
Text:長谷川誠 Photo:山本倫子
愛と感謝の思いがたっぷり詰まった空間が広がっていた。楽しくて熱くて温かくて、でも時折、懐かしくて切ない、感情がめまぐるしく揺れ動く時間となった。
ステージの背後に掲げられた「TRICERATOPS」のロゴがいつもよりも存在感を持って視界に飛び込んでくる。今回のツアー、タイトルの中に“DEMOLITION & ELEVATION”という言葉がある。この言葉を日本語に直訳すると、“破壊と向上”といったところだろうか。新しい何かを創造するためには、それまでにあった何かを壊さなければならない場合もあるだろう。バンドは永遠に走り続けることはできない。どこかで立ち止まる瞬間も必要であるに違いない。“無期活動休止”という言葉からも分かるように、今回のツアーは大きな節目となるものだ。果たしてどんなステージになるのか。開演直前の会場内には、期待感と緊張感とが入り交じった空気が漂っていた。
だが、3人が登場した瞬間に、その空気は熱気へと一変した。吉田佳史(ds)がリズムを刻み、林幸治(b)のベースが加わり、客席もハンドクラップで参加。

和田唱(vo&g)
「よく来てくれたね。みんなに会えてうれしいです。今日はこの3人で最後まで、がっつり楽しませようと思っています。みなさんのすることはひとつです。嫌なことを全部忘れて、好きなだけ踊って歌って騒いでください」と和田のMC。その言葉どおり、ひたすら楽しいステージが展開された。
懐かしさのあまり、感極まった人もたくさんいただろう。ただし、懐かしさとともに新しさが加わっているところが、TRICERATOPSのTRICERATOPSたるところだ。新たなアレンジが施されている曲も目立っていた。ブルージーなセッションを導入部として始まったナンバーでは、グルーヴィーかつファンキーな演奏にしびれた。ブレイクの瞬間にも、大きな歓声と拍手。デビューから27年、進化し続けてきた証しとして、“2024年のTRICERATOPS”がステージの上に存在していたのだ。自在なセッションが入ってくるところも、彼らのライブの醍醐味だ。

林幸治(b)
“踊れるロック”を軸としながらも、じっくり聴かせるナンバーも散りばめてある。アコースティック編成での演奏も聴きどころのひとつ。ボーカルとコーラス、そしてそれぞれの楽器の奏でる音色のニュアンスの豊かさを堪能できるからだ。憂いを帯びた歌声と繊細なアコースティックギター、深みと味わいを備えたアコースティックベース、軽やかさとふくよかさを備えたカホーンとシェイカー。アコースティック編成によって、3人の“歌心”が際立っていく。スリーピースでここまで奥行きと深みのある歌と演奏を展開できるところが素晴らしい。
アコースティック編成での演奏が“うっとり”をもたらしてくれるものだとすると、近年の彼らのステージの恒例となっている林と吉田のセッションは“高ぶり”や“荒ぶり”をもたらしてくるものとなった。ふたりの生み出す骨太なグルーヴは、まるで恐竜の咆哮のように迫力に満ちていて、エネルギッシュでダイナミックだ。こんなにも観客を熱くできるリズム隊がいるところにも、TRICERATOPSの唯一無二の強みがある。

白熱のステージが展開されたコンサートの終盤、和田が話し始めた瞬間に、会場内が静まりかえり、観客が一言一句を聞き逃すまいと耳をそばだたせていた。無期活動休止についての説明があるのではないかと考えたのだろう。和田からは特に、休止を決めた理由についての説明はなかった。バンド内のことであり、3人にしか分からないこともあるだろうし、言葉で簡単には説明できないこともあるだろう。和田のこんな言葉が印象的だった。
「デビューして27年、今でもこうした景色が見られてとても幸せです。これからもやることは一緒です。音楽が好きで、ギターが好きで、バンドが好きで。曲を作って、みんなに会いにいきたくて、ライブで演奏して、みんなのリアクションをもらって、テンションがあがって。
この思いは林にも吉田にも共通するものだろう。ひとつだけ確かなのは、今回の無期限活動停止が、よりよい未来へと向かうために3人が下した決断であることだ。まっさらになり、さらなる高みを目指して精進していくことによって、きっと新たな未来が拓けていくに違いない。

吉田佳史(ds)
無期限活動停止とは、バンドの今後の予定は白紙であることを意味する。だが、湿っぽいところのまったくないコンサートだった。それはおそらく、いつものツアーと変わらず、そのときにできる自分たちの最高の演奏を届けたい、という3人の強い意思が根底にあるからだろう。そもそも、あの3人には湿っぽさはまったく似合わない。ラブソングからもロックンロールナンバーからも、観客への愛を感じる瞬間がたくさんあった。TRICERATOPSのすべての曲が、実は広い意味でのラブソングであるのかもしれない。本編の終盤から、アンコールにかけて、そんなことを感じていた。

先のことは誰にも分からない。そもそも自分だって、明日どうなっているか分からないのだから、すべてのライブは一期一会のものである。言われなくても分かっていると言われそうだが、これからこのツアーに参加する人には、冬眠前の熊がエネルギーを貯めるように、TRICERATOPSの奏でる音楽のエネルギーを貯蔵しておくことをおすすめしたい。つまりやることはひとつ。ステージ上の3人の姿を網膜に刻みつけること、会場内に鳴り響く音を鼓膜に刻みつけること、そして、あのグルーヴを肉体に刻みつけることだ。ライブが終わっても、演奏された歌の数々が聴き手の内面に残した痕跡は、消えることがない。それは、一度結ばれた絆が消えないのと一緒だろう。
バンドとは発明だ。異なる3つの生命体の発する音が混ざり合い、火花を散らしあうことで、観たことのない景色を出現させてくれたバンドがTRICERATOPSである。1度発明されたものは、止まることはあっても、消え去ることはない。発明された事実は変わらないからだ。3人の奏でる音が重なったときに、聴き手の憂鬱や退屈を一瞬にして吹き飛ばし、ワクワクやドキドキをもたらし、ハッピーにしてくれる。ツアー初日の川崎CLUB CITTA’でも、27年間一緒にステージに立ってきた者たちだけが奏でられるバンドサウンドが、確かに鳴り響いていた。大いなる発明に感謝。発明品の今後は不明だ。未来はまだ誰も知らない。

<公演情報>
『TRICERATOPS 無期活動休止TOUR '24-'25“DEMOLITION&ELEVATION”』
2024年11月19日(火) 神奈川・川崎CLUB CITTA’
<ツアー情報>
『TRICERATOPS 無期活動休止TOUR '24-'25“DEMOLITION&ELEVATION”』
■2024年
11月27日(水) 広島・LIVE VANQUISH
11月29日(金) 大阪・BIGCAT ※SOLDOUT
12月1日(日) 愛知・THE BOTTOM LINE ※SOLDOUT
12月8日(日) 北海道・cubegarden※SOLDOUT
12月15日(日) 宮城・Rensa ※SOLDOUT
12月21日(土) 新潟・新潟LOTS ※SOLDOUT
■2025年
1月10日(金) 東京・LINE CUBE SHIBUYA(渋谷公会堂)※SOLDOUT
TRICERATOPS OFFICIAL SITE:
https://triceratops.net/