日本政府は2021年4月13日に、東京電力福島第一原子力発電所で増え続けている放射性物質のトリチウムを含む汚染水を海洋に放出する方針を決めた。
6年以上にわたる有識者による検討で、海洋放出が現実的との報告がなされたのを受けて決定したもので、2年後をめどにトリチウムの濃度を国の基準の40分の1、WHO(世界保健機関)の飲料水基準の7分の1に薄めたうえで放出する。
併せてIAEA(国際原子力機関)などの協力を得て、透明性の高い安全対策を講じるという。放射性物質のトリチウムとはどのくらい危険な物資なのだろうか。
DNAを切断する放射線
放射性物質とは、放射線を出す物質のことで、放射線とは、高いエネルギーを持ったアルファ線やベータ線、中性子線などの粒子放射線と、ガンマ線やX線などの電磁波を指す。また放射能という言葉もあり、これは放射線を出す能力をいう。
放射線は物を通り抜ける力を持ち、種類によってその力には差がある。アルファ線は紙を通り抜けることができず、ベータ線はアルミニウムなどの薄い金属板を通り抜けることができない。
これに対しガンマ線やX線は鉛や厚い鉄板でないと遮断することができず、中性子線を遮断するためにはコンクリートや水槽が必要になる。
これら放射線には細胞内にある遺伝子(DNA)を切断する力がある。DNAは四つの塩基が連なった2本鎖の構造をしており、1本だけの切断であれば、DNAの修復が可能だが、2本とも切断されると修復ができなくなり、細胞のがん化などの危険性が高まる。
その一方で、がん細胞は放射線を当てると修復しきれずに細胞が死滅するため、がんの治療に放射線が使われるほか、放射線でDNAを傷つけることで植物の品種改良なども可能になる。
身の周りにもあるトリチウム
この放射性物資の一つであるトリチウムは水素の同位体(中性子数が異なる化学的に同じ性質の物質)で、三重水素と呼ばれる。水素の原子核が陽子1個でできているのに対し、トリチウムの原子核は陽子1個と中性子2個から成る。水素と同じように水として存在するため、汚染水から分離することは難しい。
トリチウムは中性子を2個含むことで不安定となり、トリチウムが崩壊しヘリウムに変化する際にベータ線を放出する。ベータ線はアルミニウムなどの薄い金属板で遮断できるため、DNAを切断する力はそれほど高くはない。ただ、トリチウムがヘリウムに半分変わるのに12.3年(半減期)かかるため、長期間放射線を出し続ける。
トリチウムは原子力発電によって発生するほか、宇宙から降り注ぐ放射線(宇宙線)と大気の反応でも発生する。自然界に多く存在しており、雨水や海水、水道水などにも含まれている。
トリチウムはもともと身の周りに存在するうえ、今回は汚染水中のトリチウムの濃度を基準値よりも大きく引き下げて海洋に放出するため、安全性については高いといえそうだ。
だが、消費者心理に与える影響は極めて大きいことは否定できないだろう。海洋放出までの2年間で、福島産水産物に対する買い控えなどの風評被害の発生をどのようにして抑えるのか。風評被害対策には東京電力が当たる。同社に課せられた課題はあまりにも大きいと言わざるを得ない。
文:M&A Online編集部

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