
失語症当事者と文学座俳優が共演する朗読群像劇『言葉のラビリンス《迷宮》』が、2025年9月7日(日)に東京・北区の北とぴあ つつじホールで上演される。失語症を経験した人々とプロの俳優、言語聴覚士が一堂に会し、朗読を通じて「言葉」と「生きる力」に向き合う異色の舞台だ。
失語症とは、事故や脳卒中の後遺症として話す・聞く・読む・書くといった言葉の機能が低下する障害であり、国内におよそ50万人いるとされる。しかし外見からは分かりにくいため「見えない障害」と呼ばれ、社会的な認知度はいまだ十分ではない。当事者はしばしば誤解や孤立に直面し、支援の手が届きにくい状況が続いている。本公演を主催する一般社団法人ことばアートの会の代表・石原由理は、戯曲翻訳家として活動中の2013年に脳梗塞を発症し、自ら失語症を経験した。かつて自分が書いた台本すら読めない日々を経験したが、地道な朗読練習が言葉の回復に有効だと実感し、2021年には「失語症者のための楽しい朗読教室」を開講。以降、当事者と俳優が共に舞台に立つ朗読劇を企画し、2023年『言葉つなぐ明日へ~語れぬ者たちの朗読教室物語』、2024年『言葉に架かる虹』と上演を重ねてきた。観客の前で朗読に挑む姿は大きな反響を呼び、リハビリや社会参加の新たな形として注目されている。第三弾となる『言葉のラビリンス《迷宮》』は、この3部作を締めくくる集大成となる。失語症当事者に加え、言語聴覚士、文学座の俳優が出演し、発症からリハビリを経て現在に至るまでの実体験を脚本化。さらにライフネット生命保険株式会社創業者であり、立命館アジア太平洋大学元学長の出口治明氏が、自らの脳出血の体験をもとにした物語を提供しており、その挑戦し続ける姿が舞台の核となっている。文学座から鬼頭典子、村上佳が出演し、フリーアナウンサーの町亞聖がMCを務める。当事者や支援者とプロの俳優が共に朗読に臨む姿は、医療や福祉の枠を超えた「エンターテインメント」として社会に問いかけるものとなる。
公演後には精神科医の船山道隆氏、文筆家の鈴木大介氏、言語聴覚士の菅波美穂氏を迎え、朗読と失語症の関わりを多角的に掘り下げるトークショーも予定されている。また、今回の上演に向けて、出演者や関係者からもコメントが寄せられている。
■鬼頭典子 コメント
最初に(石原)由理さんからお話を頂いた時、当事者ではない私が、当事者の皆さんに囲まれて、しかも由理さんご本人の役を演じるということに抵抗を感じました。どこまでいっても私だけ嘘じゃないか、と。演劇なのかドキュメンタリーなのか。それは稽古しながらもずっと考えています。失語症に対する知識もなく、精神的なことで声が出なくなる病気だと思っていましたが、脳の機能障害であると知り、当事者の皆さんと稽古しながら、皆さんの明るさや果敢に言葉を話される様子に、逆に私が肩の力を抜けるようになりました。当事者とか健常者とか、あえて線引きをする必要もない。私だけ役をやっているのは確かだけれど、とにかく聞いて、感じて、向き合ってみて、そこから何が生まれるか身を任すしかないのだと、今は考えています。
朗読劇か演劇かドキュメンタリーか定義出来ない不思議な公演を、皆様どうぞ観にいらして下さい。
■村上佳 コメント
勉強不足ながら、失語症については存じ上げていませんでした。石原由理さんの「ことばアートの会」の活動を拝見し、朗読が失語症のリハビリにつながっていることに大きな驚きと感銘を受けました。
調べていく中で、失語症は誰にでも起こりうる症状だと知り、自分事として向き合うようになりました。思うように意思を伝えられない方々の代弁者として、俳優である自分が携われることに大きな意義を感じています。劇場には当事者の方もいらっしゃるはず。自分の新たな引き出しを開け、物語をしっかりと届けたいです。
この公演を通して、人生を前向きに生きていこうと思っていただけたら嬉しいです。世界は自分自身でつくり出していくもの。劇場でその一歩を一緒に踏み出しましょう。
■石原由理(一般社団法人ことばアートの会代表)コメント
失語症になっても、朗読や演劇が人を再び前へと進ませてくれる――。自ら失語症を経験した私は、朗読が言葉を取り戻すための大切な力になることを身をもって知りました。これまで多くの当事者の方と舞台をつくってきましたが、今回の『言葉のラビリンス≪迷宮≫』はその集大成です。
当事者の皆さん、言語聴覚士、そしてプロの俳優がひとつの舞台をともに創ることで、医療や福祉の枠を越えた「エンターテインメント」として失語症を社会に伝えたいと思っています。
この作品には、障害を得た後も人生をどう生きるかという問いと、希望があります。ぜひ劇場で、その一歩を一緒に感じていただけたら嬉しいです。
<公演情報>
失語症当事者×文学座俳優による朗読群像劇
『言葉のラビリンス《迷宮》』
脚本・演出:石原由理
出演:鬼頭典子、村上佳、「失語症者のための楽しい朗読教室」生徒
2025年9月7日(日)13:30開演
会場:東京・北とぴあ つつじホール
一般社団法人ことばアートの会
https://kotoba-art.com/