「東北新社」M＆A投資額を大幅に増額　事業規模縮小に歯止め

映像制作を中心に、広告、放送、ライセンスビジネスなど幅広い事業を展開する東北新社＜2329＞は、M＆Aなどの新たな成長のための投資額を大幅に増額する。

資産や事業の売却が進んだ結果、保有する現金、預金は増加したものの、事業規模が縮小し、新たな収益基盤を構築する必要が生じているためで「検討・推進体制を整え、本格的に成長投資（M＆A）に着手する」としている。

4年間にM＆Aに570億円以上を投資

東北新社は2024年2月に策定した2029年3月期を最終年とする5カ年の中期経営計画の中で、新たな収益基盤を確保するためのM＆Aをはじめ、構造改⾰や株主還元を合わせて5年間（2025年3月期～2029年3月期）で500億円を充てるとしていた。

初年度の2025年3月期はM&Aを主軸とした成長基盤確保の検討に着手したものの、成果につながらなかったため、2026年3月期からM＆Aに本腰を入れることにしたもので、今後4年間（2026年3月期～2029年3月期）の投資額を810億円に引き上げ、このうちM＆Aへの投資額を570億円以上と明記した。

当初の中期経営計画ではM＆Aへの投資額などは明らかにしていなかったが、今回は総額の500億円を上回る570億円以上をM＆Aに振り分けており、明らかに投資額が増加していることが分かる。

中期経営計画ではM＆Aの対象について「従来のメディアにとらわれず、映像・クリエイティブシーンの⽣活全般への拡⼤に対応すべく、積極的な事業開発・投資（M＆Aを含む）を行う」としており、今後もこの方針に沿って候補先の選定が行われると見られる。

構造改革で固定資産の売却などを

東北新社は2025年3月期に多くの構造改革のための対策を講じた。2024年6月に映像業界の専門人材を育成する学校である映像テクノアカデミア事業から撤退し、8月には早期希望退職を実施。9月には子会社のオムニバス・ジャパンがテレビ番組のポストプロダクション（テレビ番組などを撮影後に編集する作業）事業から撤退した。

さらに11月に人材の育成や新たな事業の創出などを目的とする子会社のWTFCを、12月に声優のマネジメントを行う孫会社のオフィスPACを解散。2025年2月には不動産賃貸事業や投資事業、日本酒の輸入販売などを手がける米国の子会社や孫会社4社を解散した。

東北新社が2025年3月期に実施した主な構造改革

また、M＆Aについては2022年以降に4件の適時開示を行っており、2022年に映画専門チャンネルのザ・シネマをノジマに譲渡し、2023年に傘下のナシヨナル物産が手がけるスーパー事業を中島董商店に譲渡した。

2025年3月期にもBS放送子会社のスター・チャンネルをジャパネットブロードキャスティングに譲渡したほか、放送送出事業を放送・配信運用代行のプラットワークスに譲渡した。こうした取り組みで、2025年3月期に現金、預金が約170億円増加し、626億円となった。

2025年3月期の売上高は、スーパー事業の譲渡やスター・チャンネルの譲渡などにより、456億8600万円と前年度比13.5％の減少となったが、固定資産売却益や投資有価証券売却益などの特別利益を計上したことで、当期利益は同2.08倍の83億6300万円と大きく伸びた。

2026年3月期については現在実行している「構造改革」「新たな収益基盤の確保」「財務・資本戦略」の進行状況や外部環境の変化により、業績予想が大きく変動することが予想されるため、業績予想は公表してしないとしている。

東北新社が2025年3月期に実施した主な構造改革

2029年3月期に売上高700億円に

東北新社は映像制作をベースに、広告やプロモーション（商品やサービスに対する購買意欲を高めるための活動）の企画から、動画などの制作や市場調査、販売促進支援、ライセンスビジネス、物販事業まで幅広く手がけている。

自らを「映像に関するあらゆる事業を行っている総合クリエイティブプロダクション」と位置付けており、こうした企画から制作、配信、IP（知的財産）活用までの幅広い事業体制が強みとなっている。

東北新社は2024年7月に、シンガポールを拠点とする投資ファンドの3Dインベストメント・パートナーズから非公開化を目的としたTOB（株式公開買い付け）の提案を受け交渉に入ったものの、2024年9月に3Dインベストメント対して、協議、交渉を打ち切るとの回答を行い「今後も企業価値の向上に努め、株主共同の利益を確保・向上できるように取り組む」としていた。

中期経営計画では企業価値を高め、最終年の2029年3月期に売上高700億円（2025年3月期456億8600万円）、営業利益65億円（同26億8200万円）を目指している。

企業価値を高めるために、今後どのような企業を傘下に収めることになるだろうか。

文：M＆A Online記者 松本亮一

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