高杉真宙と考える“正しさ”「忘れないことが、過ちを繰り返さないための唯一の方法」
高杉真宙 (撮影/稲澤朝博)

時代によって“正しさ”は変わる。かつて“正しい”と信じられていたことが、時が過ぎれば悪となり、その罪を咎められるようなことが、昨今のニュースでも溢れている。

9月14日(日)より放送・配信がスタートする『連続ドラマW 夜の道標 -ある容疑者を巡る記録-』もまた、そんな“正しさ”を題材とした作品だ。

「信じられないな、という気持ちでした。しかも、そんな大昔の話というわけじゃない。たった30年前までこんなことがあったんだということが信じられなくて。人の価値観や常識は時代によって変化していくものだと改めて思ったし、その変化のスピードの速さに驚きました」

そう高杉真宙は語る。オセロのように気まぐれに反転する“正しさ”を前に、私たちはどうすればいいのか。不確かな現代を生きる一人の人間として、高杉真宙が考えたこととは――。



僕らの仕事は、きっかけづくりだと思っている

高杉真宙と考える“正しさ”「忘れないことが、過ちを繰り返さないための唯一の方法」

原作は、第76回日本推理作家協会賞を受賞した芦沢央による本格社会派ミステリー。1996年、学習塾を経営する男が殺された。容疑者は、被害者の元教え子で軽度の精神障害を抱える阿久津弦(野田洋次郎)。だが、阿久津は忽然と姿を消し、事件から2年が経過した今も消息不明のまま。なぜ男は殺されたのか。事件の根底に隠された“ある社会問題”に激しく胸が揺さぶられる。



「1996年は、僕が生まれた年。でも僕は、こういうことがあったということを、この作品に参加するまで知りませんでした。この問題によって影響を受けた人は、今この時代も生きている。なのに、こうやってどんどん風化していくことがショックでもありました」



多くの人が忘れてしまうのは、自らが当事者ではないからだろう。人は対岸の火事を見て大騒ぎし、火が消えてしまえば途端に興味を失い、また別の火事に目移りする。焼け野原となったその場所で、その後も生きていかなければいけない人がいることに目もくれずに。



「でもこの作品は、決してその責任を誰かになすりつけようとはしていないんですね。そういう描き方もしようと思えばできたと思う。でも、あえてしなかった。押しつけられないからこそ、観た人それぞれが自分の思う“正しさ”を考えることができる。そこが、この作品の良さだと思っています」



高杉真宙と考える“正しさ”「忘れないことが、過ちを繰り返さないための唯一の方法」

だからこそ、高杉真宙も考えた。あやふやな“正しさ”の前で、自分たちは何を信じて生きていけばいいのか、と。



「一つは歴史から学ぶこと。たとえば、今、僕の目の前にペットボトルがあります。これをテーブルの隅に置くと落っこちてしまうかもしれない。そう無意識のうちに判断して、僕はテーブルの真ん中のほうに置いている。これができるのも、今まで生きてきた歴史の中で隅に置くと危険だよということを学んできたからですよね。歴史から学び、忘れないことが、過ちを繰り返さないための唯一の方法。そのためには伝えていくことが大事なんだなと思う」



以前のインタビューで、「影響を与えられる作品に関わっていきたい」と高杉は話していた。エンターテインメントを通じ、社会を知り、人を知る。伝える側の立場にいる高杉にとって、『夜の道標』は自らのやりたいことを実現できた作品でもあった。



「最近、“継承”という言葉にふれる機会が多くて。先人が残したものを受け取り、次の世代へと伝えていく。それってすごく大事なことだなと考えているんですね。

僕らの仕事って、きっかけづくりだと思っていて。僕が今回の作品を通じてこの問題を知ったように、観てくださった人に何かきっかけを届けていきたい。そういう意味でも、この作品に参加できて良かったと心から感謝しています」



大事なのは、身近な人と“正しさ”をすり合わせること

高杉真宙と考える“正しさ”「忘れないことが、過ちを繰り返さないための唯一の方法」

物語は、事件発生から2年後の1998年を舞台としている。高杉が演じるのは、若手刑事の大矢啓吾。大矢の相棒であり、この物語の主人公である刑事の平良正太郎(吉岡秀隆)は、ひきこもりの息子との関係に悩んでいた。当時は、ひきこもりが社会で認知されて間もない頃。親も学校絶対主義で、なんとか学校に通わせようと無理やり説得するケースが多かった。



「これも難しいところですよね。何が幸せで何が不幸せかは、人それぞれ。時代だったり、その人の置かれている環境や年齢によって、何を良しとするか答えが変わってくるところだと思うんですよ。ただ、僕が感じたのは、今のほうが親の言ってることが絶対というわけではなくなった。そこは時代の変化なのかなと」



高杉真宙と考える“正しさ”「忘れないことが、過ちを繰り返さないための唯一の方法」

昨今は、子どもがひきこもりとなっても、「学校に行きたくなければ行かなくてもいいんだよ」と受容するほうが“正しい”とされているように思える。しかし、これもまた時代によって、ある日突然反転してしまう“正しさ”なのかもしれない。



「もしかしたら無理にでも学校に行かせたことで、その子の心に何か変化が生まれるかもしれない。人によって合う“正しさ”は違う。結局、何が“正しい”かなんて誰にもわからないんですよね」



その中で、高杉真宙は思う。



「“正しさ”を統一する必要はないと僕は思っていて。でないと、大多数の言ってることが“正しい”ことになっちゃう。多数決で“正しさ”は決まらないんじゃないかな」



声の大きい誰かがあげた意見に多くの「いいね」が集まれば、それだけでもう権威的な“正しさ”に見える。あるいは、メディアが流した情報を盲目的に“正しい”と思い込む人もいるだろう。でもどれも本当に“正しい”かなんて、誰にもわからない。



「だから僕は自分の身近な人たちと共通認識があればいいと思っています。今ってSNSでたくさんの人とつながれるからこそ、いろんな意見が目に入ってしまうけど、そこまで他人の意見って必要でもないんじゃないかなというのが僕の考え。親しい人たちとの間でちゃんとすり合わせができていれば、それでいい。何が“正しい”か定まっていない時代だからこそ、自分たちの間でこうだよねと信じられるものを見つけることが大事な気がしています」



野田さんには「ファンです」と言えませんでした

高杉真宙と考える“正しさ”「忘れないことが、過ちを繰り返さないための唯一の方法」

失踪した容疑者・阿久津弦をRADWIMPSの野田洋次郎が演じている点も、本作の大きな見どころの一つ。10代の頃からRADWIMPSを愛聴していた高杉にとって、ご褒美のような共演だ。



「『うわ、野田さんだ!』って思いました。挨拶はもちろんさせていただいたんですけど、その場で『ファンです』とは言えなかったですね。この曲が好きですとか、一個も言えなかったです(笑)」



こうした庶民感覚が、いかにも高杉真宙らしい。



「ファン心理ですね。野田さんに限らず、僕、今まで好きな芸能人の方と共演しても、一度もファンですって言えたことがないです。あ、でも、唯一、シソンヌのじろうさんには言えました(笑)」



『舟を編む ~私、辞書つくります~』でも俳優として高い評価を得た野田。その独特の存在感は、専業の俳優には出せないものがある。



「羨ましさしかないですね。野田さんに限らず、この畑以外の人たちの持っている独特のオーラや雰囲気は自分には絶対に出せないもの。違う星の下に生まれてきた人たちなんだなと認識しているので、コンプレックスも沸かない。ただただ、すごいなという一言です」



高杉真宙と考える“正しさ”「忘れないことが、過ちを繰り返さないための唯一の方法」

タイトルにも入っている“道標”。ゴールの見えない人生において、どちらに進めばいいか途方に暮れたとき、己の行く先を照らす“道標”が救いとなる。

だが意外にも、高杉自身は「“道標”にしているものは、あまりない」と明かす。



「あんまり考え方がブレないんですよね。よく僕は平等という言葉が好きだって言ってますけど、それも小学生のときからだし。子どもの頃に決めたことが今でもずっと残っていて、そのときの考えが今の自分をつくっている感じがします」



ならば、高杉真宙はあまり人生に迷わないタイプなのだろうか。そう尋ねると、「いやいや、もちろんどうしようかなって思うときはありますよ」とかぶりを振って、こう続けた。



「けど、僕の脳みそで考えても仕方ないことばっかりな気がするし。結局、俳優というのはいただいたオファーを受ける仕事なので。自分のこれがやりたいも必要ですけど、まずは目の前の仕事を精一杯やることがすべて。その積み重ねの中でしか“道標”は築けないんだろうなと思いながら、自分のやれることに全力を尽くすようにしています」



高杉真宙にとって“道標”とは遙か遠くにあるものではないのかもしれない。己の心に打ち立てた標のようなものであり、自らへの誓いや約束と言えるものなのだろう。胸の中の“道標”に従い、一心に歩む。その足跡こそが、高杉真宙という真面目で誠実な人間の生き方を、どんな言葉よりも雄弁に語っている。



高杉真宙に聞く「1998年ってどんな時代?」

高杉真宙と考える“正しさ”「忘れないことが、過ちを繰り返さないための唯一の方法」

――では、ここからは1998年という時代をテーマに高杉さんの素顔に迫っていきたいと思います。1998年時点で高杉さんは2歳。人生最初の記憶ってなんですか。



えー。なんだろう。でも、自分が使ってたおもちゃとか、枕カバーとかカーテンは覚えてますよ。



――おお。すごい。



今、パッと浮かぶのは、たぶん2歳か3歳の頃だと思うんですけど、祖父母の家でハエ叩きを持って遊んでる光景ですね。なんでハエ叩きを持ってるのかわからないし、なんで一人で遊んでいたのかも覚えてないですけど、ちょっと緑がかった水色のハエ叩きを持って遊んでいたのは覚えています。結構、小さい頃の記憶は残ってるほうなんですよ。末っ子とは4つ違いなんですけど、生まれた日の病院の光景とか、ちゃんと覚えています。



――では、1998年の世相についても聞いていきます。この年最も売れたシングルは、GLAYの『誘惑』でした。GLAYの『誘惑』、知ってます?



………(固まっている)。



――当時はヴィジュアル系などのロックバンドが大人気で、CDが最も売れていた時代とされています。



音楽がいちばん盛り上がっていたというのは聞いたことある気がします。いい時代ですね。



――ちなみにこのあたりの音楽で知ってるものってありますか。



Dragon Ashさんってそのへんですか。



――Dragon Ashは1997年にメジャーデビュー。一般的にブレイクしたと言われるのは、1999年。『Grateful Days』がオリコン1位を獲得したり、『Viva La Revolution』がミリオンセラーを記録しました。



そうなんですね。最近よく聴いてるんです。なんかいいんですよ。いつまで経ってもカッコいいんだなって感じが。PVとか観ててもカッコいいなって思います。



――漫画で言うと、『HUNTER×HUNTER』の連載が開始したのも1998年です。



長! でもまだ40巻いってないですからね(笑)。『NARUTO -ナルト-』『ONE PIECE』がそのあたりですよね。



――『ONE PIECE』が1997年。『NARUTO -ナルト-』が1999年に連載開始でした。



素晴らしいですね。数々の漫画が終わっていく中、『ONE PIECE』も『HUNTER×HUNTER』もいまだに漫画界を盛り上げてくれていますからね。



――『ONE PIECE』とか追えてますか。



今、何巻まで出てるんだろう。最近ちょっと追えてないんですけど、でも106巻くらいまでは読んでます。



――ファッションで言えば、ガングロギャルが全盛期でした。知ってます?



知ってますよ。爪が長いイメージです(笑)。



高杉真宙が「おじさんの顔をしてる」と言われたワケは?

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――じゃあ、そんな高杉さんにクイズです。この年の新語・流行語大賞年間大賞を受賞した女性二人組のお笑い芸人によるギャグといえばなんでしょうか。



えー。なんだ……? 女性二人組……?



――ヒント。胸を挟みます。



胸を挟む……? ダメだ。全然わからない。



――答えはパイレーツの「だっちゅーの」です。



あ~~~~~~!!!



――知ってます?



聞いたことあります。あれ? でもそれ天野(ひろゆき)さんとかのギャグじゃないんですか。



――それは「キャイ~ン」ですね。ポーズは似ているけど違います(笑)。



そうなんだ。勉強になりました(笑)。



高杉真宙と考える“正しさ”「忘れないことが、過ちを繰り返さないための唯一の方法」

――やはり1998年というのは、まだ若い高杉さんにとっては未知の時代のようですが、一方で高杉さん自身も年齢を重ねてきて、今の若い子たちのカルチャーが全然わからないと思うこともありますか。



もうまったくついていけてないですよ(笑)。流行り廃りが僕はまったくダメなので。最近、共演者の子と話をしていて。その子が18歳で、よくわかんない人形をつけてたんですよ。で、なにそれって聞いてみたら、どっかのポップアップストアで買いましたって言ってて、まずこのポップアップストアというのがなんなのかわからない(笑)。



――(笑)。



しかも、3時間くらい並んだらしいんですよ。2000円くらいしたそうで、それをキラキラさせるのが流行っているみたいなんですけど、もうまったくわからない。もう一人別の共演者の子と3人で話してたんですけど、「おじさんの顔をしてる」と指摘されました(笑)。



――ちなみに、その人形の正体はわかったんでしょうか。



名前がわからない……。なんか毛玉みたいな、毛むくじゃらの人形でした。



――ラブブではなく?



ラブブじゃなかったんですよ。ラブブだったらギリギリわかるので。ラブブじゃなくて、なんかぺっちゃんこだったんですよ。いや、でもあれもラブブなのかな。ぺっちゃんこのラブブって見ます? いや、ないか。



――じゃあ、高杉さんの見た人形はなんだったのか、このヒントから読者のみなさんに当ててもらおうと思います。これだと思うものがある人は、ぜひこの記事のX投稿へ引用リポストで教えてください。



はい(笑)。お願いします!



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「連続ドラマW 夜の道標 -ある容疑者を巡る記録-」9月14日(日)午後10時放送・配信スタート



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撮影/稲澤朝博、取材・文/横川良明
ヘアメイク/堤紗也香 、スタイリスト/菊池陽之介(RIT inc.)



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