
第2期制作が決定したTVアニメ『メダリスト』。まだ熱冷めやまぬ本作より、山本靖貴監督のインタビューをお届けします。
※本インタビューは4月10日発売PASH!2025年5月号に掲載したものです。
氷上を駆ける少女・いのりと、彼女をコーチとして導く司、ふたりの思いが重なる熱く美しいストーリーが多くの人々を虜にし、毎話大きな話題を呼んだ『メダリスト』。第2期放送が待ち遠しい本作の魅力を、インタビューを通して振り返りましょう!
「アニメ化する以上、フィギュアスケートのシーンは逃げずにやるしかないと腹を括りました」
――山本監督は本作に関わる以前からフィギュアスケートはご覧になられていましたか?
はい。好きで冬のオリンピックでは毎回観ていました。ただジャンプの技名ぐらいを知っている程度で、その難易度などはよく分からないまま観ていましたけど(笑)。
――マンガ『メダリスト』については、ENGIさんから監督オファーがあった際に読まれたそうですが、印象はいかがでしたか?
キャラクターにすごく感情移入がしやすい作品で、スポーツものという以前にキャラクターを好きになってしまうところが、とても魅力に感じました。それと、思っていたよりも直球で熱血スポーツものの要素もあり、新鮮に感じられましたね。
原作は音楽や動きを描けないなかで、どうやってフィギュアスケートを見せていくかということにすごく工夫をされている作品です。ですがアニメの場合は、その原作では描けない部分が一番の見せ場になります。
アニメ化する以上、このフィギュアスケートのシーンは逃げずにやるしかないと腹を括りながら読んだ覚えがあります。
――3DCGに長けた制作スタジオであるENGIさんからのオファーということは、企画当初からフィギュアスケートシーンが3DCGだと決まっていたのでしょうか?
いや、最初の選択肢としては全部作画でやるというものもありましたよ。ただ、ENGIの強みが3DCGであることと、フィギュアスケートを描くにはモーションキャプチャーが必須であるということがあったので、そのデジタルデータを3DCGと作画の半々ぐらいの分量で活かすつもりでした。
でも、実際に上がってきたものをみたら自分の想像を超えるくらい素晴らしい出来だったので、3DCGメインで行くことに決めたんです。
――なるほど、そういう経緯だったのですね。では、そもそもアニメ化するうえで山本監督がどういった指針を掲げられたのか教えてください。
いのりと司の成長を見守りたい、そこが作品として一番大事なところだと思いました。ただ原作をそのまま描こうとすると説明的な要素も多くなってしまうので、そこは脚本の花田(十輝)さんと話しながら、今のような形になりました。
フィギュアスケートはしっかり描きたいというのがあったので、なるべくスケートシーンの尺は現実のものと同じくらいにまとめています。そのための尺はどうしても必要なので、落とせるところは削ぎ落とし、より見せたいところに集中させる。それが『メダリスト』の最たる指針ですかね。
――ストーリーラインを決める過程で、花田さんからは具体的にどんな提案がありましたか?
どこを見せてどこを削るか、いろいろご提案いただきました。例えば原作なら最初に加護家の描写があるんですが、アニメ第1話ではそこを削っています。
なので、第1話を観たときに加護さんたちがアニメでは描かれないのかと不安になった視聴者もいたと思うんですが……。それは、後のエピソードで原作を膨らませた形でオリジナル要素を追加し、加護家をよりしっかり描くための構成でした。この点も花田さんからご提案いただいたことですね。
ふたりの出会いから始まる関係性がとても愛おしい
――本作の軸となる結束いのりと明浦路 司については、どう描こうと考えられましたか?
いわゆる主人公は才能溢れる描き方をされることが多いですが、原作ではそれが記号的な描き方にはなっておらず、いのりに説得力を持たせられるキャラクター作りがされています。なので、アニメではそのあたりの細かい描写やいのりの考え方が、よく伝わるように描いていこうと。
ひとつのことにとことん一生懸命になれるいのりのような人は、どの業界でも成功できる人だと思います。いのりにはその説得力がありますし、人を勇気づけられるキャラクターだと思います。いのりは司に出会えたからこそ今のいのりがあり、司も同じようにいのりと出会えたからこそ、お互いが成長していき、自身を好きになるところへとつながっていきます。
だからこそ、この関係性はとても愛おしいんですよね。
――山本監督が一番描きやすかったキャラクターは誰でしたか?
やっぱりいのりですね。動きも表情も豊富でアニメーションにするにはやりがいがありました。ミケ(三家田涼佳)もお気に入りで、正直ずっと出てほしいなと思うくらいでしたけど(笑)。その場にいると明るくなるキャラクターなので、司といのりが面倒くさいこじらせかたをしたときなど、ミケのような一見単純だけどしっかりと意志が強いキャラクターはムードメーカーになってくれますね。
――これまで多数の作品を手掛けられてきた山本監督ですが、『メダリスト』だからこそ意識した部分はありましたか?
人間ドラマも重要な作品なので、ドキュメンタリーを観ているかのような実写的なレイアウトを意識して描いています。その上で、ギャグシーンでは思いっきりデフォルメしています。そのギャップを楽しんでもらえたら嬉しいです。
自分が今まで関わってきた仕事で評価してもらっている部分は、「丁寧にキャラクターを描くことで感情移入してもらい感動する」という点だと思っています。本作ではそこが大事なポイントなので、すごく力を入れましたし、自分のテイストともぴったりハマったかなと思っています。
――キャラクターデザインの亀山(千夏)さんへは、どのようなオーダーをされたのでしょうか?
キャラデザのコンペでは、亀山さんの絵が一番『メダリスト』の魅力を捉えていたんですよ。もともとつるまいかだ先生の筆致は、女の子が可愛いだけじゃなく芯の強さを持っているので、絵のタッチにしても荒々しさと硬さ、柔らかさの表現がとても魅力的です。そのあたりをアニメのほうでも出せたらなと考えていましたので、亀山さんがピッタリそこにハマってよかったですね。
亀山さんがデザインを進めていると原作の理解度がどんどん上がっていくのがわかり、亀山さんといのりがリンクしているようでとても楽しかったです(笑)。
――フィギュアスケートの描写についてもお伺いします。本作ではフィギュアスケート監督・3DCGディレクターとしてこうじさんがスタッフィングされていますが、こちらについて教えてください。
本作は3DCGのシーンが非常に重要なパートですし、フィギュアスケートという専門的な知識が必要な作品でもあります。そのためすべて自分が見ていると作業のどこかが疎かになるのではと思い、フィギュアスケートのシーンを任せられる人を立てたいという要望はしていました。そこで3DCGサイド側から、3DCGも作画もどちらも扱える方ということで、こうじさんを紹介いただいたんです(編註:こうじさんは現在3DCGをメインに仕事をしているが、元々はアニメーター)。
本作はスケートシーンの作り方が通常のアニメとは異なる流れで制作していて、ここの監督をこうじさんにお願いしています。
ここは絵コンテというか、モーションキャプチャーのデータを基にいきなりビデオコンテを作っているようなものですけど(笑)。
――原作のコマには描かれてない演技などもありますよね。
そこはフィギュアスケート振付の鈴木(明子)さんに助けてもらいました。技のプログラムはある程度決まっていたので、その流れがつながるようにプログラムを組んでもらっています。
――3Dのスケートシーンで大変だったところは?
やっぱり表情です。表情が一番難しいと思っていて、最初から表情は3DCGでなく作画にしようかとも考えていたくらいでした。ですが本作の3DCGを見たときには、3DCGアニメーターの腕次第ではここまで豊かに描けるのかと感動しました。
この作品に対するENGIの3DCG部の熱意や意気込みがすごく、それが完成した映像にも現れていると実感しました。その中でも特に良かったと思ったのは、光の演技ですね。光の演技はほかのキャラクターに敵わないと思わせるくらい圧倒的に差を付ける必要はありますが、それをセリフじゃなく映像のみで表現するといのは非常にハードルが高いことだったと思います。
でも、できあがったものを観れば、視聴者の方も納得な素晴らしい出来に仕上がっていて安心しました。
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「本当にフィギュアスケートをやりたいと言ういのりと、それに答える司のシーン。ここが作品の中で一番印象に残ったシーンでした」
――山本監督が一番印象に残ったエピソードについても教えてください。
自分が演出した話数はどうしても愛着が湧くので、やっぱり第1話ですね。これがいちばん大事な話数だったので。アニメ化するにあたって越えるべきハードルは全部ここにつまっていて、出し惜しみなんてできないなと。第1話放送後は好評な意見も多く、ポジティブな反応が非常に多く見られて、ホッとしました(笑)。
本当にフィギュアをやりたいと言ういのりと、それに答える司のシーン。ここが作品の中で一番印象に残っているシーンです。
――第1話はエンドロールで米津玄師さんの『BOW AND ARROW』が流れてきて、非常に強い余韻にもなりましたよね。本作のオープニングはこうじさんが手掛けられていますが、映像面はどのようなオーダーをされたのでしょうか?
米津さんの曲が非常にスタイリッシュなイメージだったので、かっこいい寄りの方向でと細かな指示をせずにお願いしました。ここはつるまいかだ先生にも確認してもらって、選手とコーチの関係性も重視してほしいという要望から今のような王道的な画作りができました。
いのりだけの物語ではなく、いのりと司のふたりの物語なんだぞということが描けていたのかなと思います。
――主演のおふたりのお芝居についてはいかがでしたか?
大塚(剛央)さんはオーディションの時点で完成されていて、「もう司じゃん!」というような状態でした。ただ、司は演じるにあたって難易度の高いキャラクターです。喜怒哀楽はあるけど、表情と思っていること、言っていることが異なっているなど、とても複雑なところがあります。
収録の際に、ここは少し違うなという部分を指摘したらすぐに軌道修正してくれて、大塚さんは適応力がすごい人だなと思いました。春瀬(なつみ)さんについては、最初はキャラを掴むのが難しそうでした。
いのりは子供だけど子供らしくない強さを持っているので、単純にかわいい演技をすればいいわけではないですし……。特に最初はネガティブな思いも抱えていて、そのあたりの心情の複雑さをどう表現していくのかというのが難しかったと思います。でも、大塚さんがその場を引っ張ってくれて、非常にムードのよい現場でした。春瀬さんもそんなムードに乗っかっていくような、作品とリンクした非常に楽しい収録でした。
――放送を振り返ってみて、この人のがんばりがあったからこそ『メダリスト』ができた、という方はいますか?
演出や作画面では、フィギュアシーンの作画スタッフです。基本は3DCGベースで描いていますが、練習シーンや3DCGモデルのないカットは作画班が頑張ってくれました。例えば自分で3DCGの動きやカメラを設定して、それをもとに下書きを描くといったことも、3DCGの専門的な知識が必要になります。そういうことをできるのが、ENGIの強みだと思っています。
――ちなみに、前号(2025年4月号)で取材した際、大塚さんが「監督が一番描くのが難しかったキャラクターは誰か気になります!」と仰っていたんですよ。
難しいというなら、大塚さんの質問だからではないですけど、司が一番難しかったと思います。上がってきた作画を見ても、司の表情はこうじゃない、こうは言っているけど内心は逆のことを思っているからこの表情じゃない、ということはよくありましたね。亀山さんは見事でしたけど、一発で描けた人は少なかったですね。
そういう意味では、総作画監督のひとりでもある栗原(学)さんは流石でした。彼に演出を担当してもらった第4話はキャラクターの表情であったり、司のギャグ顔のセンスだったりが非常に良かったんです。ほぼほぼ作画面をコントロールしていて、栗原さんの強みが出た良い話になったと思っています。
――制作が終了した今、『メダリスト』を振り返って、どのような心境をお持ちですか?
モーションキャプチャーを使ってアニメーションを作ったことや、3DCGシーンを普段の作画のシーンにいかに違和感なく近づけるかといった試行錯誤したことがとても印象に残っています。何度も止めてしっかり観ないと気づかないくらいのところまでレタッ チをできたからこそ、3DCGアニメーションを受け入れてもらえたのではないでしょうか。それだけにとても手応えのある作品になりました。
また、放送は終了してしまいましたが、第2期に向けて何度も見返していただきたいですね。例えば、第6話はアニメオリジナルの要素が強い話数ですが、司というキャラクターの掘り下げがここに凝縮されています。アニメ全話を見た上で見直してみると、司の印象が変わると思いますよ。

【Text=太田祥暉】
■DATA
【配信情報】
各種配信サイトにて好評配信中
【スタッフ】
原作=つるまいかだ(講談社「アフタヌーン」連載)
監督=山本靖貴
シリーズ構成・脚本=花田十輝
キャラクターデザイン=亀山千夏
総作画監督=亀山千夏、伊藤陽祐
フィギュアスケート振付=鈴木明子
フィギュアスケート監督・3DCGディレクター=こうじ
3DCGビジュアルディレクター=戸田貴之
3DCGアニメーションスーパーバイザー=堀正太郎
3DCGプロデューサー=飯島 哲
色彩設計=山上愛子
美術監督=中尾陽子
美術設定=比留間崇、小野寺里恵
撮影監督=米屋真一
編集=長坂智樹
音楽=林ゆうき
音響監督=今泉雄一
音響効果=小山健二
アニメーションプロデューサー=神戸幸輝
アニメーション制作=ENGI
オープニング主題歌=米津玄師『BOW AND ARROW』
エンディング主題歌=ねぐせ。『アタシのドレス』
【キャスト】
結束いのり=春瀬なつみ
明浦路司=大塚剛央
狼嵜 光=市ノ瀬加那
夜鷹 純=内田雄馬
鴗鳥理凰=小市眞琴
鴗鳥慎一郎=坂 泰斗
三家田涼佳=木野日菜 那智鞠緒=戸田めぐみ
大和絵馬=小岩井ことり
蛇崩遊大=三宅貴大
鹿本すず=伊藤彩沙
高峰 瞳=加藤英美里
TVアニメ『メダリスト』公式サイト
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(C)つるまいかだ・講談社/メダリスト製作委員会