長期化する「芝浦電子」の買収戦 台湾ヤゲオVSミネベアミツミ、軍配はどちらに?

温度センサーメーカーの芝浦電子をめぐる買収戦が長期化している。台湾電子部品大手のヤゲオ(国巨)が同意なき買収を発表したのは2月。

対抗して、精密部品大手のミネベアミツミがホワイトナイト(友好的買収者)として名乗りを上げたのは4月。両社によるTOB(株式公開買い付け)は5月に始まったが、延長に次ぐ延長で、いまだに勝敗が決していない。改めて今後の行方を展望する。

ミネベアミツミ、同額の6200円に引き上げ

ミネベアミツミは8月14日、芝浦電子に実施中のTOBについて、1株あたりの買付価格を5500円から6200円に引き上げると発表した。これにより、芝浦電子株の買付価格はヤゲオと同額になった。買付期間も8月28日まで延長した。

ミネベアミツミの提示額がこの3カ月の間、ヤゲオを700円下回る劣勢状態にありながら、価格を据え置いてきたのには理由がある。

本来であれば、好条件を提示したヤゲオが断然有利にTOBを進められるはずだが、当局による外為法(外国為替及び外国貿易法)の審査が長引き、買収への承認が得られていない。

このため、ミネベアミツミとしてヤゲオの買収が承認されない可能性を含め、事態の推移を見守るスタンスだった。

ではここへきて、なぜ、ミネベアミツミは買付価格の引き上げに動いたのか。外為法上の審査が2度延長になるのは異例中の異例とされる。審査がいよいよ最終段階を迎える中、待ちくたびれる芝浦電子の株主をつなぎとめるうえでも、ヤゲオと同条件の買付価格を提示する必要があったみられる。

ヤゲオ、外為法の審査が2度の延長

ヤゲオはこれまで2度、審査延長の通知を受けて現在、結果を待っている。9月1日までが当面の期間で、さらに延長があれば、最長で11月1日となる見通し。

審査期間は原則30日間で、最長5カ月と定められている。

ヤゲオは8月18日、買付期間をミネベアミツミと同じ8月28日まで延長するとともに、芝浦電子と製造拠点の相互訪問を通じた戦略的対話を進めることで合意したと発表した。第一弾として19日に芝浦電子がヤゲオの台湾・高雄にある工場を訪問。9月4日にはヤゲオが芝浦電子のタイ工場を訪ねる予定という。

6200円とする買付価格については今のところ据え置いたままだが、ミネベアミツミ側と同額となったことを踏まえて、買付条件の変更を検討するとしている。

外為法では国の安全保障上、重要な業種を指定し、外国企業が国内上場企業の株式を1%以上取得する際(非上場企業は1株以上の取得)に原則、政府への事前届け出を求め、審査の対象としている。

リスト改訂でコア業種に変更

財務省は全上場企業について事前届け出に該当するかどうかの目安を示すリスト(3分類)公表しているが、芝浦電子はどう分類されているのか。

7月15日公表の改訂リストによると、芝浦電子は指定業種のなかでも国の安全を損なうおそれのある「コア業種」に指定とされている。前回リスト(昨年9月改訂)では指定業種以外(事後報告業種)に分類されていたが、今回の改訂で事前届け出の対象である「コア業種」に変更された。

財務省は最新の会社の事業内容を反映するため、定期的に全上場企業に照会を行い、リストを改訂している。ヤゲオはリスト改訂に先駆ける形で、芝浦電子の事業の1部がコア業種に該当する可能性があるとみて事前審査を届け出ていた。

芝浦電子株価、買付価格を上回る高値圏

今後、買収戦を抜け出すのはヤゲオ、ミネベアミツミのいずれになるのか。当面の焦点は、6200円の買付価格で並ばれたヤゲオの出方だ。TOBを制するには相手側を上回る買付価格を提示することが必須となる。

しかも、芝浦電子の株価はミネベアミツミの買付価格引き上げを受け、先週末から6400円前後の高値で推移し、現状のままではヤゲオを含めて両社ともTOBへの応募が見込めない状況にある。

渦中の芝浦電子はヤゲオのTOBについて賛同か反対の意見を留保したまま。一方、ホワイトナイトのミネベアミツミのTOBには賛同を維持しながらも、買付価格がヤゲオを上回っていないことから株主には応募中立の立場をとる。

価格のつり上げ合戦に突入するのか?

ヤゲオ、ミネベアミツミの両社ともTOBに投じる金額は現状でも900億円超に上り、当初想定をすでに4割ほど上回る。この先、価格のつり上げ合戦に突入すれば、将来の投資回収が困難視されるなど、本体の企業価値を棄損しかねないリスクを負うだけに、“進軍”停止の判断を迫られる場面もありそうだ。

ちなみに、外為法に基づき外国企業による投資の中止命令が出たのは過去1度だけ。2008年、英投資ファンドのザ・チルドレンズ・インベストメント・ファンドがJパワー(電源開発)株を9.9%から20%に買い増そうとした際、日本政府が待ったをかけたことがある。

◎芝浦電子の買収をめぐる動き

2/5 ヤゲオ、芝浦電子に1株4300円でTOBを実施すると発表 12 芝浦電子、特別委の設置を発表 4/10 ミネベアミツミ、「ホワイトナイト」として名乗り。1株4500円でTOBを実施すると発表 〃 芝浦電子、ヤゲオのTOBへ反対を表明 〃 芝浦電子、ミネベアミツミのTOBに賛同を表明し、株主に応募を推奨 17 ヤゲオ、買付価格を1株5400円(従来4300円)に引き上げ 〃 芝浦電子、ミネベアミツミのTOBに賛同を表明し、株主に応募を推奨 5/2 ミネベアミツミ、TOBを開始(~6月9日) 8 ヤゲオ、買付価格を1株6200円(従来5400円)に引き上げ 9 ヤゲオ、TOBを開始(~6月19日) 21 芝浦電子、ヤゲオのTOBについて意見表明を留保すると発表 〃 芝浦電子、ミネベアミツミのTOBに賛同を維持するが、応募中立の立場を表明 22 ミネベアミツミ、買付期間を6月12日まで延長 6/4 ミネベアミツミ、6月19日まで延長(2度目) 17 ミネベアミツミ、7月1日まで延長(3度目) 18 ヤゲオ、7月1日まで延長 25 ヤゲオ、7月9日まで延長(2度目) 27 ミネベアミツミ、7月11日まで延長(4度目) 7/1 ヤゲオ、外為法の審査延期を発表。買付期間も7月15日まで延長(3度目) 10 ミネベアミツミ、7月16日まで延長(5度目) 15 ヤゲオ、8月1日まで延長(4度目) 16 ミネベアミツミ、7月28日まで延長(6度目) 28 ミネベアミツミ、8月1日まで延長(7度目) 8/1 ヤゲオ、外為法の審査審査の再延期を発表。買付期間も8月18日まで延長(5度目) 〃 ミネベアミツミ、買付期間を8月18日まで延長(8度目) 14 ミネベアミツミ、買付価格を6200円に引き上げ(2度目)、8月28日(9度目)まで延長を発表 18 ヤゲオ、8月28日まで延長(6度目)

文:M&A Online

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