ストライク<6196>は4月23日、業種・業界・地域の壁を越えたイノベーションの創出を支援する「NEXs Tokyo」(東京・千代田区)でスタートアップと事業会社の提携促進を目的としたイベント「第39回Conference of S venture Lab.」を開いた。
今回は「成長加速のカギとなるスイングバイIPOやM&Aの活用術」をテーマに、2020年にZOZOグループ入りし、その後2023年12月に東証グロース市場に上場を果たした株式会社yutoriから取締役副社長の瀬之口和磨氏、株式会社ZOZOから取締役兼COO執行役員の廣瀬文慎氏が登壇。
会場・オンライン合わせて約200名が参加し、スタートアップ関係者を中心に盛況となった。
「スイングバイIPO」で企業成長を加速させる新たな選択肢
トークセッションの冒頭、瀬之口氏はyutoriの創業からZOZOグループ入り、そして上場に至るまでの経緯を説明した。yutoriは2018年に大学の同級生と創業し、アパレルブランドの展開を開始。創業から2年後の2020年7月にZOZOによるM&Aで資本提携を行い、その後わずか3年で東証グロース市場への上場を実現した。
「私たちが選んだのは『スイングバイIPO』という道でした。これは宇宙探査機が惑星の重力を利用して加速する現象から名付けられた戦略で、大企業の支援を受けて成長し、その後上場を目指すアプローチです」と瀬之口氏は説明する。
ZOZOの廣瀬氏は買い手側の視点から「当時、yutoriはまだ創業2年目の若い会社でしたが、D2C(Direct to Consumer)ブランドとしての成長ポテンシャルを高く評価していました。完全子会社化ではなく、創業者の経営の自由度を残す形での資本提携を選んだのは、彼らの成長意欲とスピード感を損なわないためでした」と当時の判断を振り返った。
松本氏からの「なぜ完全子会社化ではなく、部分的な資本提携を選んだのか」という問いに、廣瀬氏は「yutoriの強みは創業者のスピード感ある意思決定と実行力。それを活かすためには、経営の自由度を残すことが重要でした。ZOZOとしては、彼らの成長を支援しながらも、過度に干渉せず、シナジーを最大化する関係性を目指しました」と回答した。
M&AとIPOの組み合わせがもたらす相乗効果
ZOZOグループ入り後、yutoriの成長は大きく加速した。瀬之口氏は「ZOZOのブランド力や信用力を背景に、出店交渉や人材採用がスムーズになりました。
M&A後もIPOを目指したことによる相乗効果もあった。「上場を目指すことで、社内の意識が変わりました。ガバナンスの強化や経営の透明性向上に取り組む中で、組織としての成熟度が高まったと感じています」と瀬之口氏は述べる。
廣瀬氏も「yutoriの上場は、ZOZOグループにとっても大きな価値をもたらしました。グループ内に上場企業を持つことで、新たな資金調達手段や人材獲得の選択肢が広がりました。また、yutoriの成功事例は、今後のM&A戦略においても重要な参考になります」と語った。
松本氏は「日本では従来、M&AかIPOかという二者択一の発想が強かったように思いますが、両者を組み合わせた『スイングバイIPO』は新たな選択肢として注目されています。この戦略が成功するためのポイントは何でしょうか」と問いかけた。
これに対し瀬之口氏は「最も重要なのは、買い手企業と売り手企業の間で、将来のビジョンを共有することです。私たちの場合、ZOZOとの間で『いずれ上場を目指す』という方向性を最初から共有していたことが大きかったと思います」と回答。廣瀬氏も「買収後も創業者のモチベーションを維持し、自律的な成長を促すことが重要です。
上場後のM&A戦略と今後の展望
yutoriは上場後も成長を続け、新ブランドの立ち上げとM&Aを積極的に推進している。瀬之口氏によれば「上場後の約1年間で12の新ブランドを立ち上げ、4ブランドをM&Aで取得しました。現在は合計36ブランドを展開しており、今後5年間でブランド数を70まで拡大することを目指しています」という。
heart relationについて
注目されるのは、2024年8月に実施した元AKB48小嶋陽菜さん(代表取締役CCO)が創業したheart relationとの資本業務提携だ。「heart relationは私たちとは異なる顧客層を持つアパレルブランドで、この資本業務提携により顧客基盤を大きく拡大することができました。また、彼らが持つ店舗運営のノウハウも、当社の成長に大きく貢献しています」と瀬之口氏は説明する。
廣瀬氏は「yutoriの積極的なM&A戦略は、ZOZOグループ全体の成長にも寄与しています。彼らが新たに取得したブランドがZOZOTOWNに出店することで、プラットフォームとしての魅力も高まっています」と述べた。
松本氏からの「今後のM&A戦略について」という問いに、瀬之口氏は「私たちは『ブランドホルダー』としての立場を強化していきたいと考えています。今後は国内だけでなく、アジアを中心とした海外ブランドの買収も視野に入れています。特に台湾では既に子会社を設立し、現地での事業展開を始めています」と回答した。
廣瀬氏も「ZOZOとしても、yutoriのような成功事例を参考に、今後もスタートアップとの協業やM&Aを積極的に検討していきます。特に、テクノロジーを活用したファッションEC領域での新たな取り組みに注目しています」と語った。
スタートアップ2社がピッチ
第二部では、スタートアップ2社によるピッチが行われた。着物をドレスやワンピースにアップサイクル(リメイク)する事業を展開する株式会社季縁の宮部喬史代表取締役と、オンライン試着ソリューション「バーチャサイズ」を提供する株式会社Virtusizeの上野オラウソン・アンドレアス代表取締役が登壇。それぞれのビジネスモデルや成長戦略について熱のこもったプレゼンテーションを行った。参加者からは多くの質問が寄せられ、活発な議論が交わされた。
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