「2025年のM&A10大ニュースはこれだ!」㊦ M&A Online編集部セレクト

M&A Onlineが独自にセレクトした「2025年 M&A10大ニュース」。前回に続き、残りの5つを紹介する。

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「2025年のM&A10大ニュースはこれだ!」㊤ M&A Online編集部セレクト

⑥セブン&アイHD、カナダ社が買収提案を撤回

セブン&アイ・ホールディングスに対する7兆円規模の買収提案を、カナダのコンビニ大手であるアリマンタシオン・クシュタールが撤退を表明したのは7月半ば。クシュタールはセブンによる建設的な協議の欠如を理由にあげた。

セブンは2024年8月、コンビニ「サークルK」などを運営するクシュタールから買収提案を受けていることを発表。提案内容に対して「当社の企業価値を著しく過小評価している」と反発し、その後、クシュタール側が7兆円規模に買収金額を引き上げた経緯がある。

対抗策としてセブン創業家がMBO(経営陣による買収)を模索したが、8兆~9兆円とされた資金調達にめどが立たず、年が変わった2月末に断念。5月にようやく秘密保持契約を結んで、クシュタールとの買収協議を本格化したが、2カ月ほどで交渉は打ち切りとなった。

セブンとしてはこれで一安心かといえば、ノーだ。北米のコンビニ子会社について2026年度後半までに株式上場を目指しているが、上場後にこの子会社が再び買収対象として狙われる可能性がある。そもそもクシュタールが欲しかったのは北米トップに立つセブンのコンビニ事業だったからだ。

この間、セブンはコンビニ事業に集中するとして、祖業のスーパー事業などの非中核事業(イトーヨーカ堂、ロフト、デニーズなど)を分離・移管した中間持ち株会社「ヨーク・ホールディングス」を設立。9月、同社を米投資ファンドのベインキャピタルに8100億円で売却した。

セブンはコンビニ事業特化による単独成長路線にどう道筋をつけるのか。5月に就任した外国人社長のスティーブン・ヘイズ・デイカス氏の手腕が問われている。

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セブン&アイ・ホールディングスの本社(東京・四谷)

⑦ドラッグストア再編、「ウエルシア・ツルハ」連合が始動

ドラッグストア業界で売上高2.3兆円超の「ウエルシア・ツルハ」連合が12月1日に正式にスタートした。店舗数も5000店以上。売上高はマツキヨココカラ&カンパニーの優に2倍で、国内で圧倒的な規模の「メガドラッグ」が動き出した。

再編を仕掛けたのはイオン。イオン子会社でドラッグストア最大手のウエルシアホールディングスが上場を廃止したうえで、同業大手のツルハホールディングスの完全子会社になるという変則的な方法で統合を実現した。統合は当初2017年末が予定されていたが、これを2年前倒しした。

ウエルシアとツルハの統合を受け、イオンは12月3日にツルハにTOB(株式公開買い付け)を始めた。これにより、イオンはツルハ株式の保有割合を現在の27%あまりから50.9%に引き上げ、連結子会社とする運びだ。

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売上高2.3兆円の「メガドラッグ」が12月1日に始動

今回のメガドラッグ誕生に一役買ったのが香港投資ファンドのオアシス・マネジメント。オアシスが2024年春、保有していた約13%のツルハ株式をイオンに売却し、イオンがツルハを持ち分法適用関連会社化したことが統合の引き金となった。

今後、動向が注視されるのがマツキヨココカラ&カンパニーだ。同社はマツモトキヨシホールディングスとココカラファインの統合で2021年10月に発足し、ウエルシアにあと一歩と迫ったが、今回、悲願の首位奪還が再び遠ざかることになった。

旧マツキヨは最大手として20年以上にわたって業界に君臨した歴史を持つが、2017年に首位に座をウエルシアに明け渡し、ココカラと統合を決めた当時は業界6番手にまで順位を落としていた。

マツキヨココカラをはじめ、ライバル各社が「ウエルシア・ツルハ」連合への対抗軸をどう作るのか、2026年の見どころとなりそうだ。

⑧アクティビストが猛威を振るう

フジ・メディア・ホールディングスは12月半ば、旧村上ファンド系投資会社から株式を最大33.3%まで買い増すとの意向が示されたと発表した。旧村上系は現在、フジ株式の17%余りを保有するが、その過半を個人で共同保有し、筆頭株主となっているのがアクティビスト(物言う株主)として知られる村上彰世氏の長女の野村絢氏だ。

野村氏ら旧村上系はフジに対し、放送事業と関連性が薄い不動産事業の切り離し・売却などを通じた一定の株主還元策を示せば、買い増しを撤回するとしている。さらにその後、買い増しの方法として1株4000円でのTOB(株式公開買い付け)を行う用意があることを公表し、フジ側への圧力をさらに強めた。

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フジ・メディア・ホールディングスの本社(東京・台場)

「フジテレビ」問題で経営の屋台骨が揺れるフジ。旧村上系によるフジ株式の5%超の新規保有が判明したのは4月初め。その頃、米投資ファンドのダルトン・インベストメンツが企業統治の不備や不動産に傾斜したフジの経営に批判のトーンを高めていた。これに乗じる形で旧村上系が瞬く間に17%以上に買い増したのだった。

2025年中の旧村上系による新規保有は王子ホールディングス、高島屋、マンダム、ディー・エヌ・エーなどフジを含めて15銘柄以上。いずれも野村氏が共同保有者として名前を連ね、父親の村上氏から“代替わり”を印象づけた。

日本企業が最も警戒するアクティビストの一つ、香港オアシス・マネジメントも動きを活発化させた。化学品メーカーの太陽ホールディングス、ドラッグストア大手のクスリのアオキホールディングスの株主総会ではそろって社長の取締役解任議案を株主提案。

いずれも否決だったが、太陽HDでは可決寸前の49.9%まで賛成票を集めた。

そのオアシスは今年、カルビー、芝浦機械、カシオ計算機、堀場製作所、イオンフィナンシャルサービス、カカクコムで株式の新規保有が判明した。

⑨“M&A巧者”ニデック、連勝ストップ

モーター大手のニデックは「M&A巧者」の異名を持つ。これまで国内で手がけてきたM&Aは75件に上る。積極的なM&A戦略を成長の原動力としてきたことで知られる同社だが、初の苦杯をなめた。

5月、工作機械大手の牧野フライス製作所の完全子会社化を目的に実施中だったTOB(株式公開買い付け)を撤回したのだ。牧野フライスが導入した買収防衛策について、ニデックは差し止めを求める仮処分を東京地裁に申請していたが、これが却下されたのを受けて矛を収める形となった。

約4カ月半に及ぶ両社の攻防戦の渦中、ホワイトナイト(友好的な買収者)として名乗りを上げたのがアジア系投資ファンドのMBKパートナーズ。手続きの遅れでスケジュールがずれ込んでいるが、2026年の早い時期にMBKによるTOBが始まる見通しだ。

ニデックが牧野フライスに1株1万1000円でのTOBを提案したのは2024年12月末。TOBに関する事前の通知や協議は行わず、同意なき買収を提案した。買収額2570億円に上り、ニデックとして過去最大級の案件だった。

ニデックは賛同を得るために十分な協議期間を設けるとしてTOB開始日を4月4日に設定。

牧野フライスは当初から5月9日以降に延期するよう繰り返し求めたが、ニデックは予定通りにTOBを始めた。

これに対し、牧野フライスは複数の第三者から完全子会社を目的とする買収の初期的な意向表明書を受け取ったこと明らかにし、各提案を比較検討するための時間を確保する必要があるとしていた。

ニデックはその後、不適切会計問題が発覚し、経営が暗転した。10月には東京証券取引所が内部管理体制に重大な不備があるとしてニデック株を特別注意銘柄に指定。

さらに12月に入り、ニデック創業者でカリスマ経営者とされてきた永守重信代表取締役グローバルグループ代表(取締役会議長)が辞任(19日付で非常勤の名誉会長)し、会社の行く末が危ぶまれる非常事態となっている。

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ニデックの東京オフィス(東京・大崎)

⑩東証、MBOルールを厳格化

2025年のMBO(経営陣による買収)は30件(12月25時点)と前年を11件上回るハイペースで推移し、2011年(21件)以来14年ぶりに最多を更新した。東証改革やアクティビスト(物言う株主)の台頭で上場維持コストや株主対応に伴う負担が増す中、自ら株式市場から「退場」する動きが広がりを見せている。

東証がMBOに関するルールを厳格化したのは7月のこと。創業家などの大株主が不当に安い価格で非公開化することを防ぎ、少数株主の権利を保護するのが目的だ。

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東京証券取引所(東京・日本橋兜町)

新ルールでは利害関係のない社外取締役などでつくる特別委員会を設置し、少数株主にとって不利益でないことの意見書の提出を義務付けた。これまで支配株主による完全子会社化(親子上場解消)の場合に義務化されていたが、MBOやその他関係会社(持ち分法適用関連会社)による完全子会社化にも対象を拡大した。また、買付価格の算定根拠などについて必要かつ十分な適時開示を義務付けた。

ところが、新ルールの運用直後、「買付価格が低すぎる」として太平洋工業(買付開始、7月末)、ソフト99コーポレーション(8月初め)、マンダム(9月末)などのMBOがアクティビストの標的となった。ソフト99のMBOは不成立に終わり、太平洋工業とマンダムのMBOは越年が確定している。

ルールの厳格化でMBOの勢いが弱まる可能性も取りざたされたが、今年の全30件のうち16件は新ルール運用後の届け出となっており、ペースは落ちていない。

◎2025年M&A10大ニュース:M&A Online独自選定

1最多件数を更新、金額は初の20兆円超え 2 TOBも空前のラッシュに沸く 3 豊田自動織機、4.7兆円で非公開化へ(6月) 4 日本製鉄、USスチール買収を成就(6月) 5 ホンダ・日産、1カ月半でスピード破談(2月) 6 セブン&アイHD、カナダ社が買収提案を撤回(7月) 7 ドラッグストア再編、ウエルシア・ツルハ連合が始動(12月) 8 アクティビストが猛威を振るう 9 “M&A巧者”ニデック、連勝ストップ(5月) 10 東証、MBOルールを厳格化(7月) ※「2025年のM&A10大ニュースはこれだ!」㊤はこちらです。

文:M&A Online

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