これが東映映画! 西島秀俊×グイ・ルンメイ共演、日常がジワジワ崩壊していく珠玉のサスペンス『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』──真利子哲也監督の日台米合作【おとなの映画ガイド】
『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』 (C)Roji Films, TOEI COMPANY, LTD.

西島秀俊と台湾の国民的女優グイ・ルンメイがNYに暮らす夫婦を演じる日台米合作の『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』が、いよいよ9月12日(金)に全国公開される。監督と脚本を手掛けたのは、話題作『宮本から君へ』の撮影後、2019年にハーバード大学の客員研究員としてボストンに滞在し、アメリカでも制作活動を始めた真利子哲也。

「日常が、何かをきっかけに、突然壊れていく……」、その不穏な空気を見事に映像で表現したサスペンス映画の登場だ。



『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』



西島秀俊が扮するのは、ニューヨークの大学で建築を教えている日本人助教授、賢治。震災に遭遇してから「廃墟」というテーマに取り憑かれ、その研究成果でいまの職を得ている。この国に来てから出逢った台湾系アメリカ人のジェーン(グイ・ルンメイ)、ひとり息子のカイと3人で、ささやかに暮らしている。ジェーンは老いた父母に代わり、街の小さなストアの切り盛りをしているのだが、ライフワークは、人形演劇のアートディレクターだ。



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そんなふたりの現状が、説明的なナレーションやセリフなしに手際よく紹介される導入部分から、このあとの暗転をほのめかすようないくつかのアクシデントシーンをはさみ、やがて、息子が行方不明になるという事件へと展開していく。



これが東映映画! 西島秀俊×グイ・ルンメイ共演、日常がジワジワ崩壊していく珠玉のサスペンス『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』──真利子哲也監督の日台米合作【おとなの映画ガイド】

警察の捜査に協力するなかで、少しずつ吹き始める夫婦のあいだの微妙なすきま風。口に出さずにいた本音や悩みを互いに吐き出すこととなり、事件は、単純ではなく、思わぬ方向に進む……。



これが東映映画! 西島秀俊×グイ・ルンメイ共演、日常がジワジワ崩壊していく珠玉のサスペンス『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』──真利子哲也監督の日台米合作【おとなの映画ガイド】

真利子哲也監督は、長編デビュー作の『イエローキッド』(2009)、出世作となった『ディストラクション・ベイビーズ』(2016)、『宮本から君へ』(2019)と、発表する作品はすべて海外の映画祭で評価され多くの賞を獲得。2019年3月から1年間、ハーバード大学の客員研究員としてボストンに滞在して、「日本から離れた生活の中で、自分のアイデンティティの曖昧さや、新たなコミュニティに溶け込むことの難しさを感じながら、それまでごく当たり前にあった人間関係の複雑さを意識するようになった」そうだ。そんな自身の体験をもとに、異国で暮らすアジア人カップルを主人公にしたオリジナル脚本を書いた。



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「廃墟」や「人形演劇」という意味深なキーワード。

この夫婦のこだわりやトラウマ、精神世界を象徴するかのようで、映画は決して多くを語らないが、観ていると、サイドストーリーが目に浮かんでくる。秋から冬に向かうニューヨークという風景もあいまって、ひときわミステリアスだ。



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主演の『ドライブ・マイ・カー』(2021)が米アカデミー賞国際長編映画賞を受賞した西島秀後は、このところ、A24が製作したApple TV+のドラマシリーズ『サニー』や、『SHOGUN 将軍』のアンナ・サワイと共演する新作『Enemies(原題)』など、海外作品への出演が相次いでいる。本作は、日本人キャストは彼ひとり。オールNYロケ、セリフの90%が英語、というチャレンジである。



これが東映映画! 西島秀俊×グイ・ルンメイ共演、日常がジワジワ崩壊していく珠玉のサスペンス『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』──真利子哲也監督の日台米合作【おとなの映画ガイド】

ジェーン役のグイ・ルンメイは、デビュー作『藍色夏恋』(2002)から台湾、日本で人気をよび、ベルリン国際映画祭最優秀作品賞の『薄氷の殺人』ではファム・ファタール役、『鵞鳥湖の夜』では水辺の娼婦を演じるなどキャリアを重ね、いまやアジアを代表する女優のひとり。天才ドライバーを演じる『ドライブ・クレイジー:タイペイ・ミッション』も10月に日本公開される。



これが東映映画! 西島秀俊×グイ・ルンメイ共演、日常がジワジワ崩壊していく珠玉のサスペンス『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』──真利子哲也監督の日台米合作【おとなの映画ガイド】

この、間違いなく世界での活躍が増えるであろう俳優ふたりの絶妙なコンビネーションと、真利子哲也監督の緊迫感あるバイオレンス描写も冴え、一級のサスペンス映画に仕上がった。



これが東映映画! 西島秀俊×グイ・ルンメイ共演、日常がジワジワ崩壊していく珠玉のサスペンス『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』──真利子哲也監督の日台米合作【おとなの映画ガイド】

ところで、本作は、東映が海外展開を視野に入れた映画を作るために新設した「企画戦略室」による第1作。日本の他の会社と台湾の数社、ニューヨークの制作会社が参画した国際的な“座組”による作品だ。すでにフランス、台湾ほか世界での上映が決まっている。



東映と言えば、惜しまれつつ閉館した「丸の内TOEI」の上階に本社オフィスがあったが、7月に京橋の大複合施設「京橋エドグラン」へ移転した。

銀座にあった時は、試写も、ワシャワシャしている宣伝部などのオフィスをぬけて昭和の雰囲気ただよう試写室で行われていた。今回から、セキュリティばっちりな、最新鋭の試写室に変わった。



この作品も、おなじみの“岩に打ち寄せる荒波”と“三角形のロゴ”が映し出されるオープニング映像は変わらないが、全編英語で、これまでの東映イメージとはだいぶちがう。しかも東京の上映館は、アートフィルムの牙城、日比谷のTOHOシネマズ シャンテ他。東映は本気で“外国映画”を作ったのだなと思う。かなりいい感じ、です。



文=坂口英明(ぴあ編集部)



これが東映映画! 西島秀俊×グイ・ルンメイ共演、日常がジワジワ崩壊していく珠玉のサスペンス『Dear Stranger/ディア・ストレンジャー』──真利子哲也監督の日台米合作【おとなの映画ガイド】

【ぴあ水先案内から】



樋口尚文さん(映画監督、映画評論家)
「……不穏な蠱惑を全篇にまぶして人の孤独と狂気を凝視する真利子哲也監督の手腕には瞠目するばかりである。」



樋口尚文さんの水先案内をもっと見る(https://lp.p.pia.jp/article/pilotage/436516/index.html)



伊藤さとりさん(映画パーソナリティ)
「……影を印象的に使い、NYのクールさが伝わってくる画は、アーティストを生み出す街とはいえ、厳しい現実を突きつけるようにも感じる……」



伊藤さとりさんの水先案内をもっと見る(https://lp.p.pia.jp/article/pilotage/436591/index.html)



(C)Roji Films, TOEI COMPANY, LTD.

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