「すべてのことに感謝したい」八乙女光が気づいた“普通の日常”の幸せ
八乙女光 (撮影/梁瀬玉実)

3月30日東京グローブ座で初日を迎える「小さな神たちの祭り」は、東日本大震災をテーマにした舞台。Hey! Say! JUMPのメンバーであり、俳優としても活躍する八乙女光が大震災で家族を失った青年を演じる。

宮城県出身の八乙女は、津波にのまれて変わってしまった宮城の町をテレビで知るも、何もできない無力さに悔しい想いをしたという。震災を風化せず、語り継ぐ舞台になって欲しいと願う本作について真摯に語った記者会見のコメントと「当たり前の日常が幸せ」と教えてくれた独自インタビューを公開。



『生きる』ということをテーマにした役柄

「すべてのことに感謝したい」八乙女光が気づいた“普通の日常”の幸せ

(C)2026 舞台「小さな神たちの祭り」

3.11から15年──。東日本大震災をテーマにした内館牧子の原作小説を八乙女光主演で初の舞台化する「小さな神たちの祭り」。東日本大震災で家族を失った青年が、喪失感と向き合いながら周囲との絆と家族愛の中で再び前へ踏み出していく物語だ。3月2日、国際フォーラムで行われた製作発表に主人公の谷川晃を演じる八乙女光、晃の恋人・岡本美結役の堺小春、祖父・行雄役の斎藤暁、弟・航役の藤井直樹、親友・沢村純役の福田悠太、演出家の鈴木裕美が登壇。舞台への意気込みを語った八乙女のコメントを中心に届ける。



宮城県仙台市出身の八乙女が大学の進学を決め、故郷を離れていた際、宮城県亘理町に実家が津波に襲われ、家族全員が行方不明になる主人公・谷川晃を演じる。東京にいて1人だけ無事だった晃だが、復興が進んでも家族の消息は分からず、自分だけが幸せになるわけにはいかないと苦しむ日々を送っている。そんな彼の前にある日、不思議なタクシーが現れ、亡き家族や大切な存在とのつながりを感じる体験をすることに…。さらに漂流ポストに託した自分の思いが家族に届いていたことを知り、自分の苦しみや葛藤が見えない形で受け止められていたことに気づかされる物語だ。



「僕が演じる谷川彰は、イチゴ農家の長男で3月11日当日は、東京の大学に進学をするために東京にいて、津波に地元が襲われて家族全員を失ってしまいます。失ってから時間は経っても、家族との時間は止まったままで、色々悩みを抱えながら、それでも前を向こうとしていく。

『生きる』ということをテーマにした役柄になりました」



大切な家族を失い、二度と会えなくなってしまった晃の喪失感はとても大きなもの。八乙女は、震災以降、東北の町が変わってしまったことで自分の無力さを感じた経験があるといい、役の心の痛みが理解できると話していた。



「晃は『そこまでへこむか?』っていうぐらいへこんだりするんですよ。そこはとても人間臭いなと思う部分であり、等身大の大学1年目の男の子だなっていう風に感じます。震災で家族を失って、気持ちがダウンしてしてしまって、本当に何年もずっと引きずるんですよね。自分だけが幸せになるわけにはいけないと恋人の美結との結婚も踏み出せずにいて。もし不思議なタクシーが目の前に現れず、家族の想いを知ることができなかったら、立ち直れないくらい危ういところにいる役どころだと思いました」



震災で感じた悔しさ

「すべてのことに感謝したい」八乙女光が気づいた“普通の日常”の幸せ

八乙女自身、3.11は東京にいたという。15年前の当時のことを真剣な表情で振り返る場面も。



「震災当初はたまたまお仕事がなくて、東京にいて。お母さんと一緒に普通の日々を過ごしていました。大きな揺れを感じたので、二人で机の下に隠れて。しばらくして、テレビをつけたら、東北が大変なことになっていて驚きました。宮城のアナウンサーの方に実況中継もあり、お母さんと『この宮城のアナウンサーの方、すごく久々に見るね』っていう話をしたんですけれども。

『こういう形では見たくなかったね』っていう他愛もない会話をしたことが印象に残っています。あの時は、ただずっとテレビを観続けることしかできなくて。知っている街がどんどん変わっていく状況っていうのを目の当たりにして、何かしたいのに何もできないっていう無力さに、すごく悔しい気持ちを抱いたことを覚えています」



15年経った今、改めてこの舞台で震災と向き合ったという八乙女。この舞台をやることにとても大きな意義と使命を感じているのが言葉の節々から伝わってきた。



「あれから15年経って、今こうやって改めて東北のことを思い出そうってなると、3月11日の当日のことが中心で。岩手で当時の映像を観る機会があった時に『そうだ、こういうこともあったんだ』って忘れてしまっていることもあったんですよね。この作品を通してより深く思い出しました。明るい未来につなげるために震災と向き合うことは大切なこと。日本は、またいつこういった大災害が起きるか分からないので、備えることにも繋がりますし、この作品が何か気持ちのお守りになったらいいですね」



そんな八乙女は、舞台稽古にも熱がこもり、1つのシーンに1時間半かけて稽古に挑んでいるという。演出の鈴木裕美とひとつひとつのシーンに寄り添いながら、誠実に震災というテーマと向き合う姿に脱帽だ。



「台本を読んで、1行1行の言葉全部がすごく大切だと感じました。僕の中でよりリアルなものにしなきゃいけないなと思うので、稽古で1つのシーンに1時間かかるっていうのは、この作品では当たり前なのかなと思っています。

それぐらいかけないと、みんな腹に落として芝居はできないなっていう。芝居とリアルの狭間を演じるぐらいの気持ちでいます」



テーマソングは「あったかい曲」

「すべてのことに感謝したい」八乙女光が気づいた“普通の日常”の幸せ

(C)2026 舞台「小さな神たちの祭り」

今作の稽古が始まる前には作品の舞台となる宮城県の亘理町に実際に足を運んで、復興の状況や現地の今を見つめたと話す。亘理町は、仙台市から南へ30キロ、車で40分ほどのところにある海沿いの町。大津波は来ないと信じていた住民が少なくなく、被害が大きかった場所だ。震災後は、見渡す限り空の広々とした光景になったその土地を見て、どんなことを感じたのだろうか。



「僕は宮城出身なので、小さい頃から亘理へ遊びに行っていました。海水浴に行った思い出もある場所です。震災前は漁師さんがいたり、船があったり、もっとごちゃごちゃっと雑多な印象でしたけど、今はすっかりキレイになってしまって。それは復興の表れではあるんですけれども、僕には、心のどっかに虚しさをくすぐるような景色に映りました。でも、海は何も悪くないですからね。海を見て、ただただキレイだなと。そして、地元の方が買い物に訪れるふれあい市場は、安くお魚が買えたりするので、地元の方が買い出しとかに来られていました。そこのイチゴのジェラートがとても美味しくて…! 亘理で採れた、ここでしか食べられないフレッシュなイチゴのジェラートは、おすすめです」



役どころは、イチゴ農家の長男に生まれた青年ということで、亘理町ではイチゴ農家を訪れたという。

震災を乗り越えて、今でもイチゴ農家を続けている方とお話をするという貴重な機会もあったのだとか。



「この作品に出てくるイチゴ農家と本当に似ていて。ご家族と数人ですごく広いハウスでイチゴを作っているんですよね。震災があって、今まで続けてこられたのは、すごく気力が必要なこと。『どうして今までイチゴを育てるのを続けられたんですか』って聞いたんです。そうしたら、『毎年同じイチゴは作れない』っておっしゃったんですよ。で、それって、僕が舞台やるにあたって感じていることと、一緒だなと思いました。舞台って毎日同じ芝居をやるんですけど、毎日、同じ芝居って出来ない。ああ、イチゴも舞台も一緒なんだなぁって不思議な想いに包まれました」



舞台には、実際に実在する漂流ポストも登場する。震災で亡くなった人たちに向けて、手紙を投函し、メッセージを送ることがきるという東北の人々にとって心のよりどころとして大切にされてきた場所だ。そこに八乙女も訪れ、いろんな想いに触れたという。



「僕も漂流ポストがある場所に足を運びました。

皆さんが書かれたファイリングされたお手紙を読ませていただいたんですけれど。手紙ってすごく大事なことを書くこともあるんですけれども、僕が読んだ手紙には、日常の何気ないことが書いてあった。『こないだ足首ひねっちゃったんだよね。でも、大丈夫だから心配しないでね』みたいなことが書かれてあって。いや、そういうことだよねって。僕も亡くなったおじいちゃんにどんな手紙書きたいかなと考えたら、『もう30歳超えたよ』とか、他愛もないことを手紙に書きたいんですよ。『会いたい』とか、『今生きていたら何歳だね』っていうことも書いてあったりとかして。そんな数々の手紙から、誰を想う、思いの強さが伝わってきました」



今回の舞台で使用される楽曲の作詞作曲を八乙女が担当。本作への想いを込めて作ったというテーマ曲についても制作エピソードを明かした。



「この舞台のテーマソングという形で作詞作曲をさせていただくにあたり、演出の鈴木さんとも話し合いを重ねて作りました。2曲デモを作ったんですが、1曲はボツになり。歌詞も3回くらい書き直したんですよ。

おかげでしっくりくるものになって、作品に寄り添ったメロディーと歌詞になっています。観に来て下さった皆さんの心にも響くように、言葉がちゃんと伝わるように、テンポも少しゆったりしたあったかい曲です。子供たちが僕に向かって歌ってくれる曲なんですが、自分で作詞作曲した曲なのに、ウルッときてしまう…。それがお客さんにも伝わったらいいですね」



会見の最後に舞台を楽しみにしている皆さんに向けてメッセージを送る場面では、座長として堂々と頼もしく語る姿もあった。



「震災当時、本当に無力で悔しい思いをした僕が15年という月日が経って、こういう大きなプロジェクトに参加できるということで、本当にやる気に満ち溢れております。観に来て下さった方に、普通の日常っていうのがどれほど大事なのか…ということを感じていただけたらいいですね。未来に繋がる復興の舞台になったらいいなという想いで、カンパニーのみんなとこの作品を届けたいと思います」



独占Q&A「生きていて、呼吸しているだけで幸せ」

「すべてのことに感謝したい」八乙女光が気づいた“普通の日常”の幸せ

ここからはぴあが一問一答をぶつけて、回答してくれたQ&Aを公開!



Q. 晃は幸せになることをためらうキャラクターではありますが、八乙女さんが幸せを感じる瞬間は?



チートデイしか食べないんですけど、ここ半年くらいはラーメンを食べるのが至福のひととき。最近はこってりした家系ラーメンにハマっています。昨年、二郎系ラーメンにチャレンジしてみたら、全部食べきれたんですよ!! 残したら職人さんに怒られそうでためらっていたけど、心配なかったですね(笑)。あと、「一蘭」のような1人になれる仕切りカウンターで食べられるのは、ラーメンとしっかり向き合えて好きです。自分の好きなような味にカスタマイズして楽しんでいます。



Q. 不思議なタクシーに導かれて、亡き家族の想いを知るファンタジックな作品にかけて、八乙女さんのちょっと不思議な体験は?



僕はめちゃくちゃ晴れ男なんですよ。「雨予報だけど、この日に絶対ロケをします!!」ってスケジュールの時、たいてい晴れます。Hey! Say! JUMPは、晴れ男が多いかも。「今日、ロケで雨が降ってんの、珍しいな」と思うと、雨男のディレクターさんがいるんですけど、だいたいは晴れるので。



Q. 改めて宮城の好きなところは?



僕、沖縄とかも好きなんですけれども、宮城もゆったりした空気が流れる場所。音楽で例えると、バラードが流れているような感じなんですね。街の人たちの柔らかい雰囲気とかも好きですね。ちなみに宮城のおすすめスポットは、三陸の海。扇風機みたいなのを背負って、地上から600mぐらいの高さに飛べるアクティビティがあるんです。海の上を飛べる体験ができるんですけど、福島の方まで見えましたよ。僕はジェットコースターとか高いところが苦手なのにそれは、本当に空を飛んでいるみたいで、不思議と気持ち良かったし、本当に絶景だったなぁ。



Q. この作品を通して感じた、当たり前にあるようで感謝したいことは?



この作品に携わったことで、一見、当たり前に思えることの大切さが身に染みて感じていますね。例えば、キレイなお水を飲めることだって、ありがたいこと。家に帰って、普通に自分の好きなメーカーのウォーターサーバーの水が飲めるっていうだけでも、幸せなんだなって。当たり前に飲んでいる水も震災が起きたら手に入れることも大変ですからね。安心して眠れることだって、幸せですし。あと、移動でマネージャーさんの車に乗ると僕が飲む缶コーヒーが置かれているんですよ。『助かるなー、目が覚めるな』って思って、「いただきます」と言っていますけど、これも当たり前じゃないですよね。すべてのことに感謝です!



Q. 今作と関わったことで自分に与えてくれたいい変化は?



なんだろうな。自分がこの先、もしもへこんだり、視野が狭くなったりした時にこの作品のことを思い出そうと思っています。究極、もう生きていて呼吸しているだけで、幸せなんだって。生きていることへの感謝が湧いてくるお守りみたいな作品になりそうです。



撮影/梁瀬玉実、取材・文/福田恵子



<公演情報>
『小さな神たちの祭り』



「すべてのことに感謝したい」八乙女光が気づいた“普通の日常”の幸せ

原作:内館牧子(潮出版社刊)
脚本:G2
演出:鈴木裕美



【キャスト】
谷川晃役:八乙女光
岡本美結役:堺小春
沢村純役:福田悠太
谷川航役:藤井直樹
谷川広太郎/伊藤玄次役:中村まこと
谷川クミ役:西尾まり
谷川行雄役:斉藤暁



川口龍 小倉優佳
清水福丸/中村新(Wキャスト)・西山瑞桜/吉田葉乃(Wキャスト)



【東京公演】
2026年3月30日(月)~4月20日(月)
会場:東京グローブ座



【福島公演】
2026年4月24日(金)
会場:けんしん郡山文化センター 大ホール



【大阪公演】
2026年4月30日(木)~5月4日(月・祝)
会場:森ノ宮ピロティホール



【岩手公演】
2026年5月10日(日)
会場:トーサイクラシックホール岩手



【愛知公演】
2026年5月14日(木)・15日(金)
会場:COMTEC PORTBASE



【宮城公演】
2026年5月22日(金)
会場:東京エレクトロンホール宮城



【あらすじ】
2011年3月11日、舞台は、宮城県に実在する町、亘理町(わたりちょう)。イチゴ農家の長男・谷川晃(たにがわ あきら)は、東京の大学への進学を決め、故郷を離れていた。その日、亘理町は津波に襲われ、父母、祖父、弟を含む家族全員が行方不明に。復興が進む中でも家族の消息は分からず、「自分だけが幸せになるわけにいかない」と苦しみ続ける晃は、恋人との結婚にも踏み出せずにいた。そんな彼の前に、ある日、不思議なタクシーが現れる。震災による喪失と向き合いながら、周囲との絆と家族愛の中で再び前へ踏み出していく姿を描く。



関連リンク

チケット情報:
https://w.pia.jp/t/chiisanakami-matsuri/(https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2665197&afid=P66)



公式サイト:
https://chiisanakami-matsuri.com/



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