
しずる(池田一真、純)、ライス(田所仁、関町知弘)、サルゴリラ(児玉智洋、赤羽健壱)という3組のお笑い芸人と作家・演出家の中村元樹による演劇チーム「メトロンズ」の最新作『No Sing, No End!』が9月10日に幕を開けた。初回公演前に行われたゲネプロの模様が報道陣・関係者に公開され、キャスト陣と演出の中村が手応えや意気込みを語ってくれた。
今回、ライスの関町は舞台「ハリー・ポッターと呪いの子」出演のためにお休みとなったが、第9回公演にして初めて外部からの客演として川上友里、福井夏というふたりの女優が参加し、計7名で行なわれる。
舞台となるのは、とある梨園。徳則(児玉)と聖(川上)の夫婦は、おいしい梨を求めてここに辿り着く。梨園にいた山崎(純)に出された梨を食べて、これまでに食べたことのないようなおいしさに驚愕するふたり。そこへ、秀雄(池田)と貴子(福井)というヤンキーカップルが現れるが、彼らはこの梨園は自分たちのもので、従業員である山崎によって10日間にわたり監禁されていたと主張する。

ここに、近所に暮らす緒形(田所)、秀雄の同級生で隣の梨園を経営する須藤(赤羽)を加えて物語が展開。紆余曲折を経て、彼らは伝説の梨と言われる梨ならぬ“アリ”の実をつくることに人生を懸けることになるのだが……。


池田の脚本によるコメディだが、笑いの方向性は、少しだけ特異な人たちの会話のずれや違和感をジワジワと抱かせていくというタイプのもの。一見、何の変哲もない郊外の梨園という雰囲気の「岡村梨園」だが、そこに集う人たちはごく普通の人々のようで、実はものすごくクセが強く、彼らの会話のビミョーな不協和音が積み重なり、シュールな笑いが生み出されると共に物語は不穏な方向へと突き進んでいく。

梨が大好きな仲良しの夫婦に見えて、“大好き”などというレベルを超えておいしい梨を食べることに執念を燃やす徳則と聖。同じく、おいしい梨を丹精込めて育てるという範疇を超えて、おいしい梨のためなら他人も自分もどうなろうとかまわないという次元で梨づくりに邁進する山崎。序盤は徳則や聖、山崎らの置かれた状況を整理し、まとめるという役を自然に買って出ていたが、その能力(?)をほめられたがゆえに「状況をまとめる」ということに異常な執念を燃やすようになる緒方。

そう、本作は通常のレベルでの「好き」や「得意」を超えて、異常なまでの情熱を持った者たちが織りなす衝突やずれを描いた作品。

そんな中で対照的な存在と言えるのが、池田が演じるヤンキー気質の秀雄。実家の梨園に嫌気がさして音楽を志して東京に赴くも、日和って挫折して実家に戻って梨園を継ぐもそこまで本気を出すでもなく、山崎や徳則らが“アリ”づくりに燃えるのをよそに、再び上京するという執着を持たない彼が最終的にどんな人生を手に入れるのか?

興味深いのは、(やや激情的な聖をのぞいて)山崎も徳則も緒方も、普段はどちらかというと物静かでおとなしいタイプの人間であるという点。そんな彼らが自分の「好き」に対しては主張を曲げずに周囲との衝突や軋轢をもいとわない姿、そのギャップが面白い。


観ている内に彼らの会話が生み出す独特の空気感、違和感にじわじわと浸食されていくような不思議なコメディとなっている。
ゲネプロを終えて、純は「初めて客演のおふたりが入っての公演だったので、おふたりを迎えられるような力が僕らにあるのか? 一緒にちゃんとメトロンズというものが出せるのか? という不安はあったんですけど、ゲネプロをやった感じとして、ひとつになってできたんじゃないかという手応えが確実にありました。ネガティブな話ではなく良い意味で(笑)、関町がいなくてもできるんだというのを感じました」と充実した表情で語る。

演出の中村も「客演のおふたりを招いてメトロンズらしさを出しつつ、客演の良さも引き出して、化学反応を引き起こしつつできるか? と思いつつ、稽古をやって、ゲネプロを終えてみて、全部できました! これまでで一番パワーと破壊力ある作品だと思います」と手応えを口にする。
脚本も担当した池田は「人を選ぶ作品だと思います」と予防線を張りつつ「あんまりという人にはあんまりでしょうけど、刺さる人にはそのまま貫いて、どこかに持って行きます!」と自信をのぞかせ「今回は僕が初めて作曲もしました。舞台装置もいままでにない感じで見応えはすごくあると思います」とアピールしてくれた。純は、本作について池田が「初めて泣けるお芝居を書いた」と言っていたことを明かし、共演陣からも「セリフが良い」と絶賛の声が上がっていた。
今回、関町は「ハリポタ」出演でお休みとなったが、その関町はこのゲネプロを鑑賞して、出演できないことを悔しがっていたという。
池田は改めて「いままでの公演で一番、生で見たほうがいいやつだと思います。ここでないと味わえない迫力があって、ダイレクトにガツンと来ます!」と劇場への来場を呼び掛けていた。
取材・文:黒豆直樹
<公演情報>
メトロンズ第9回公演
『No Sing, No End!』
脚本:池田一真(しずる)
演出:中村元樹
出演:
赤羽健壱(サルゴリラ)、池田一真(しずる)、児玉智洋(サルゴリラ)、純(しずる)、田所仁(ライス)、川上友里、福井夏
2025年9月10日(水)~9月28日(日)
会場:東京・赤坂RED/THEATER
チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2518779(https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2518779&afid=P66)
公式サイト:
https://metronz.jp/
※過去作品はメトロンズの公式YouTubeチャンネルにて全編公開中
公式YouTube:
https://www.youtube.com/@metronz_officialyoutube