くがグロース市場の銘柄であったことを指摘。これは東証グロース市場の上場維持基準変更が影響している可能性を示唆した。
一方で、活況を呈しているのがM&A市場だ。荒井社長は、上場企業によるM&A件数が2012年以降、右肩上がりで増加しているデータを提示。特に、経営陣が自社の非公開化を選択するMBO(マネジメント・バイアウト)の増加が顕著であると述べた。
こうした市場環境の変化を受け、高畠氏は今後の上場戦略として3つの選択肢を提示した。
荒井社長は、「かつては東証を目指す企業が多かったが、今は多様な選択肢がある。時間をかけてでも企業規模を大きくしてから上場するのか、あるいは早期のエグジットを目指して地方市場やプロ向け市場を活用するのか。自社の成長戦略と時間軸に合わせて最適な道を選ぶべきだ」と語り、起業家にとって選択肢が広がっていることを強調した。
第二部 市場を活用する成長戦略:全国4証券取引所によるセッション
第二部では、PUBLIC GATE合同会社の村田雅幸氏をモデレーターに迎え、東京、札幌、名古屋、福岡の4証券取引所の担当者によるパネルディスカッションが行われた。グロース市場の「時価総額100億円」基準がもたらす影響と、各市場の特色を活かした成長戦略について活発な議論が展開された。
東証 吉田氏:グロース市場改革の真意とスタンダード市場の今後
東京証券取引所の上場推進部課長である吉田明広氏は、市場改革の最新動向を解説した。
2022年の市場区分見直し後もフォローアップ会議を継続し、プライム市場では「資本コストや株価を意識した経営」を要請。9割以上の企業が対応し、株価パフォーマンスの向上にも繋がっていると成果を語った。
続いて、本セミナーの核心であるグロース市場の改革について言及。上場後に時価総額が10倍以上に成長した企業が5%に留まっている現状を課題とし、「上場後も高い成長を意識した経営を継続してほしい」というメッセージを込めて、上場維持基準を「上場5年経過後から時価総額100億円以上」へと変更したと説明した。
「100億円という数字は、機関投資家が本格的に投資対象として検討し始める最低ラインとして議論の中から出てきたものです。グロース市場が本来のコンセプトである『高い成長可能性を有する企業向けの市場』として機能するための施策です」(吉田氏)
また、スタンダード市場については、「現時点で具体的な制度変更は決まっていない」としながらも、より良い市場にしていくためのブラッシュアップは必要との認識を示した。まずは「資本コストや株価を意識した経営」の要請への対応を促すなど、ソフト面での働きかけから進めていく方針を明らかにした。
札証 大畑氏:「地元重視」と新プロ向け市場への挑戦
札幌証券取引所の新事業推進部長兼上場推進部長である大畑周司氏は、「地元重視かつ個人投資家中心」という札証の特色を強調した。国内で唯一、地元官民の出資で設立された歴史的背景から、北海道関連企業などとの結びつきが強い。
札証は本則市場と新興のアンビシャス市場の2つで構成され、特にアンビシャス市場は70%(2012年地元要件導入後は100%)が北海道に所縁のある企業で占められている。
さらに、新たな取り組みとして、2026年春頃にプロ向け市場「Sapporo PRO Frontier Market」の開設を予定していることを発表。「再エネやデジタルインフラといった北海道の地域特性を活かしたプロジェクトを支援し、ステップアップを促すための段階的な手数料体系などを導入する予定です」と、新市場への意気込みを語った。
名証 山田氏:「個人投資家重視」を貫き、スモールIPOからの成長を支援
名古屋証券取引所の上場推進担当課長(当時)である山田純史氏は、「個人投資家を重視する証券取引所」という明確なコンセプトを打ち出した。
その象徴的な取り組みが、30年以上の歴史を持つ個人投資家向けIRイベント「名証IRエキスポ」だ。2025年には過去最多の1万人が来場し、参加企業の個人株主数は非参加企業に比べて大幅に増加したというデータを提示。「純粋な個人投資家向けIR活動の成果が数字に表れています」と胸を張った。
また、時価総額25億円で名証に単独上場後、個人投資家向けのIR活動を粘り強く続けた結果、企業価値を高めて90億円規模で東証へ市場変更したASNOVA(アスノバ)<9223>の事例を紹介。「IPOはあくまで通過点。
福証 加來氏:「成長支援」を掲げ、プロ市場をステップアップの起点に
福岡証券取引所の常務執行役営業部長である加來英彦氏は、「企業の成長支援」をミッションに掲げ、西日本唯一の地域取引所としての役割を語った。
福証が今、最も力を入れているのが2024年12月に開設したプロ向け市場「Fukuoka PRO Market(FPM)」。「一般市場への上場はハードルが高いと感じる企業にとって、まずはFPMをステップアップの起点として活用してほしい」と加來氏は呼びかける。
過去には、福証の新興市場であるQ-Boardから東証グロース市場へステップアップし、時価総額を大きく伸ばした企業の事例もある。「Q-Board上場時に時価総額8億円だった企業が、グロース上場直前には28億円、現在では157億円にまで成長した例もあります。こうした企業をこれからも輩出していきたい」と、スタートアップの成長を後押しする強い意志を見せた。
質疑応答:多様化するIPO戦略、各市場のポジショニングとは
セッションの後半では、会場やオンラインから寄せられた多くの質問に各登壇者が答えた。
Q. グロース市場の100億円基準を満たせなくなった場合、地方市場とプロ向け市場のどちらを選ぶべきか?
吉田氏(東証)は、「まず東証内の選択肢としてスタンダード市場への市場変更があります。シームレスに移行できるよう制度を整備しています」と回答。その上で、スタンダード市場への移行が難しい場合の選択肢として、各地域の取引所やプロ向け市場が視野に入るとした。
Q. 地方取引所への上場では、大手証券会社や監査法人のサポートが得にくいイメージがあるが、実態は?
この質問に対し、各地域の取引所担当者は、主幹事証券や監査法人の紹介に積極的に協力していると口を揃えた。 山田氏(名証)は、「私たちがまずその会社の魅力を理解し、証券会社にご紹介します」と述べ、加來氏(福証)は、150社以上が登録する「IPOサポーター制度」を通じてマッチングを支援していると具体的な取り組みを紹介した。主幹事難民が問題となる中、地域取引所がハブ機能を果たしている実態が浮き彫りになった。
Q. 東証以外の市場では流動性に不安がある。VCとして投資回収は可能か?
山田氏(名証)は、「流動性は銘柄次第。名証単独上場でも1日の売買代金が1億円を超える日はあります。イメージが先行している部分もあるのでは」と指摘。さらに、「VCの方には、IPO時だけでなく、企業価値が高まった後のPO(公募・売出)でのエグジットも視野に入れてほしい。実際にそのようにして十分なリターンを得た事例もあります」と、長期的な視点での戦略を提案した。
Q. 各地域取引所の特徴を改めて教えてほしい。
セミナーの締めくくりとして、各取引所が改めて自社の強みをアピールした。
- 大畑氏(札証): 「地元重視と、新設するプロ向け市場でのコスト優遇措置が特徴。北海道マーケットへの展開を考える企業の足掛かりになりたい」
- 山田氏(名証): 「個人投資家重視。まずはファンの株主を見つけることが企業価値向上の第一歩。東京や大阪の企業にもぜひ選択肢として検討してほしい」
- 加來氏(福証): 「企業の成長支援。まずはFPMからスタートし、Q-Board、そして東証へとステップアップしていく企業を全力でサポートする」
- 吉田氏(東証): 「IPOは成長のためのツール。自社の戦略上、本当にIPOが必要か、どのタイミングで、どの市場が最適かを真剣に考えてほしい。グロースだけでなく、スタンダードやプロマーケット、そして本日登壇の各取引所など、多様な選択肢の中から自社に合う市場を選んでほしい」
モデレーターのPUBLIC GATE合同会社 村田雅幸氏は、「IPOは起業家にとって人生最大のロマン。今日の議論を参考に、ぜひ前向きに挑戦してほしい」と締めくくった。
まとめ
今回のセミナーは、東証の制度変更が単なる規制強化ではなく、日本の資本市場全体が企業の成長段階に応じた多様な選択肢を提供するエコシステムへと進化していく契機であることを明確に示した。時価総額100億円という一つのメルクマールを前に、スタートアップは自社の成長戦略を多角的に見直し、最適な上場ルートを模索する時代に突入したと言えるだろう。
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