まもなく開幕!「耳」が生み出す“聴くという表現”がダンスに。勅使川原三郎が最新作『空耳』
アップデイトダンスNo.116『空耳』

世界的振付家、ダンサーの勅使川原三郎が、東京・荻窪のカラス・アパラタスにて新作『空耳』を上演する。今年もヨーロッパの複数都市での公演や国内ツアーにのぞむと共にカラス・アパラタスでの公演に意欲的に取り組んできた勅使川原によるアップデイトダンスシリーズの、2025年を締めくくる公演となる。



カラス・アパラタスは、勅使川原とアーティスティックコラボレーター・佐東利穂子の創作の場であり、観客と作品を共有する場。一昨年10周年を迎えたアップデイトダンスシリーズを通して、数多の作品がここで誕生、毎回、ダンス公演としては比較的長い公演期間を設け、上演を重ねてきた。ここで生まれた作品を携えて海外公演を行ったり、過去の作品の再演に取り組み新たな息吹を吹き込んだりと、勅使川原の創作活動において大切な場所となっている。



踊り手の息遣い、体温さえも感じさせるような60席ほどの小さなスペースで上演される勅使川原の作品。彼が創作で取り上げるテーマは実に多彩で、2025年もさまざまなテーマに向き合った。1月には作曲家ジョン・ケイジについて考察した『ケイジの夢』を上演したのち、チェコ、イタリア、イギリス、セルビア、オランダの計7都市での公演を経て、帰国後の4月には『骨と空気』を上演。タイトルは勅使川原が1994年に執筆した初の著作であり、作品を通してそのダンス創作の原点、思考の出発点に向き合った。



まもなく開幕!「耳」が生み出す“聴くという表現”がダンスに。勅使川原三郎が最新作『空耳』

『ケイジの夢』より
まもなく開幕!「耳」が生み出す“聴くという表現”がダンスに。勅使川原三郎が最新作『空耳』

『骨と空気』より

5月に上演された『悲しみのハリー』は、スタニスラフ・レムの小説『ソラリス』、またこれを原作とした映画からスタートしつつ、文学や映像とは異なる方法で「ハリー」を描き出した佐東のためのソロ作品、その改訂版だ。その後も『電気の夢』、『静か』と公演を続け、9月には佐東による新作『紫日記』を上演、10月にはイタリア出身のダンサー、ダリオ・ミノイアを迎えて『記憶と夢』を上演と、再演を含む多彩な作品が次々と上演された。



まもなく開幕!「耳」が生み出す“聴くという表現”がダンスに。勅使川原三郎が最新作『空耳』

『悲しみのハリー』より
まもなく開幕!「耳」が生み出す“聴くという表現”がダンスに。勅使川原三郎が最新作『空耳』

『紫日記』より
まもなく開幕!「耳」が生み出す“聴くという表現”がダンスに。勅使川原三郎が最新作『空耳』

『記憶と夢』より

今回、勅使川原が放つのは、「聴く」をテーマとする新作ソロ作品だ。創作について勅使川原は、「私の創作の方法は、規定された観念や方法論から離れて、元来の意味とは異なる解釈の可能性を自由に広げることが大事です。それは破壊的な作業ではなく、発端が同じでも別な発見や出会いがあるはずだという可能性を広げる構築的な思想が基本にあります」と話し、「例えば、空を耳と思ってみると空から何かが聴こえてくるが、逆に空が聴いているのではないかと思えてしまう。

歌も歌自体がそもそも聴いていて、それを我々が聴いているのだろうと思える」とも。「目一杯、空に向けて腕を高く伸ばした、その手の平が聴く宇宙の音、無数の聴き間違いをしている世界にはなんとたくさんの美しい空耳があるのだろう。耳が生み出す“聴くという表現”がダンスになるのだろう」と語り、その発想の探求がどのように作品へとつながっていくのか、想像が膨らむ。



アップデイトダンスシリーズで恒例となっている、終演後のトークも本シリーズの特色のひとつ。勅使川原が語る表現への思いなど創作者自身の言葉を通して作品理解を深めたり、観客自身が鑑賞を振り返る機会として設けられている。多彩な作品を発表し続け、さらに新たな方向性、創作への意欲を示す勅使川原の、現在の思考や創作姿勢に触れられる貴重な時間となりそうだ。




◼️『空耳』勅使川原三郎による作品テキスト



見る目と呼吸し話す口はきれいな目や素敵な唇と言われて顔の魅力を感じさせるが、耳は顔の一部だが前から見にくい横にあって、大きい小さい、形にしても変だと思われる 新作は聴くことに固執してダンスを探りたい 自然には広大な耳がある、空、森、海が聴いている空の耳、空耳、高く振り上げた手のひらが聴く宇宙の音楽、人が話す声、日常の聞き間違い、音楽も聴き間違いをして喜びや感傷を増幅しているのかもしれない。耳が生み出す聴くという表現が作るダンス。




<公演情報>
アップデイトダンスNo.116『空耳』



演出・照明:勅使川原三郎
アーティスティックコラボレーター:佐東利穂子

出演:勅使川原三郎

2025年12月13日(土)~22日(月) 
※17日(水)、18日(木) は休演。

会場:東京・カラス・アパラタス B2 ホール



公式サイト:
https://www.st-karas.com

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