『ほどなく、お別れです』『君が最後に遺した歌』が公開。三木孝浩監督「無意識に“響き合う”ものがあった」
『ほどなく、お別れです』撮影風景

『今夜、世界からこの恋が消えても』『アキラとあきら』などの作品を手がける三木孝浩監督の新作が2か月連続で公開になる。『ほどなく、お別れです』はすでに公開をスタートし、大ヒットを記録中。

来月20日(金)には『君が最後に遺した歌』が公開になる。



2作品はまったく異なるプロジェクトで、原作者も出演者も異なる独立した作品だ。しかし両作とも“喪失と残された者”を描いており、三木監督も「続けて撮影したことで、無意識に“響き合う”ものがあったのかもしれません」と振り返る。2作品はどのように制作され、そこにはどんな想いが込められたのか? 三木監督に聞いた。



三木監督はこれまでに数々のヒット作を手がけており、長年にわたって「プログラムピクチャー(映画全盛期に次々に製作された作品たち)を観て育ってきたし、自分もプログラムピクチャーを撮っていきたい」と語ってきた。2作品は別プロジェクトだが、企画・プロデュース(春名慶)、撮影監督(柳田裕男)、音楽(亀田誠治)、編集(坂東直哉)が同じで、映像のルック(見た目)や光の扱い方にも共通するものがある。両作は、同一チームで題材やジャンルの異なる作品を次々に手がけるプログラムピクチャー全盛期の作品のようだ。



「そうですね。気持ち的にはプログラムピクチャーですね(笑)。制作期間は限られていますから、同じスタッフで動くことで準備のメドも立ちやすいですし、スムーズに次の作品に移ることができる安心感があります。撮影監督が同じなのは、とにかく僕が柳田さんの撮る画のルックが好きだからというのもあります。2作品とも“喪失”を扱った作品ではあるんですけど、だからこそ暗い画の映画にはしたくないと思っていました。

どちらの作品も温かさと光に包まれた作品にしたくて、その点については柳田さんに全幅の信頼を置いているので、こちらから細かくお願いすることはなかったです」



公開中の『ほどなく、お別れです』が先に撮影された。なかなか就職が決まらずに右往左往している主人公・清水美空はある偶然から葬儀会社でインターンとして働くことになる。彼女は、仕事には厳しいが遺族や故人に対して誰よりも誠実に対応する先輩の漆原礼二や、仲間たちに囲まれながら、大切な人を失った人々に寄り添い、心を込めた“お別れのとき”をつくりだそうと奔走する。



「彼女の表情には本当に驚かされました」

『ほどなく、お別れです』『君が最後に遺した歌』が公開。三木孝浩監督「無意識に“響き合う”ものがあった」

『ほどなく、お別れです』

本作では大事な人を失った家族や恋人がかわるがわる登場し、主人公は彼らの“喪失”に寄り添う。三木監督はそのすべてを突き放した視点から描かず、あくまでも主人公・美空を演じた浜辺美波のリアクションを通じて描いた。



「そうですね。だから美波ちゃんが一番、大変だったと思います。遺族の方それぞれにバックストーリーがあって、そのすべてを美空がどう受け止めて、咀嚼するのかにかかっている。展開的には大切な人を失った側が大変に見えるかもしれないですけど、実は美空を演じるのが一番大変だったと思います。



本作でも美波ちゃんの芝居が本当によかったんですよ。特に表情です。彼女の眼差しや表情のちょっとした変化が本当にすごくて、大切な人を失った人に向き合ったときの変化を彼女はリアクションだけで表現してしまう。現場の確認用のモニターで観ていてもすごいんですけど、編集してスクリーンで観ると、彼女の表情には本当に驚かされましたね。



だからこそ現場にはあえて作りこまずに来てもらって、相手のお芝居を受け取って、美空の気持ちがどう“揺れ動く”のか、彼女に任せた部分はあります。事前に用意したものではなくて、撮影の瞬間に彼女の中でリアルに動いたものを見たかったんです」





「目黒くんはとにかく“気遣い”のできる人」

『ほどなく、お別れです』『君が最後に遺した歌』が公開。三木孝浩監督「無意識に“響き合う”ものがあった」

『ほどなく、お別れです』

美空の微細な変化を受け止め、彼女の変化に寄り添う漆原礼二を演じたのは目黒蓮。多くを語らない、無駄な動きはしない。しかし、最小限の動きと芝居で豊かな情感を表現する演技は圧巻だ。スッと立っているだけのように見える場面でも、彼は常に周囲の動きを把握し、そのすべてを受け止めて演技に反映している。



「目黒くんは美波ちゃんとは対照的で、いつも適切な場所に動かずにいる。すごく良いコンビになったと思います。目黒くん自身はとにかく“気遣い”のできる人で、撮影しているときも準備中であっても常に周囲を見ていて、自分がいるべきポジションはどこなのか、気をくばることのできる人。だから、撮影中は一番近くにいる美空の変化を誰よりも見て、受け止めていたと思います」



『ほどなく、お別れです』『君が最後に遺した歌』が公開。三木孝浩監督「無意識に“響き合う”ものがあった」

『ほどなく、お別れです』

清水美空、漆原礼二と仲間たちが向き合うのは、親族や家族を亡くした人々。劇中にはいくつかの家族が登場し、そのすべてが実力俳優陣の繊細な演技によって描かれる。本作は冒頭からクライマックスのような作品でもあるのだ。



「遺族の方たちを演じてくださった俳優さんたちは相当にこだわり抜いたキャストですから、主役しかいない、みたいな映画なんですよね。だからこそ、この映画ではどこがヤマ場になっても、どこがクライマックスになってもいいと思って撮っていました。

キャスティングが終わった時点で、絶対に良い芝居をしてくださると確信していましたし、いろいろなかたちの“お別れ”が描かれるからこそ、観てくださった方それぞれ違うヤマ場があっていいと思ったんです。



だからこそ撮影はなるべくテイクを重ねないで撮っていきたいと思っていました。ラストの川辺のシーンはなるべく一発勝負で撮りたかったので、俳優さんには“必ずしも台本通りのセリフでなくていいです”と最初にお伝えしました。だから、永作(博美)さんのセリフはアドリブの箇所もあるんです。そこにある感情だったり、気持ちが優先で、そんな瞬間を撮れてよかったと思っています」



誰だって大切な人を失えば、心が大きく揺れ動き、感情はあふれ出す。本作はそんな場面を“喪失した本人”だけでなく、その気持ちと対面する葬儀会社の主人公の変化も交えて描いていく。



「道枝くんはとにかく“揺れ動き”がいい」

『ほどなく、お別れです』『君が最後に遺した歌』が公開。三木孝浩監督「無意識に“響き合う”ものがあった」

『君が最後に遺した歌』

まったく設定も登場人物も異なる作品だが、3月20日(金)から公開になる『君が最後に遺した歌』も、三木監督によると「喪失の物語」だ。



早くに両親を失い、祖父母と暮らしている高校生の水嶋春人は、詩を書くのが趣味で、最近、転校してきた遠坂綾音からある提案を持ちかけられる。歌うことが好きな綾音は、自分で作曲もするが、文字の読み書きをすることが難しい"発達性ディスレクシア"の症状を抱えているため、春人に作詞を依頼したのだ。春人が言葉を紡ぎ、綾音が歌う。ふたりは音楽を通じて同じ時間を過ごし、ふたりだけの居場所を見つけていく。しかし、ふたりのドラマは想像もしなかった方向へと進んでいく。



『ほどなく、お別れです』『君が最後に遺した歌』が公開。三木孝浩監督「無意識に“響き合う”ものがあった」

『君が最後に遺した歌』

『ほどなく、お別れです』では、浜辺美波が演じる主人公の心の揺れ動きが重要な役割を果たしたが、本作では主演の道枝駿佑なにわ男子)の心の揺れが作品の主軸に置かれている。

転校生・綾音からの突然の提案に動揺しながら、主人公の春人は自分の言葉を紡ぎ、彼女の行動に翻弄されながらも自分の想いを育てていく。



「道枝くんはとにかく“揺れ動き”がいいんですよ。この映画は春人がどう揺れ動いていくのかが大事な作品なんですけど、道枝くんは思春期特有の、10代の揺らぎを芝居っぽくなく、初々しく演じてくれる稀有な才能を持った俳優だと思っています。セリフがない場面でも魅力的に見えますし、本人はすごくスタイルが良くて、とにかくカッコいいんですけど、撮影に入ってカメラが回るとスッと“スターのオーラ”を消すことができる。普通の教室には絶対にいないようなルックスの人なんですけど(笑)、パッと普通の高校生になる。ダンスとか本当に上手いのに、パッと“カッコ悪い動き”ができる。本当に不思議なんですよね。すごい才能だと思います。



だから撮影現場ではあえて綾音(生見愛瑠)が次に何をするのかわからない状況を道枝くんに与えて、そこに立ち現れる“生の反応”を撮りたいと思いました。ぎこちない瞬間もあったりするんですけど、それも準備したものではなくて、リアルにふたりがぎこちない状態なんです。道枝くんも生見さんもとにかく“人見知り”で(笑)。だからこそ、そんなふたりがお互いのことを探り合う過程を撮りたいと思いましたし、結果としてふたりが相手を探ろうとしている姿がとても愛おしくなりました。



だから具体的な演出をした、ということではなくて、“いい環境を整える”ことが、この映画にとっての演出だったと思います」



「続けて撮影したことで、無意識に“響き合う”ものがあった」

『ほどなく、お別れです』『君が最後に遺した歌』が公開。三木孝浩監督「無意識に“響き合う”ものがあった」

『君が最後に遺した歌』

一緒に歌を作り始めた春人と綾音は少しずつお互いを理解し、距離を縮めていく。通常の恋愛ドラマではこのあとふたりが結ばれて終わり、だが、本作は観客の予想を超える“その先”も描いている。



「それでも人生は続く、ですね。僕がこれまでに撮ってきた青春恋愛映画は、極端な例えを言うと、ふたりが結ばれて、キスするところで画面がフリーズして終わり、なんですよね。でも、この作品は“その先”も描かれている。そこは本当に面白いと思いましたし、自分でもチャレンジだな、と」



『ほどなく、お別れです』『君が最後に遺した歌』が公開。三木孝浩監督「無意識に“響き合う”ものがあった」

『君が最後に遺した歌』撮影風景

誰かを失い、それでも生きていく人々を描く『ほどなく、お別れです』もまた“それでも人生は続く”を描いた映画だ。



「そうですね。これまで自分が撮ってきた映画にはない2本になったかもしれないですね。『ほどなく、お別れです』は架空の物語ではあるんですけど、いまの自分の人生に触れるテーマをもった作品で、そこに向き合った上で『君が最後に遺した歌』を撮影できた。こうなったのは偶然ではあるんですけど、続けて撮影したことで、無意識に“響き合う”ものがあったのかもしれません」



繰り返すが『ほどなく、お別れです』と『君が最後に遺した歌』はまったく違う作品で、シリーズでもなければ、設定のつながりなどはひとつもない。しかし、両作品を観ることで浮かび上がってくる感情や “響き合う”ものが見えてくるはずだ。



『ほどなく、お別れです』
公開中



『君が最後に遺した歌』
3月20日(金)公開



(C)2026「ほどなく、お別れです」製作委員会 (C)長月天音/小学館
(C)2026「君が最後に遺した歌」製作委員会



編集部おすすめ