
演出家・野坂実によって、世界の名作ミステリーを舞台化していくプロジェクト「ノサカラボ」。2025年9月公演は、“ミステリーの女王”アガサ・クリスティの『THE MOUSE TRAP』を取り上げる。
ミステリー好きだけにクリスティ作品への出演は嬉しい驚き

ロールストン夫妻が営むマンクスウェル山荘のゲストハウスに、雪が降る中予約客4名がやって来る。さらに、車がスリップしたという外国人風の男性も急遽宿泊することに。その翌日、ロンドンで起こった殺人事件の捜査のため、トロッターという刑事が山荘を訪れた。彼は、童謡「三匹の盲目のねずみ」の楽譜で次の殺人が予告されていることを告げる。そして照明が突然消え、宿泊客のひとり、ボイル夫人が殺害されてしまう……。というのが『THE MOUSE TRAP』のあらすじ。
事件の捜査のためロンドンからやって来た若い刑事・トロッター役で本作への出演が決まったことを、金子は「僕は前からミステリーを読むことが好きだったので、いつか演じてみたい、そういう作品に携わりたいと思っていた」そうで、嬉しい驚きだったと話す。「ミステリーが好き」と言うだけあってもちろんクリスティ作品も読んでいて、一番好きなのは『アクロイド殺し』だという。
他には、東野圭吾作品も大好きなんだとか。
「『卒業』と『同級生』が好きです。トリックも面白いし、物語の進め方も急展開があったりして、面白いんですよね。」
確かに、トリックや筋立てに多彩なアイディアが盛り込まれていることはミステリーの大きな魅力のひとつ。そうした文字で綴られている小説の世界を舞台という形で表現することを、金子はどのように感じているのだろう。
「まだ台本もいただいていない状態ですし、本当に未知数。どんな舞台になるのか、僕自身すごく楽しみにしていますし、アガサ・クリスティのミステリーの世界観をていねいに表現していけたらと思っています。」

金子が演じるトロッター刑事は、「事件の捜査のためにマンクスウェル山荘までやって来た、陽気で平凡な若い男性」という設定。だが単独で捜査にあたっていることも含め、何か事情がありそうでもある。演じるにはかなり手ごわそうな役柄ではないだろうか。
「今は未知数で、台本をいただいたら目を通して、どうやって演じていくか考えていこうと思っています。もちろんその前に原作も読んで、台本と照らし合わせながらどうするか考えたい。でもこういうトロッター刑事のように何か複雑なものを抱えている役を演じてみたいとずっと思っていたので、この役をいただけたことが本当にありがたいですし、身が引き締まる思いです。
そう語って、意欲的な表情を見せる金子。ちなみに、これまで演じてきた役にはどのようにアプローチしてきたのだろう。

「原作があるものはそれを読んだり見たりするところから入りますし、原作のないオリジナル作品の時は脚本のト書きとかから『何を考えているんだろうな』って想像を膨らませたりして。いろいろな方法でその役に近づけるようにします。自分とは真逆の役柄だったりする時もあるので、そんな時は自分と役との違いを書き出してみたりもします。『この場面では、この役だったらどうするんだろう』と少しずつ深掘りを進めるんです。でも大枠だけイメージできたら、後は現場で一緒に演じる役者さんのお芝居に引っ張ってもらう場合もありますし、そこは作品によってまちまちですね。」
ダイレクトな観客の反応に舞台の喜びを感じて
今年3月に舞台「『魔道祖師』邂逅編」で主演し、初舞台を踏んだ金子。舞台で演じることについて、どのような思いを抱いたのだろうか。
「なんといっても舞台は生ものなので、公演ごとにちょっとした違いとか、相手との芝居が化学反応で変わってくるのは面白いですね。

初舞台は、比較的若手のキャストが多いカンパニーだった。今回の年長キャストに囲まれたカンパニーは、また空気が違うだろうと想像する。
「初舞台の時は年齢関係なくいろいろな人の稽古を見て吸収できたらいいなと思っていました。そういう意味ですごく勉強になった機会でした。今回も、僕はあまりしゃべるのが得意ではないので、お芝居を見ながらわからないことがあったら聞いたりして、いろいろなものを先輩方から吸収したい。皆さん本当にいろいろな作品に出られている方々なので、足を引っ張らないように頑張らないと。良い舞台にするためにも、皆さんとコミュニケーションをしっかりとっていきたいと思います。」
今回のカンパニーで、特に注目している、楽しみにしている共演者はいるのだろうか。
「事務所の先輩である石垣佑磨さんがいらっしゃるのが、すごく嬉しいです。石垣さんは『花ざかりの君たちへ~イケメン♂パラダイス~』(2007年)などで僕が小学生の頃からずっと活躍されてきた方なので、いろいろなお話をさせていただいて、一緒にお芝居をするなかでどんどん学ばせていただきたいと思っています。」

ちなみに、石垣の他にも金子にとって「かっこいいな」「素敵だな」と思う、憧れの俳優は誰なのか聞いてみると……。
「やっぱり同じ事務所の先輩で、妻夫木聡さんです。ものすごく優しい方ですし、お芝居も本当にていねいで、物語の世界の中でしっかり生きている俳優さんですよね。いつか僕も、俳優としてそういうふうに後輩に思ってもらえるようになりたい。ちなみに、妻夫木さんの作品の中でも一番衝撃を受けたのは映画『怒り』です。」
『怒り』は、今年『国宝』が大ヒットしている李相日監督による2016年公開の作品。李監督は、金子が「いつかご一緒できたら」と願ってやまない、大好きな監督なのだとか。
「李相日監督の作品で初めて観たのは、『悪人』(2010年)でした。李監督の作品は、恐怖だとかいろいろなものが混じり合っているのに映画としてすごく美しい。それに俳優さんの殻を破って新たな一面を引き出すのがすごく上手な方なんだろうなと感じています。僕もいつかご一緒できるように、今関わらせていただいている一つひとつの作品にていねいに向き合っていきたいと思います。」
そうした思いを抱いて挑む、ノサカラボ『THE MOUSE TRAP』。最後に、観劇を楽しみにしている読者へのメッセージをお願いした。
「原作がアガサ・クリスティなので、面白いことは間違いありません。それを舞台で表現するとどういうふうになるのか、原作を知っている方も知らない方も、楽しみにしていただけたらと思います。

取材・文:金井まゆみ 撮影:藤田亜弓
<公演情報>
ノサカラボ
舞台『THE MOUSETRAP』
構成・演出:野坂実
作:アガサ・クリスティ
翻訳:小田島恒志・小田島則子
出演:
金子隼也 天華えま 富永勇也
石垣佑磨 古山憲太郎
旺なつき 中尾隆聖
紅ゆずる
2025年9月19日(金)~9月28日(日)
会場:東京・博品館劇場
チケット情報:
https://w.pia.jp/t/themousetrap/(https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2561582&afid=P66)
公式サイト:
https://nosakalabo.jp/the_mousetrap/