
「フラットでいることが大切」。自身が出演する作品への向き合い方を尋ねると、薮宏太はこう答えた。
“音楽”と、会話のテンポを大切にして挑むタイムループ・ストーリー
薮の言う「フラットでいること」とは何だろう。彼は続けて、こう話す。
「作品にはいつも真摯に、心が乱れないよう、それこそ家でもステージに立っていても、自分ができることに向き合おうとしています。それに主演が和やかでいることが、座組の雰囲気の良さに繋がる。だから、極力そうあろうと心がけています」。
そして今回の『MONDAYS』は、映画『MONDAYS/このタイムループ、上司に気づかせないと終わらない』(2022年)にオリジナルストーリーを加えた音楽劇。小さな広告代理店のオフィスで、社員全員が同じ1週間を繰り返すタイムループ・ストーリーだ。薮は、友人から「面白い映画がある」と聞いてこの作品を観たという。
「ワン・シチュエーションのドラマで、いろいろな気づきから物語がどんどん大きくなっていく。小規模な作品ですけど脚本がすごく創り込まれていて『面白いな』と思いました。

今作では映画とは視点を変え、薮が演じる広告プランナー兼営業の村田賢が主軸となっていることも興味深い。
「人格的には、映画と変わっていないと思います。村田は自分のやるべき仕事をしっかりやっているからこそ、いわゆる“ブラック” になってしまうんでしょうね。要領のいい人やもうちょっと怠慢な人だったら、こうはならない。生真面目だから頑張り過ぎているような感じがします」。
ブラックな職場環境で、しかもタイムループによって同じ1週間が続くというシチュエーションを、薮はどのように感じているのだろうか。
「映画も舞台も、観ている人はすぐにタイムループしていると気づきます。でも登場人物たちは最初まったく気づいていなくて、徐々に気づき始めるんですよね。俯瞰して観ているお客さんと、気づいてない人たちっていう構図が面白い。同じやりとりを繰り返すから、お客さんも『このセリフは絶対ここで言うだろうな』って想像しますよね。そういう『またこれが来た』というワードがたくさん入っているのが面白い」。
取材が行われたのは、キャストによる本読みも行われた後。「音楽劇」と銘打たれ、また会話劇でもあるからこそ、感じるものがあったようだ。
「『音楽劇』というとキャストが歌うものだという印象を抱く方は多いと思います。実際、歌うんですけどね。でもそれだけではなくて、“音楽”の効果を使った “劇” です。そうした音楽との間合い、会話のテンポや間がとても大切だし、脚本そのものが面白いからこそ、演者がしっかり演じなくてはいけないと思っています」。
出ずっぱりで挑んだ『tick, tick...BOOM!』で得た自信
物語の中で、村田と行動を共にする場面が多いのがプランナー見習いの遠藤拓人。演じる平間壮一が出演した『イン・ザ・ハイツ』(2024年)を薮は観劇、とても惹かれるものを感じたそう。しかも同い年で誕生日も1日違い(薮は1月31日、平間は2月1日)と、今回の共演がとても嬉しいのだとか。
「『イン・ザ・ハイツ』では、会話から急にラップに入ったりするテクニカルなことをこなしていたのが印象的。ビジュアル撮影の時に少し話して、『フィーリングが合いそうだな』って勝手に思っています」。
平間の他にも、南沢奈央、森田甘路、吉本実憂、松尾敢太郎、岡田義徳、大空ゆうひ、梶原善と、個性の強いキャストが揃っている。
「梶原さんはキャラクターに入るのが本当にうまい。この段階でもう出来上がっていて、『名人芸』と言いたいくらいです。セリフの前に『ハハハ』ってちょっと笑うのも、お芝居としてごく自然なんですよね。『本当にすごいな』と思いながら聞いていました。キャリアが全然違うから、盗めるところがあるかわからないけど……」。
これまでにもさまざまな舞台に出演してきた薮。“舞台で演じること”を、どのように感じているのだろうか。
「お客さんの視点が自由だし、客席によっても角度が違う。舞台上で、演者の顔の角度や立っている時の向きが半身違うだけでも、すごく印象が変わります。だからたぶんお客さんは気づいてないかもしれないけど、セリフだけでなく舞台上での居方も本当に細かく覚えなくてはいけない。そこがとても難しいし、でも楽しいんですよね」。
薮にとって、昨年出演した『tick, tick...BOOM!』はとても大きな経験だったそうだ。ミュージカルの創作に打ち込む主人公を演じ、舞台上に出ずっぱりで膨大なセリフ量をこなしてみせた。

「最初に台本を読んだ時にト書きだと思ったところが、実は全部セリフだった(笑)。しかも2時間半の間、1回もステージからはけなかった。演出のアンディ・セニョール Jr.はまさに細かな体の角度を大事にする演出家で、あれを1か月乗り切ったことは自分にとってすごく大きな経験だったし、自信にもなりました」。
そして今回の『MONDAYS』、楽しみにしている方へのメッセージとは?
「学校や会社で、退屈な日常をループしているように感じることってあると思います。この作品を通して、ちょっとした気づきや工夫を加えたりすることで、そんな日常を少し面白くできると思ってもらえたら嬉しいです。そして映画を好きな方も、舞台版としての良さがとても出ている作品になると思うので、楽しみにしていただければと思います」。
取材・文:金井まゆみ 撮影:藤田亜弓
ヘアメイク:二宮紀代子 スタイリスト:寒河江 健(Emina)
衣裳=ジャケット¥74,800・シャツ ¥28,600・パンツ ¥33,000(以上全てmarka 問い合わせ先:PARKING(パーキング) TEL 03-6412-8217)、その他スタイリスト私物
<公演情報>
PARCO PRODUCE 2025
音楽劇『MONDAYS/このタイムループ、まだまだ終わらない!?』
上演台本・演出:ウォーリー木下
作曲・音楽監督:三浦康嗣(クチロロ)
出演:薮宏太 平間壮一 南沢奈央 森田甘路 吉本実憂 松尾敢太郎 岡田義徳 大空ゆうひ 梶原善
スウィング:花戸祐介 涼花美雨
【東京公演】
2025年10月5日(日)~10月27日(月)
会場:PARCO劇場
【大阪公演】
2025年11月1日(土)~11月3日(月・祝)
会場:森ノ宮ピロティホール
【長野公演】
2025年11月8日(土)・9日(日)
会場:サントミューゼ(上田市交流文化芸術センター) 大ホール
チケット情報:
https://w.pia.jp/t/mondays/(https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2561084&afid=P66)
公式サイト:
https://stage.parco.jp/program/mondays/