濃密な空間、カラス アパラタスで体験する、佐東利穂子による新作ソロダンス『紫日記』
『紫日記』チラシ画像 ©︎Yumiko Inoue(ALEXANDRE)

国際的に活躍するダンサー、振付家の佐東利穂子が、東京・カラス アパラタスにて新作ソロダンス『紫日記』を上演する。世界的振付家、ダンサーとして知られる勅使川原三郎のもとでダンスをはじめ、近年は勅使川原のアーティスティックコラボレーターとして重要な役割を担う。

そんな彼女が自身で原案、振付を手がける新作に、熱い視線が注がれる。



1985年に自身のカンパニー、KARASを設立し、日本国内のみならず、毎年実施する海外ツアーでも数々の作品を上演し続けている勅使川原。2025年は、3月から4月にチェコのプラハ、イタリアのソロメオ、ブレシア、ミラノ、イギリス・ロンドン、セルビア・ベオグラード、オランダのヘルレーンを巡り、ドストエフスキーの小説に着想した『The Idiot』や、さまざまな作曲家によるワルツで構成された『Waltz』、マーラー、ベートーヴェン、バッハなどによる緩やかな楽曲を踊る『Adagio』、チェリストのヨナタン・ローゼマンとのコラボレーション『Garden in the Sky』を上演。佐東はそのすべての創作において勅使川原のアーティスティックコラボレーターを務めるとともに、ダンサーとして唯一無二の存在感を印象付ける。たとえば『Waltz』を上演したロンドンでは、「佐東は⾃由な精神であり、思うままを体現できる唯⼀の存在」(Seeing Dance、マギー・フォイヤー)と賛辞を贈られた。



濃密な空間、カラス アパラタスで体験する、佐東利穂子による新作ソロダンス『紫日記』

ロンドン公演より

佐東が勅使川原のディレクションで初のソロ作品『SHE』を踊ったのは2009年のこと。2012年にはイタリアのポジターノで⽇本⼈として初めてレオニード・マシーン賞を受賞し、2019年にはカラス アパラタスで初の振付作品『泉』を発表、以後、海外から振付家として招かれる機会も。そんな佐東が勅使川原とともに活動の拠点としているのが、2013年に東京・荻窪に作られたカラス アパラタスだ。海外公演の期間以外、勅使川原はほぼ毎月のようにここで新作、あるいは旧作に新たな息吹を吹き込んでの上演に取り組み、これまでに110作以上を手がけた。その多作ぶりだけでなく、音楽、文学作品、芸術家に映画と多岐に及ぶ題材、それぞれに対する深い考察に、多くの観客が驚かされてきた。



60席ほどの小さな劇場で体感するふたりのダンスは圧巻。勅使川原のダンスと響き合う彼女の身体は、空気の中を自在に漂っていたかと思えば、尖ったナイフのような鋭さで迫ってきて、あっという間に引き込まれてしまう。

毎回、上演後にふたりが繰り広げるトークで、作品やそのモチーフがさらに身近なものに感じられたり、その偉大さがより明確になったりして、世界がぐんと広がるのを実感。ここで誕生した作品を携えて海外ツアーにのぞむケースもあり、カラス アパラタスはふたりの創作の場であるとともに、さまざまな体験を観客と共有し、さらに世界へと発信する、まさにかけがえのない場所となっている。



そんな濃密な空間で創作される佐東の新作。今回、勅使川原は演出を務めるというが、勅使川原振付作品とはまた違った化学反応を期待、『紫日記』というタイトルにどんな思いが込められるのか、あの小さな劇場でどんな感情が呼び起こされるのか、おのずと期待は高まる。



濃密な空間、カラス アパラタスで体験する、佐東利穂子による新作ソロダンス『紫日記』

『紫日記』イメージビジュアル photo by Saburo Teshigawara

紫⽇記
紫はもののあわれ 雲に隠れた夜半の⽉
過ぎ去った君の⾯影 ⽬を閉じて思う間に
私ではないものになり 君ではないものになり
魂を失いすべては消えゆく 雲は千切れ⽉が残る



佐東利穂⼦




■勅使川原三郎コメント



この新作、創作が待ち遠しい。我々は個々に独自の感覚を持ってダンスに向かっています。「紫日記」こそ、佐東利穂子の身体の外側と内側が、いままでにない形に表されるのだろうと、私は期待する。
存在が不確かだが、現れては消えてゆくこと、その反対に確かにそこに在るが、ほとんど無いかのよう希薄な有り様、これらは佐東利穂子の心がひかれる物や事だと常々話している。
それは全く彼女の身体の存在とダンスそのものでもあります。
無限の過去と未来の真ん中に踊る佐東利穂子が生きる「今」、「紫日記」。




<公演情報>
アップデイトダンス No.114『紫⽇記』purple diary



原案/振付/出演:佐東利穂⼦
演出:勅使川原三郎

2025年9⽉6⽇(⼟)~9⽉18⽇(⽊)
会場:東京・カラス アパラタス B2ホール



公式サイト:
https://www.st-karas.com/schedule/

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