高市早苗首相が、衆議院解散に踏み切った。これに対して、立憲民主党と公明党は新党「中道改革連合(中道)」を結成。
高市首相の突然の解散と立憲・公明合流の動き
高市首相は通常国会召集日の1月23日に衆院を解散し、2月8日に総選挙を実施すると表明した。首相の圧倒的に高い支持率を背景に、食料品の消費税を2年間に限って撤廃するなどの物価高対策や財政拡張策を前面に打ち出し、与党で過半数を確保し、政権運営を強固にする思惑があるとされる。
この「短期決戦」で動いたのが、立憲と公明だ。両党は新党を結成し、衆院選で中道勢力の受け皿をつくった。勢力規模のインパクトも大きい。足元の衆院勢力では自民党と日本維新の会などの与党側が233議席、立憲と公明の中道が172議席となる。
衆院での与野党の勢力差は、第2次以降の安倍晋三内閣時代と比べると縮小しており、今回の総選挙は「与党の信任選挙」であると同時に、「野党再編の成否」を問う局面となる。
戦後日本の「政党M&A」史
日本政治は、企業の合併・分割に似た「政党M&A」を繰り返してきた。最大の転換点は1955年の保守合同だ。自由党と日本民主党が合流して自由民主党が誕生し、同時に社会党も左右統一を果たしたことで、いわゆる「55年体制」が成立した。
ところがバブル崩壊で日本経済の長期低迷が始まった1990年代に入ると、政党の流動化が一気に進む。1993年には「日本新党」が結成され、同党の細川護熙氏を首班に非自民勢力が結集。
1994年に自民党と「日本社会党(現社会民主党)」、「新党さきがけ」が連立して村山富市内閣が誕生したのに対抗して「新進党」が結成され、反自民勢力の大合同が試みられた。しかし、政治路線の違いや内部対立を解消できず、1997年に解党。「自由党」や「新党平和」「新党友愛」「国民の声」「改革クラブ」などに分裂した。
2000年代に入ると、「民主党」が野党再編の受け皿となる。旧民主党や新進党の解体勢力などが合流を重ね、2009年の衆院選で圧勝して政権交代を実現した。これは日本新党以来となる戦後2度目の「政党再編型政権交代」だった。
再編と分裂を繰り返す野党
ところが民主党も党内勢力を一本化できず、内閣が次々と交代。民主党の政治的な混乱を突いた自民党が2012年の衆院選で大勝し、公明党との連立政権が復活する。民主党の96人と「維新の党」から合流した21人などが野党第一党の「民進党」を結成した。
政権に復帰した自民・公明連立与党の衆院選勝利が続く中、2017年に小池百合子東京都知事が保守新党の「希望の党」を立ち上げ、衆院解散局面で民進党をはじめとする野党再編を主導した。
だが、小池党首の「安全保障や憲法観が一致しない議員は排除する」との発言に反発した議員が、合流を拒んで旧「立憲民主党」を結成。
2020年には旧立憲、旧国民民主、「社会保障を立て直す国民会議」「無所属フォーラム」などの旧民主党系勢力が再統合し、現在の立憲が結成された。
このように戦後の政党大再編は自民党結党を含めると、3回にわたって政権を獲得している。しかし、2度あった野党再編による政権交代は長続きしていない。なぜか?
「再編」よりも「PMI」が重要
政党再編の成否は、企業のM&Aになぞらえれば「統合成立(合併)」ではなく「合併後の統合プロセス(PMI)」で決まる。唯一の成功例は55年体制だ。自民党は長期政権を維持し、政策実行力と組織基盤を確立したという点で、統合効果を発揮した。
一方、決定的な失敗例は政権交代を実現できなかった新進党と希望の党の事例だ。新進党は巨大合流でありながら寄り合い所帯だったため、旧政党勢力による主導権争いで短命に終わる。反対にトップダウン型の再編を実行した希望の党は、トップ主導の急造再編が統合勢力の反発をうけて瓦解した。
中道の場合は二つの政党の再編なので、新進党のような寄り合い所帯感は薄く、希望の党のような1人の党首によるトップダウン感も薄い。いわば新進党と希望の党の中間的な再編と言える。
新党の「ハイブリッド型M&A」に潜むリスク
半面、統合が中途半端に終わり、PMIが困難になる状況もありうる。中道に合流するのは衆院のみで、立憲と公明の両政党は存続し、参議院では従来の党に所属する見通し。この枠組みは、企業M&Aで言えば「完全合併」ではなく、中核事業(衆院議員)だけを束ね、従来の組織は残す「ハイブリッド型統合(連合型)」に近い。
企業の世界でも、合併せずに連合体として企業を統合するハイブリッド型統合は、規模をすばやく拡大できるメリットがある一方、ガバナンス不全を招きやすく、失敗事例も多い。その最大要因は、PMIの初期段階で最終意思決定権がどこにあるかが曖昧になりやすい点にある。
仏ルノー・日産アライアンスでは合併せず連合体を組んだ結果、ガバナンスと主導権を巡る摩擦が表面化。意思決定が停滞する局面が繰り返された。1998年の独ダイムラーと米クライスラーの「対等合併」も、統合後に権限と企業文化の二重構造が解消できず、2007年に提携を解消している。
一般に企業統合では意思決定の遅延や競争力低下のリスクが生じ得るため、「統合後の統治設計」の重要性が認識されているが、政党再編も同様だ。
新党が勝利する条件
今回の衆院選の争点は、物価高対策、減税・給付、財政運営、外交・安全保障と多岐にわたる。高市政権が食料品にかかる消費税の時限的撤廃カードを切って、さらなる支持率の引き上げを図る。一方、立憲は公明との候補者調整を進めており、小選挙区と比例の棲み分けで議席を積み上げる構えだ。
立憲・公明の新党が成功する条件は、企業PMIと同様に三つに集約される。
次に、意思決定ラインの一本化である。代表権、公認権、資金配分を明確にしなければ、新党は現実の選挙で戦えない。
そして、政策方向性の一致だ。希望の党が失速した最大の要因は、理念や政策軸のすり合わせが不十分だった点にある。さらには有権者から「選挙目当ての野合」と見られないためにも重要だ。
選挙で敗北しても、PMIに成功すれば「次」に期待が
一方で自民党も、これまでとは勝手が違う。昨年来、与党側の分裂と再編も目立つ。与党から公明が離脱し、代わって維新が加わったが、連立にまでは踏み込んでいない。政策が近いとされる国民民主との関係も、突然の解散で一気に冷え込んだ。
これまで小選挙区で立候補者が乱立した場合は、野党間で票が割れるため自民に有利とされてきた。ところが現在の野党では、国民民主や参政党、日本保守党など保守的な政策を掲げる党の集票力が高い。小選挙区で候補者が乱立した場合、中道の立憲・公明連合よりも保守色が強い高市自民の票を奪う可能性がある。
自民が政策協議などで保守野党との候補者調整に乗り出すかどうかも注目だ。しかし、これも「両刃の剣」で、保守野党との連携強化は解散・総選挙の狙いである自民主導の政権運営の足かせになりかねない。
立憲と公明の合流は、与党に対抗し得る規模を一気に形成する点でインパクトが大きい。ただ、過去の政党再編史が示す通り、成功を左右するのは「合流そのもの」ではなく、その後の統合設計と運営だ。
高市首相の早期解散という時間制約の中で、立憲・公明新党がどこまで完成度の高いPMIを実行できるか。今回の「政党M&A」の成否は、まさにそこにかかっている。仮に新党が次回の選挙で敗北しても、解党を踏みとどまってPMIが機能すれば、国政で存在感を示して次の選挙での勝利を見込むこともできるだろう。
文・写真:糸永正行編集委員
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