
可愛らしさと力強さをあわせ持つ、唯一無二の美しいイラストで多くの人を魅了し続けるイラストレーター・ワダアルコさん。その魅力を存分に堪能できる展示会「ワダアルコ展 Fate & Fate/EXTRA ART WORKS -flower parade-」が、松屋銀座8階イベントスクエアにて8月11日(月)まで開催されています。
PASH!2024年4月号
アルコさんのモチベーションや描いているときの熱量が、キャラたちに投影されていると感じます【世界】
世界(以下、世) 僕はアルコさんが描いた『Fate/EXTRA』のネロ・クラウディウスが大好きで、あの目にすごく惹かれたんです。そうしたらラジオで一緒にパーソナリティを務めている和田昌之さんがアルコさんと知り合いだってことが判明して、ラジオを見学に来ていただいたんですよね。
ワダアルコ(以下、ア) 最初は「EXILEさんのラジオになぜ!?」ってビックリしました。“EXILEの世界さんがやってる、オタク系情報のラジオ”という説明にも困惑しつつ。元々作家仲間のタスクオーナさんが世界さんのファンなことを常々聞いていたので、彼に世界さんはオタクだよということも含め色々教わりつつ、一緒に番組見学にお邪魔させていただきました。最初は緊張しましたが、5分も話したら「このLDHの人、本当に軸足がオタクにあるほうの人だ…」って分かって。いろいろな漫画の話をしましたね(笑)。
世 アルコさんはお仕事の経歴が長いですけど、いつから絵を描き始めたんですか?
ア 幼稚園くらいからいわゆるお絵描きが好きで、ずっとお姫様の絵ばかり描いてました。原点はそこですね。小学校4年生くらいのときに学校で『らんま1/2』の単行本の表紙をみんなで模写して遊んでたら、友達が「一番上手いじゃん!」って褒めてくれたんですよ。「まあね」なんて返しつつ、内心すごく嬉しくて。しかも、漫画のキャラをすごく意識してなぞったことで、初めてイラストの描き方に触れた感じがしました。
世 すごい原体験ですね。そこから、もっと絵にのめり込んだんですか?
ア そうですね。それまではひたすら“リボンが付いたドレスを着たお姫様が、正面を向いて手を後ろに隠して立ってる”という自分のなかの“概念お姫様”を描いていたけれど、模写をしてそれ以外の描き方があることを知ったので、「もっと上手に描いてみたい」という気持ちが生まれました。しかも、それを試してみたら概念お姫様がさらにかわいく見えたんです。それも嬉しくて。
世 描くのはお姫様だけですか? 男の子は描かなかったんですか?
ア 男の子にかわいいパーツをつける趣味がそのころにはなかったから描いても楽しくなかったんですよ。だから、描くのはお姫様とウサギと草だけ(笑)。ドレスを描きたい欲求が強くて、とにかくいっぱいフリルとレースとリボンを付けましたね。
世 今も絶対に、キャラの服を描くのが好きですよね?(笑)
ア 好きですね~! 布を描くのが好きなんですよ。模写したキャラにもドレスを着せてました。
世 その絵に、次の進化が起こるのはいつなんですか?
ア やっぱり明確にオタクになってからですかね? アニメを好きになって、漫画もそれまで以上に読むようになると、概念お姫様よりもっとキャラクターっぽいものが描きたくなりました。だから、その辺でお姫様を追求していくターンが終わりましたね。
世 でも幼稚園のころから絵が好きで、それを仕事にするまで続けるってすごいことですよ。
ア 画集やゲームイラストのように描いた結果を商品として手に取る瞬間に感じる喜びはもちろん素晴らしいものですが、それはそれとして、そこに行きつくまでの絵を描く工程や手遊び自体がすごく楽しいタイプで、それが昔から変わらないから、続けていられるんじゃないかなと思います。
世 これまでに絵を描くのが嫌になったことはないんですか?
ア ないですね。私はあんまり絵の才覚があるほうではないんですけど、人の何倍描いても苦痛じゃないところでカバーできてますね(笑)。
世 確かに、これまで何回か絵に関するお話を聞いたことはありますけど、「苦しかった」っていうお話は聞いたことがないかも。
ア やりとりで困ることはまれにありますが、絵自体ではあんまりないですね。「絶対に無理、逃げたい」ってならないように、あまりに難しいと思ったときは、素直にクライアントさんに相談して楽しくきちんと描けるものに着地できるよう調整します。
世 それは、お仕事をする際に大切なことですね。
ア “プロならどんな絵でも描けないといけないんだろうな”っていう気持ちもありつつ、例えば「バク転してください」って言われても絶対できないから、「前転ならできるんですけど、どうでしょう? 倒立前転までならいけます!」って提案するような感じで(笑)。
世 僕から見ると、なんでも描いてるように見えますけどね?
ア 何も描いてないですね。
世 何も描いてないことはないですよ。
ア 好きな物しか描いてない!!
世 その感じは分かります(笑)。
創作が辛くならないために、自分にあった表現を選ぶ
世 絵を描くときは、創作モードにしっかり入りますか? それとも、いつでもどこでも描けるタイプですか?
ア 残念ながら絵を描くのに儀式が必要で、事前にやりたいルーチンがあるんです。部屋のエアコンを入れて、夏でも冬でもなにか羽織物を着て、コーヒーの横に小さいおやつを1個添えて…って。それを終わらせてからじゃないと落ち着いて描けないから、自分の家の机で描くのが一番かな? ラフまでならカフェでも描けるけど、そこから先の作業は家がいい。なので、イベントでライブドローイングをするお話などもよくいただくんですけど、あまりお受けしてないんです。
世 僕は儀式が全然いらないタイプで、いつでもどこでも…なんなら、移動中の車の中でも振り付けを考えられるタイプだから、儀式がある人ってカッコイイなって思います。そうやって自分のゾーンに入って、意識して作った物のほうが崇高な感じがするというか。
ア 儀式という魔法を掛けて自分を整えてる人間からすると、儀式なしで即座に創作モードに入れるのってすごく羨ましいです。
世 でも、一旦創作モードに入ったら、いくらでも描けるんじゃないですか?
ア ボディにダメージが入るまでは描き続けられますね。
世 ですよね? 今お話ししていても思うんですけど、アルコさんのモチベーションや描いているときの熱量って、キャラたちに全投影されている気がして。
ア “好きな物を好きに描く”っていう意味でのストレートさはイラストに出てるとは思います。イラストでもダンスでも、創作者自身のタイプに合っているものや表現を選択できると、作品が映えるし、本人的にも納得いく物ができると思うんです。逆にナチュラルに出てくるものが素朴な作風の作家が、“オシャレな絵が流行ってるから”“オシャレな作風の作家になりたいから”っていうセルフイメージの変更のために表現を無理やり曲げると、絵を描くこと自体がだんだんしんどくなっちゃうと思うんですよ。無理のない範疇で流行を取り入れたり、影響を受けて楽しく描きやすい絵で描き続けられるのが何よりかなと。私も無理せず描き続けて、そのうち古い絵だねえと言われるようになっても「それでも好き。古いけど、いいよね」って言ってくれる人たちに見てもらえたら嬉しいなって。
世 なんでそんなに謙虚なんですか?
ア 全然謙虚ではないです。自分の快・不快優先でワガママに描いてる自覚がありますよ。完全に“自分が楽しくて幸せ”っていうのを重要視して描いている絵に対してポジティブな言葉をくれる人は貴重だし、すごくありがたいです。
世 今後、こういう子を描きたいっていうのはありますか?
ア 自分の原点でもある、概念お姫様を結局ずっと描いてはいるんですよね。今もその概念要素を描かせていただいているキャラにまんべんなく散らし続けているんです。これって絵描きあるあるだと思うんですけど、何を描いても全部似てくるっていうのは、詰まるところ自分の好みにしたいから…っていうか。
世 それは描き手の特権ですね。
ア ただ、自分のなかに強固なお姫様像があった頃は好みの範囲がすごく狭かったんだけれど、3次元のアイドルにはまった結果、好きの範囲がグッと広がって…今では、道行く女の子が全員かわいく見えます (笑)。
世 そこで、アルコさんが大好きなハロプロが出てくるんだ!?
ア ハロプロメンバーって、顔のタイプの幅がすごく広いんですよ。だから、道行く女の子でも、おばあちゃんでも「鼻筋の感じが〇〇ちゃんぽいな」なんてメンバーの面影を感じるともう全員かわいい。二次コンだったのに立体大好きになってしまいました…。
世 それって無敵じゃないですか(笑)。
ア だから、逆に自分がかつて抱いていた狭くて強固な概念お姫様を80歳になるまで煮詰めて、情念のダイヤモンドになるまで突き詰めていたら、どんな絵になったんだろうなとは思います。それは今からではもう、絶対に手に入らないので。それもあって、Xとかではその人にとっての宝物みたいな絵を描いてる絵描きさんを好んでフォローしてます。
世 これからもアルコさんが楽しく描かれる素敵な絵を楽しみにしています!
Text=犬飼かおり
(※PASH!2024年4月号より抜粋)