「この作品から、歌うことありきでシーンを作るようになりました」~『アンサンブルデイズ』作・音楽:松尾スズキインタビュー~
松尾スズキ (撮影:野口知里)

言わずと知れた人気劇団・大人計画の主宰者で、シアターコクーンの芸術監督でもある松尾スズキが、このところミュージカルづいている。昨年3月、主任講師を務めるコクーン アクターズ スタジオ(通称CAS)1期生の発表公演のために『アンサンブルデイズ―彼らにも名前はある―』を書き下ろし、今年1月には多くのミュージカル俳優をキャストに迎えて『クワイエットルームにようこそ The Musical』を作・演出。

そして今月下旬には、CAS2期生による『アンサンブルデイズ』再演を控えている。自身初のミュージカルとなった『キレイ―神様と待ち合わせした女―』初演から四半世紀、松尾のミュージカル観はどのように変化してきたのだろうか?



録音してずっと聴いていた──出会いはテレビの中のミュージカル。

――松尾さんのミュージカル観に迫るべく、まずはミュージカルとの出会いからお聞きできればと思います。子どもの頃、テレビで『サウンド・オブ・ミュージック』や『マイ・フェア・レディ』などの映画を観たのが最初と伺っていますが、どのように楽しまれていたのでしょうか。



単純に、ジュリー・アンドリュースとオードリー・ヘプバーンが好きになっちゃって(笑)。僕はヘンな子どもだったので、ヘンなキャラクターとして描かれてる彼女たちに感情移入した部分もあるんでしょうね。まだビデオテープもない時代だから、テレビを録音して、楽曲がひと通り頭に浮かぶくらいの状態になるまでずーっと聴いてました。



――初めて舞台で観たミュージカルは?



『キャッツ』。東京に出てきて、有名なお芝居をいろいろ観ようと思ったなかのひとつです。面白かったけど、ちょっとまだ耳が慣れてなかったから、歌詞が聴き取りきれず何が起きてるのか分からなくて、猫たちがよろしくやってるな、みたいな感じでした(笑)。ミュージカルもいいなと思い始めたのは、『マイ・フェア・レディ』を観たあたりからですね。それがいつだったかは、ちょっと記憶が混沌としてますけど、大地真央さんと草刈正雄さんが出てた頃(=1997~2004年)。

自分の世界とは違うけど、きらびやかでいいなあと思ったのを覚えてます。



――よく言われる、急に歌い出すことへの違和感のようなものはなかったのでしょうか。



そこには元々、そんなに抵抗がないんですよね。僕のお芝居の中でも、歌は取り入れてきてますし。ただ、洋物を日本人がやることへの違和感はありました。急に演技が大仰になる感じはちょっと、あんまり好きじゃないというか。それは舞台とか稽古風景を、テレビを通じて観ることが多かったからかもしれないですけどね。ミュージカルはその頃から高くて、頻繁に観に行けるほどの財力は僕にはなかったですから(笑)。



四ツ谷のスナックでミュージカル観が変わった!?

――いいなあとは思いつつ、ご自身の作る演劇とは別物だったミュージカルに、2000年の『キレイ』で初挑戦されています。



「この作品から、歌うことありきでシーンを作るようになりました」~『アンサンブルデイズ』作・音楽:松尾スズキインタビュー~

あの時は、既存のミュージカルの概念を破壊しよう、みたいなアナーキーな気持ちでした(笑)。だから音楽も美術も俳優も、いわゆるミュージカル畑ではない方々にお願いして。これをミュージカルと言い張ることが面白いんだ、と自分に言い聞かせながらやってた気がします。



――確かに初演はいかにも松尾さん流のミュージカルでしたが、2005・2014・2019年と再演を重ねるうちに、歌が増えたり、歌い上げることへの照れ隠しのような演出が減ったりと、徐々に“ミュージカルらしく”なっていった印象があります。



それはね、『キレイ』で出会ったアンサンブルの人たちの影響が大きくて。初演の時から、メインの役はミュージカル俳優じゃない人たちにやってもらう分、アンサンブルはしっかり歌って踊れる人たちにお願いしたくてオーディションをしたんですよ。そこでいろんな人と出会うなかで、ミュージカルばっかりじゃなく僕らの芝居も観て世界観を理解しようとしてくれる人が増え始めて、そういう人たちを引き連れて四ツ谷のスナックで飲んだり歌ったりするようになって(笑)。彼らに誘われて『レ・ミゼラブル』みたいな有名作品も観たりするうちに、こんなナンバーもあるんだとか、重唱っていいなあとか、いろんな興味が出てきたんですよね。それにあの人たちの、あの恥ずかしげもなく歌う感じを見てたら、俺が照れてる場合じゃないなと(笑)。



あとは、『キャバレー』(2007/2017)で海外の作品を演出した経験が『キレイ』とか、その後の僕の作品にフィードバックされたところもあると思います。シンプルなストーリーの中に、ショーというものが明確に立ち上がる構成になっていて、こういうやり方もあるんだなと。旋律がちゃんと意味を持って、編み物のように物語を編み上げていることに気付いたんですよね。



――そうした経験の積み重ねによって、2020年の『フリムンシスターズ』では「真日本製・本格ミュージカル」を謳い、『クワイエットルームにようこそ』でついに『The Musical』と銘打つまでになったというわけですね。



「この作品から、歌うことありきでシーンを作るようになりました」~『アンサンブルデイズ』作・音楽:松尾スズキインタビュー~

咲妃みゆ松下優也昆夏美らミュージカル俳優と大人計画お馴染みの面々との共演も話題を呼んだ 『クワイエットルームにようこそ The Musical』(2026年1~3月上演) 撮影:細野晋司

自分の中で発想の転換があったのは、その2作の間の『アンサンブルデイズ』の時だったと思います。それまでは物語の流れありきで、「ここに曲があったらいいな」みたいな作り方をしてたのが、『アンサンブルデイズ』からは「“ショー”を作るんだ」って気持ちを大事にするようになったというか、歌うことありきでシーンを作るようになった。『クワイエットルーム』でも、シーンごとにまず曲のタイトルを書いて、その曲が入ることを目指して物語の持っていき方を考えていきました。

まあ本格ミュージカルを名乗るのは、こっちからそう言っていかないと、「これはミュージカルなのか?」みたいな反応が予想できたからでもありますけどね(笑)。



――なるほど(笑)。ちなみに、ミュージカルを観る側として、こんな作品に惹かれがちという傾向のようなものはありますか?



ものによる、としか言えないですね。『レミゼ』は名作と言われるだけあって、良い曲が多いなと思いますし、特に一幕終わりの畳み掛ける感じとかは最高だなと。『ミス・サイゴン』は構成が華やかで、悲劇だけとショーとして完成度が高い。『シカゴ』映画版の華やかさ、『ライオンキング』の舞台の工夫の楽しさなんかも意外と好きだから、手間暇かけて練り上げられた感じに惹かれてるのはあるかもしれないけど、シンプルな作品も面白そうだなとも思ってます。僕がミュージカルをやる時はいつも大所帯で、稽古してるとあっちもこっちも見なきゃいけなくて目が疲れてくるんで(笑)、シンプルな小劇場ミュージカルには、やる側としても興味を持ってます。



大人計画では描けない、残酷でリアルな青春群像劇

――『アンサンブルデイズ』は、ミュージカルの世界でアンサンブルとして生きる若者たちを描くミュージカルです。CASの発表公演に、こうした題材を選んだ理由を教えてください。



「この作品から、歌うことありきでシーンを作るようになりました」~『アンサンブルデイズ』作・音楽:松尾スズキインタビュー~

『キレイ』で出会ったアンサンブルの人たちの影響はここでも大きくて、スナックで彼らの愚痴を聞いてるうちにこの作品ができたと言っても過言ではないんですが(笑)。それにCASの生徒たちって、言ってみればアンサンブルみたいな存在じゃないですか。まだ世に出てないし、くすぶってるからこそ今ここにいるような人もいる。そういう人たちにアンサンブルの辛い現実を背負わせてるっていう、一見残酷なショーみたいな部分も、この作品にはあると思ってます。

でも青春って残酷な側面があるものだし、そこを生々しく演じられるのも彼らなのかなと。僕らはほら、全員歳を取っちゃって、青春を演じられないですから(笑)。



――大人計画版『アンサンブルデイズ』も観てはみたいですけどね(笑)。



ムリムリムリムリ!あんな裕福な暮らしをしてる人たちにこの芝居はできません(笑)。若者がちゃんと若者を演じて、しかも松尾にしんどい現実を背負わされてるという二重のリアルが、お客さんにとっても面白いんじゃないかと思います。発表公演と言ってもチケット代は取るんでね、そこはやっぱり楽しませないと(笑)。生徒たち全員をちゃんと活かすことと、自分の作家としてのクオリティを保つこととのせめぎ合いのなかで書いた、僕のリアルも乗っかった作品です。



――松尾さんのクレジットは、「作・音楽」となっています。作曲に関して、音楽の杉田未央さんとの作業はどのようなものだったのでしょうか?



「この作品から、歌うことありきでシーンを作るようになりました」~『アンサンブルデイズ』作・音楽:松尾スズキインタビュー~

オープニングとエンディングを含めて、半分くらいは僕が作ってます。詞の言葉がちゃんとハマるかどうかを一節一節考えながら曲を作って、スマホに吹き込んで杉田さんに送りつけました(笑)。杉田さんは、僕の芝居に稽古場ピアノでよくついてる方だし、僕が送ったものからベースを読み取ってくれたのもあって、その後はスムーズでしたね。でも本当、『クワイエットルーム』で宮川彬良さんの作曲を知った今となっては、俺はなんておこがましいことをしてたんだろうと思いますよ(笑)。

僕は感覚だけで作ってましたけど、宮川さんは、この音が来たら人の感情は跳ね上がるとか落ち着くとか、そういうシステムをちゃんと理解して、曲を演出するように作っていらっしゃる。理論があるというのはやっぱり強いですね。僕はもう、作曲はしないです(笑)。



――一方、演出はご自身ではならさず、前回は杉原邦生さん、そして今回はノゾエ征爾さんに託されていますね。



毎年いろんな演出家で上演する定番演目みたいにしていければと思ってるので、僕が演出する年もいつか来るんじゃないかと思います。ただ、自分が書いたものを人が演出するってまずないから、それを観るというのもひとつの楽しみではあって。杉原くんが演出した前回の公演、素晴らしかったです。イヤだなと思うところが出てきて当然だと思って預けたんですが、何の問題もなかったですね。特に良かったのは、みんなでちゃんと笑いのグルーヴを作り上げられてたところ。あんなにウケてるコクーン、僕あんまり見たことないですもん。



「この作品から、歌うことありきでシーンを作るようになりました」~『アンサンブルデイズ』作・音楽:松尾スズキインタビュー~

2025年、CAS第1期生発表公演として上演された『アンサンブルデイズ―彼らにも名前はある―』初演(演出:杉原邦生)より 撮影:細野晋司

今回のノゾエは、僕が最初に若手を育てようとした原点の時に立ち会っている、紛う方なき僕の教え子。そのノゾエが今度は教える側として、僕が書いたものを演出するっていうのはちょっと、何と言うかエモいです(笑)。

キャスティングからノゾエに任せてて、僕はたまに稽古を見に行くくらいなので、「頑張れー」と思いながら楽しみにしてるところです。



――ノゾエさんとCAS2期生による『アンサンブルデイズ』を、ミュージカルファンの皆さんにもお勧めするとしたら……?



ミュージカルの裏側みたいなものは見せることができるので、もしそういうことに興味があれば。音楽に関しては、僕が半分ぐらい作っちゃってるんで大声でアピールはできないですけど(笑)、杉田さんの書いてくれた曲は良いですよ。



――では最後に、今後の松尾さんのミュージカルとの向き合い方についてお聞かせください。これからも、ミュージカルをやっていきたい思いはありますか?



僕はまだ自分のことをミュージカル作家とか演出家とは思ってなくて、ただいろんな旅をしてるだけ。でもまあ、あと1本くらい書けるんじゃないかって気はしてますし、海外ミュージカルの演出にも興味は持ってます。海外のコメディはね、笑いのセンスが違い過ぎて、何が面白いのか分かんないことが多いから(笑)、やるならシリアスがいいなと。自分で書くなら、やっぱり少人数のミュージカルがいいですね。大人数だと、部屋数の問題なのか予算なのか、地方公演で泊まるのがビジネスホテルになっちゃうから、いつかは地方公演でシティホテルに泊まれるようなミュージカルが書きたいです。



取材・文:町田麻子 撮影:野口知里



<公演情報>
COCOON PRODUCTION 2026
Bunkamuraオフィシャルサプライヤースペシャル
『アンサンブルデイズ―彼らにも名前はある―』



作・音楽:松尾スズキ
演出:ノゾエ征爾
音楽:杉田未央



出演:コクーン アクターズ スタジオ第2期生
荒木穂香、石橋真理愛、伊藤優杏、尾崎京香、笠井涼乃心、久保嗣、粂野泰祐、
倉元奎哉、河内洋祐、古賀彩莉奈、酒向怜奈、佐々木春樺、澤田陸人、思方、
大河杏、樽見啓、堤麻綾、德重舞、中川大喜、吉岡苑恵



2026年3月19日(木)~22日(日)
会場:東京・Bunkamuraシアターコクーン



関連リンク

チケット情報:
https://w.pia.jp/t/ensembledays2026/(https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2538934&afid=P66)

コクーン アクターズ スタジオ 公式サイト:
https://www.bunkamura.co.jp/sp/cas/



編集部おすすめ