宮城一筋300年の製材企業「山大」、首都圏進出を選んだ東北ならではの理由とは?

1716年の創業以来、宮城を中心に東北エリアで木造建築を手がけてきた山大。自社林業から木材加工、建築施工まで一貫した事業展開で、地域に根差した経営を続けてきた同社は、2024年11月、新たな転機を迎えた。

人口減少による住宅産業の停滞、復興需要の収束という課題に直面する中、首都圏で事業を展開する住宅内装建材メーカーのビィ・エル・シーを子会社化した。宮城県石巻市に本社を構える山大がなぜ今、東京の同業会社を買収したのか。山大代表取締役社長の髙橋暢介氏に、M&Aに至った経緯や今後の展望を伺った。

―事業内容や特徴を教えてください。

木造建築業を展開しております。当社の特徴は、自社保有の山林から木材を伐採し、住宅用建材として加工までを一貫して行うことです。まず、木材を加工し、加工した建材をハウスメーカーや地域の工務店へ供給しています。

また、住宅のほか、商業施設や公共施設といった非住宅の建設も手がけております。さらに、環境への配慮から、伐採後は新たに植林を行い、持続可能な事業運営を実践しております。

宮城一筋300年の製材企業「山大」、首都圏進出を選んだ東北ならではの理由とは?
山大が使う宮城県産材「伊達な杉」

首都圏進出への転換点

―M&Aを検討されたきっかけを教えてください。

2018年頃から検討を始め、市場環境を考慮し、東北地域から北関東圏への進出を構想していました。その後、ビィ・エル・シーさんの現社長である阿部が当社に入社したことにより、北関東圏に進出する本格的な体制が整いました。

展開エリアを北関東の特定地域に絞り込んだ時期に、M&A仲介のストライクから譲受先としてビィ・エル・シーさんの提案をいただきました。

東京近郊への進出には抵抗感がありましたが、埼玉県三郷市の配送拠点が北関東エリアへのアクセスに適していることが分かり、当社の事業拡大戦略と合致したことが決断の要因となりました。

―どのようなシナジーを見込んでのご決断でしたか?

エリアは大前提ですが、得意分野の違いも大きな要因です。当社は日本で古くから用いられてきた在来工法と金物工法を得意とし、ビィ・エル・シーさんは北米発祥のツーバイフォー工法を専門としています。

在来工法は日本の気候風土に適応した木造建築工法で、柱や梁による骨組み構造が特徴です。一方、ツーバイフォー工法は規格化された木材を使用し、壁全体で建物を支える構造で、高い断熱性能と施工速度を誇ります。

これら二つの工法は技術体系や施工方法が大きく異なるため、通常は専門分野を越えた連携が困難です。しかし、互いの工法の特長を活かすことでより質の高い住宅づくりが可能になると考え、この相互補完的な関係がM&Aの決め手の1つとなりました。

―具体的な協業内容について。

現在の宮城を中心とした東北エリアと関東圏では市場規模が大きく異なるため、まずは当社の製品を北関東エリアに展開し、逆にビィ・エル・シーさんの製品を東北エリアに導入することで、双方の事業エリア拡大を目指していきたいと考えています。

復興需要の終焉と新たな挑戦

―復興需要の落ち着きもM&Aの背景にあると伺いました。東北における復興需要が落ち着いた現在の市場環境をどのようにみられていますか?

東日本大震災の被災3県(岩手・宮城・福島)の復興事業は、現在では福島県浪江町の整備を残すのみとなっています。震災後の7、8年間は急速な復興需要により建築ラッシュが続きましたが、これは言わば20年分の需要を先取りした状態でした。

特に沿岸部では、将来の需要を前倒しで消化したことにより、今後の市場の縮小は避けられない状況です。そんな状況下では著しい成長は見込めないので、東北外にもエリアを広げていくことは必要不可欠だと感じています。

一方で、全国各地で地震や豪雨などの自然災害が増加している中、被災地での復興経験を活かし、他地域の災害復興支援にも貢献していく使命があると考えています。

―戸建て需要が縮小する中での経営戦略はどのようにお考えですか?

今後の人口減少は確実であり、それに伴う新築需要の減少は周知の事実です。当社はこれまで、資材の卸売りから建築の請負まで幅広く事業を展開してきました。

当社の強みである施工管理のノウハウを活かしつつ、今後は工事職人の管理体制強化と育成プログラムの確立を進めてまいります。このように、当社は物販から住宅建築のトータルサポート企業への転換を図り、「ヒト」を中心としたサービス提供体制を構築していく所存です。

―今後M&Aを検討される方にメッセージをお願いいたします。

経営者の立場では、従来M&Aについて「買収する側・される側」という単純な図式で考えがちでした。しかし、ビィ・エル・シーさんとの統合を通じて、そのような考え方が現代には適していないことを実感しています。

これからの時代は、一社で頑張るよりも、複数の企業がグループとして結束し、業界のニーズに対応していくことが求められています。特に地域企業においては、同族経営にこだわる必要はありません。

M&Aを検討する際は、両社が共通のビジョンを持ち、同じ方向性を確認できれば、それは真剣に検討すべき選択肢です。これは私の経験から得た確信です。

写真・文:M&A Online記者 髙橋さつき

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