
ヤマハ発動機<7272>は2025年6月に、ドアシステムやモーターなどの自動車部品メーカーであるドイツのブローゼ(バイエルン州)から、電動アシスト自転車(e-BIKE)用ドライブユニット事業を手がける同社子会社を買収する。
さらにオーストラリアのアルミボート製造会社のテルウォーター(クイーンズランド州)を、法令上必要な許認可などを取得し次第、買収する。
e-BIKEの企画、開発力を強化
欧州ではアウトドアやレジャー用のスポーツe-BIKEの需要が高まっており、ブローゼは2014年にe-BIKE用ドライブユニットの生産、販売を始めた。ヤマハ発動機はブローゼのe-BIKE用ドライブユニット開発機能を活用して、新製品の企画、開発力を強化する。
合わせて顧客の要求に迅速に対応できる体制を構築し、新規顧客の獲得を目指すほか、ブローゼから引き継ぐ600を超えるサービスネットワークを活用することで、顧客へのアフターサービス力も増強する。
買収成立後は、2025年3月にドイツに設立したe-BIKE 用ドライブユニットや電装部品などの開発、製造、販売を行うYamaha Motor eBike Systems(ベルリン)を稼働し、事業拡大に取り組む計画だ。
非コア事業で経営を多角化
ヤマハ発動機は、コア事業の二輪車事業(スクーター、競技用バイクなど)や、マリン事業(ボート、水上バイク、船外機など)向けに小型高性能エンジンを自社開発し、製造できる強みを持つ一方で、これら事業が全社売上高の80%ほどに達しており、非コア事業の成長が経営の多角化、安定化に向けた課題の一つと言える。
同社は「ロボティクス事業」(半導体後工程装置、電子部品の表面実装機、産業用ロボット)、「SPV=Smart Power Vehicles事業」(電動アシスト自転車)、「OLV=Outdoor Land Vehicle事業」(レジャー用の四輪バギー、ゴルフカー)の3事業を戦略事業として位置付けており、このうち「ロボティクス事業」と「SPV事業」は、長期的な成長市場であるとの判断のもと、M&Aの機会を探索するとしていた。
今回のブローゼのe-BIKE用ドライブユニット事業を手がける子会社の買収はこの戦略に基づくもので、独自の競争優位性の確立と、事業成長の実現に向けた取り組みの一つとなり、多角化に向けた課題解決にもつながる。今後は「SPV事業」と並ぶ戦略事業である「ロボティクス事業」でもM&Aの可能性がありそうだ。
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コア事業は成長と収益性を両立
一方、オーストラリアのアルミボート製造会社テルウォーターは、スノーモービルや水上バイクなどのレクリエーション製品の製造会社であるカナダのBRP(ケベック州)傘下の企業で、ヤマハ発動機のオーストラリア子会社Yamaha Motor Australiaが全株式を取得する売買契約を結んだ。
テルウォーターは、オーストラリア最古の歴史を持つボート製造会社の一つで、ヤマハ発動機はテルウォーターを傘下に収めることでマリン事業の基盤を強化する。
マリン事業をはじめとするコア事業では、成長と収益性の両立を目標に掲げ、事業利益を製品や設備に再投資し、高い市場シェアを獲得する計画だが、M&Aは見込んでいなかった。
今回アルミボート製造会社のM&Aに踏み切ったことで「マリン事業」と並ぶコア事業である「二輪車事業」でもM&Aの可能性が出てきた。
二輪車事業では高価格帯でのシェアを、2024年12月期に31%だったのを2027年12月期には42%に高める計画で、この目標実現に向けた関連の分野がM&Aの対象となりそうだ。
スタートアップの取り込みも
このほかにも同社は2025年2月に、農業自動化ソリューション開発のスタートアップであるニュージーランドのロボティクス・プラスの買収と、デジタル技術を活用した農業ソリューションを提供するスタートアップであるオーストラリアのジ・イールド・テクノロジー・ソリューションの資産の買収を公表している。
事業計画では2027年12月期に売上高3兆1000億円以上(2024年12月期は2兆5761億7900万円)、2025年12月期~2027年12月期の平均営業利益率9%以上(同7.0%)との目標を掲げている。
戦略事業は、コア事業を上回る成長をできるだろうか。事業計画の達成はもちろん、経営の多角化、安定化に向けた課題解決にも、非コア事業分野でのM&Aが結果を左右することになりそうだ。
文:M&A Online記者 松本亮一
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