今年の建設業界は大型買収の“当たり年”となっている。この8月、大成建設が東洋建設に対して、前田建設工業を傘下に置くインフロニア・ホールディングス(HD)が三井住友建設に対して、それぞれTOB(株式公開買い付け)を開始したが、買収総額は前者が約1600億円、後者が約940億円に上る。
任天堂創業家、影の立役者に
大成建設が東洋建設の買収を発表したのは盆休暇入り前の8月8日。海洋土木に強みを持つ東洋建設を傘下に取り込むことで、洋上風力発電関連工事などでの幅広い連携を見込む。
この買収で影の立役者となったのが任天堂創業家の資産運用会社で、東洋建設の筆頭株主であるヤマウチ・ナンバーテン・ファミリー・オフィス(YFO)。YFOは系列投資ファンドを通じて保有する28.53%の全株式をTOBに応募することになっている。
YFOは2022年春、東洋建設を買収する意向を公表したが、会社側の賛同が得られず、翌年末、買収を最終的に断念したが、この間に30%に迫るまで株式を買い増し、筆頭株主に躍り出た。YFOにとっては今回、投資資金の回収に向けた出口(エグジット)戦略となる。
東洋建設を持ち分法適用関連会社としてきた前田建設工業は保有する20.19%の株式ついてTOBに応募せず、TOB成立後に東洋建設が実施する自己株取得に応じて売却する。TOBは8月12日に始まっており、自己株取得分を含めた一連の買収総額は1598億円。
捲土重来を期すインフロニアHD
東洋建設をめぐっては2022年、インフロニアHDが子会社化を目的にTOBを始めたが、ここに割って入ったのがYFO。YFOがインフロニアを上回る好条件で東洋建設を買収する方針を公表したことが影響し、TOBが不成立に終わったという因縁がある。
そのインフロニアHDは5月、準大手ゼネコン(総合建設会社)の三井住友建設を941億円で買収する発表。所要の手続きを経て、8月6日にTOBが始まった。すでに触れた通り、インフロニアは東洋建設の買収に失敗した苦い経験を持つだけに、捲土重来を期す形だ。
三井住友建設は都内での超高層タワーマンションの大深度地下工事における施工トラブルで関連損失が過去3年で累計約750億円に上り、経営を圧迫。インフロニアの傘下で早期の立て直しを図る。
インフロニアHDの2025年3月期売上高は8475億円。三井住友建設が加わることで、合計約1兆3000億円と、鹿島、大林組、清水建設、大成建設。竹中工務店の大手5社に次ぐ準大手グループで断トツのトップに立つ。
前田道路、フジタを上回る買収規模
実は、建設業界の買収でこれまで最も規模が大きかったのは道路舗装分野。2022年、持ち株会社のインフロニアに移行前の前田建設工業が約860億円を投じて、持ち分法適用関連会社の前田道路を敵対的TOBの末に子会社化した。
清水建設も同じく持ち分法適用関連会社だった日本道路に2022年と今年の2度にわたりTOBを行い、完全子会社化した。買収額は合計で約770億円だった。
ゼネコンを対象とする事例は2012年にさかのぼる。住宅大手の大和ハウス工業が準大手ゼネコンのフジタを約500億円で買収した。買収とは異なるが、2013年にはハザマと安藤建設が合併して「安藤ハザマ」を発足させた。
これらのケースを上回るのが今回の大成建設とインフロニアによる買収だ。
人手不足・資材高で再編機運の高まりも
建設業界に再編・淘汰の大波が押し寄せたのはバブル崩壊後の1990年代。受注の大幅減と不良債権問題のダブルパンチが直撃した。なかでもゼネコンは準大手・中堅クラスが総崩れの様相を呈した。
建設投資は1992年度の84兆円をピークに達したが、2010年代初頭には半分まで落ち込んだ。その後、東日本大震災からの復興需要や都心部の大規模再開発建築工事、インフラの老朽化対策などに伴う投資の増加を背景に2024年度は73兆円まで回復。
しかし、豊富な仕事量とは裏腹に、建設現場では人手不足が常態化し、資材高騰の追い打ちで事業環境が厳しさを増す中、改めて再編機運が高まりを見せている。
実際、大成建設は2023年、首都圏を中心に高級住宅や伝統建築を手がける佐藤秀(東京都新宿区)、高速道路のリニューアブル工事やコンクリート橋梁を強みを持つピーエス三菱(現ピーエス・コンストラクション)を相次いで傘下に収めるなど、M&Aにアクセルを踏み込んでいる。
◎建設業界の主なM&A
文:M&A Online
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