
5月9日(木)から、東京・シアター1010で『5月文楽公演』が上演されている。
これまで多くの伝統芸能公演を制作、上演してきた国立劇場だが、現在は再整備期間中。
襲名披露は『寿柱立万歳(ことぶきはしらだてまんざい)』で幕開き。大正4(1915)年10月、御霊文楽座初演『仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)』八段目「道行旅路の嫁入(みちゆきたびじのよめいり)」に挿入された引き抜きの場面として初演された。家屋を建てる際に初めて柱を立てる儀式である“柱立”を題材とした常磐津『乗合船恵方万歳(のりあいぶねえほうまんざい)』を義太夫節に移した作品で、太夫と才三が、門口で小鼓と扇を手に柱立を披露し、家々の繁栄を祈りつつ、賑やかに舞う。襲名披露公演の幕開きにふさわしくおめでたい一幕だ。

『寿柱立万歳』より
左から)才三:吉田文昇、太夫:吉田簑太郎
提供:国立劇場(撮影:田口真佐美)
続いて、「豊竹呂太夫改め十一代目豊竹若太夫襲名披露口上」で、新・若太夫を中心にゆかりの技芸員が舞台に並び、お客様にご挨拶の口上を述べる。

「豊竹呂太夫改め十一代目豊竹若太夫襲名披露口上」より
前列左から)豊竹呂勢太夫、竹本三輪太夫、竹本錣太夫、豊竹呂太夫改め豊竹若太夫、竹澤團七、桐竹勘十郎、竹本千歳太夫
後列左から)竹本小住太夫、豊竹芳穂太夫、豊竹希太夫、豊竹亘太夫、豊竹薫太夫
提供:国立劇場(撮影:田口真佐美)
襲名披露狂言『和田合戦女舞鶴』市若初陣の段は、元文元(1736)年3月に大坂豊竹座で初演された時代物浄瑠璃。作者は、後に三大名作と呼ばれる『菅原伝授手習鑑(すがわらでんじゅてならいかがみ)』『義経千本桜(よしつねせんぼんざくら)』『仮名手本忠臣蔵(かなでほんちゅうしんぐら)』の合作者のひとりで、『一谷嫰軍記(いちのたにふたばぐんき)』の執筆半ばで逝去した並木宗輔(千柳)だ。

『和田合戦女舞鶴』市若初陣の段より
左から)妻板額:桐竹勘十郎、市若丸:桐竹紋吉
提供:国立劇場(撮影:田口真佐美)

『和田合戦女舞鶴』市若初陣の段より
左から)浅利与市:吉田玉志、妻板額:桐竹勘十郎、市若丸:桐竹紋吉
提供:国立劇場(撮影:田口真佐美)
初代若太夫が初演し、十代目が襲名披露狂言に選んだ代々の若太夫ゆかりの演目に、十一代目が新たな生命を与える。
幕引きは、『近頃河原の達引 (ちかごろかわらのたてひき)』。「堀川猿廻しの段」「道行涙の編笠」が上演されるが、「道行涙の編笠」は実に34年ぶりの上演となる。自分を陥れようとした武士を殺めてしまった伝兵衛、恋仲の伝兵衛を案じるおしゅん、ふたりが心中することを恐れるおしゅんの母や兄・与次郎。京・堀川の貧家で、心温まる家族の思いやりや恋慕の情が交錯する。おしゅんの切々としたクドキ、おしゅん伝兵衛の門出の祝いに奏でられる猿廻しの曲と、印象的な場面が続く。「道行涙の編笠」では、おしゅんと伝兵衛のふたりが手を取り合って死出の旅立ちをする。美しくも哀切な調べも聞きどころだ。

『近頃河原の達引』堀川猿廻しの段より
左から)娘おしゅん:豊松清十郎 、猿廻し与次郎:吉田玉助、井筒屋伝兵衛:吉田一輔
提供:国立劇場(撮影:田口真佐美)

『近頃河原の達引』堀川猿廻しの段より
左から)猿廻し与次郎:吉田玉助、娘おしゅん:豊松清十郎、井筒屋伝兵衛:吉田一輔
提供:国立劇場(撮影:田口真佐美)

『近頃河原の達引』道行涙の編笠より
左から)娘おしゅん:豊松清十郎、井筒屋伝兵衛:吉田一輔
提供:国立劇場(撮影:田口真佐美)
公演は2024年5月27日(月)まで、東京・シアター1010(足立区文化芸術劇場)にて上演。令和元(2019)年以来の二部制となっており、Aプロで襲名披露公演、Bプロでは時代物の名作『ひらかな盛衰記(ひらがなせいすいき)』が本格上演となっている。

『ひらかな盛衰記』義仲館の段より
手前左から)巴御前:吉田簑紫郎、木曾義仲:吉田玉勢
後ろ左から)駒若君:吉田簑太郎、山吹御前:吉田勘彌
提供:国立劇場(撮影:小川知子)

『ひらかな盛衰記』楊枝屋の段より
左から)鎌田隼人:吉田玉佳、腰元お筆:吉田和生、駒若君:吉田簑太郎、山吹御前:吉田勘彌
提供:国立劇場(撮影:小川知子)

『ひらかな盛衰記』大津宿屋の段より
左から)船頭権四郎:吉田玉也、倅槌松:吉田玉彦、女房およし:桐竹勘壽、腰元お筆:吉田和生、駒若君:吉田簑太郎、山吹御前:吉田勘彌、鎌田隼人:吉田玉佳
提供:国立劇場(撮影:小川知子)

『ひらかな盛衰記』笹引の段より
腰元お筆:吉田和生
提供:国立劇場(撮影:小川知子)

『ひらかな盛衰記』松右衛門内の段より
左から)女房およし:桐竹勘壽、腰元お筆:吉田和生、船頭権四郎:吉田玉也
提供:国立劇場(撮影:小川知子)

『ひらかな盛衰記』逆櫓の段より
樋口次郎兼光:吉田玉男
提供:国立劇場(撮影:小川知子)
<公演情報>
令和6年5月文楽公演
■Aプロ
『寿柱立万歳』
豊竹呂太夫改め十一代目豊竹若太夫襲名披露口上
襲名披露狂言『和田合戦女舞鶴』
市若初陣の段
『近頃河原の達引 』
堀川猿廻しの段
道行涙の編笠
■Bプロ
『ひらかな盛衰記』
義仲館の段
楊枝屋の段
大津宿屋の段
笹引の段
松右衛門内の段
逆櫓の段
2024年5月9日(木)~5月27日(月)
会場:東京・シアター1010(足立区文化芸術劇場)
※15日(水)休演
チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2409333(https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2409333&afid=P66)
公式サイト:
https://www.ntj.jac.go.jp/schedule/kokuritsu_s/2024/6511.html
令和6年4月・5月文楽特設サイト:
https://www.ntj.jac.go.jp/kokuritsu/2024/bunraku_45.html