【展示レポート】『アンチ・アクション 彼女たち、それぞれの応答と挑戦』 時代に抗い、独自の表現を貫いた14人の女性作家たち
手前の真鍮彫刻は宮脇愛子《作品》1968年 ほかすべて山崎つる子《作品》 (C) Estate of Tsuruko Yamazaki, courtesy of LADS Gallery, Osaka and Take Ninagawa, Tokyo

1950~60年、新しい時代の象徴とされた女性の美術家たちがいた。しかしわずか数年のうちに美術の中心から消えてしまう。

当時何が起こっていたのか。1950~60年代の戦後美術史を読み直し、この時代の女性の美術家と作品を再検証する展覧会『アンチ・アクション 彼女たち、それぞれの応答と挑戦』が東京国立近代美術館で2026年2月8日(日)まで開催中だ。



同展は、2020年にサントリー学芸賞を受賞した中嶋泉(大阪大学大学院人文学研究科准教授)著『アンチ・アクション─日本戦後絵画と女性画家』(ブリュッケ、2019年、第42回サントリー学芸賞受賞/『増補改訂 アンチ・アクション—日本戦後絵画と女性の画家』筑摩書房、2025年)をもとに、豊田市美術館、東京国立近代美術館、兵庫県立美術館のキュレーターと、同展学術協力者として中嶋がチームを組み、リサーチを重ねて実現。書籍では草間彌生、田中敦子、福島秀子、文庫版ではもう一人多田美波を加えた4名が登場するが、展覧会では芥川(間所)紗織、田部光子、山崎つる子らを加えて計14名に増やし、約100点を紹介している。12月20日に開かれた中嶋の講演会がほぼ満席となるなど注目の展覧会だ。



まずはプレス内覧会での解説をもとに、前史から時代背景をたどっておきたい。
敗戦直後から日本ではGHQが牽引し、婦人参政権の実現、男女平等を定めた日本国憲法の公布、民法改正による家制度の廃止といった女性解放政策が進められた。女性の社会進出の機運とともに女性画家がメディアに登場し、今回の出展作家では田中田鶴子、草間彌生、福島秀子が例に挙げられている。しかし実態的には男性の書き手による「新人女性」の紹介記事で、いずれも「女性的」「女流画家らしい感覚」「女性の画家としてはめずらしく」といった評価ともつかない表現が目立つ。



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プレス内覧会より、雑誌『芸術新潮』巻頭コーナー「期待される新人」

ところが、フランスの抽象絵画運動「アンフォルメル」が日本に流入した1956年末~57年頃に変化が訪れる。アンフォルメルとは、フランスの批評家ミシェル・タピエが提唱した、美術の伝統的な様式に依らず、形になる前の「未定形」や形を持たない「非定形」、偶然性、素材の抵抗を重視する概念だ。1956年アンフォルメルをまとまった形で紹介し東京・大阪・京都・福岡を巡回した『世界・今日の美術展』、翌年、来日したジョルジュ・マチウの公開制作でアンフォルメルブームが到来。

何を描くかではなくどのように描くか。タピエは福島秀子や田中敦子ら女性の美術家も評価し、国外での発表の機会を与えた。



作者の国籍やジェンダーなどの属性を問わず、物質感や制作方法など作品本位で評価するタピエ。東野芳明、針生一郎ら日本の男性批評家たちは日本人も国際舞台に参入できるのではないかという期待を抱き、美術雑誌『みづゑ』が主催するタピエとの座談会に臨んだ。しかしタピエの発言に西欧中心主義的な匂いを感じた彼らは、以降、アンフォルメルは一過的な「旋風」だったと批判に転じる。一方、同時期にアメリカから導入されたジャクソン・ポロックらの抽象絵画の様式概念「アクション・ペインティング」を評価し、勇ましさや強さといった男性中心主義的な価値観への揺り戻しが起きていく。戦後復興を賭けた高度成長期。日本では篠原有司男のボクシング・ペインティングなどが脚光を浴び、結果的に女性の美術家たちは周縁に追いやられていったのだった。今回の出展作家には草間彌生、田中敦子ら後の日本で再評価された作家もいるが、半数近い6名はいまだ美術館での個展が行われていない。



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プレス内覧会より、東京国立近代美術館 主任研究員・成相肇による解説が行われた

しかし当時の女性美術家たちは、アクション的ではない別の手法を模索し、それぞれの応答と挑戦を続けていた。こうした抵抗の動きを中嶋は「アンチ・アクション」と名付け、歴史から抜け落ちてしまった作家たちの再評価を促している。東京国立近代美術館の主任研究員・成相肇は「ジェンダー格差の問題だけが今回のテーマではなく、見落とされていた作品がいかに優れているか、間近でご覧いただきたいと思います。

その際、共通点を探すと再び“女性らしさ”に回収されかねないので、それぞれの個性や実践に着目していただきたい」と語った。



展覧会場では2、3人の作家の作品が響き合う展示構成になっており、素材や表現方法を見比べながら鑑賞できる。例えば、草間彌生が小さな網目状のタッチを繰り返し描いた「インフィニティ・ネット」は、アクション・ペインティングの大きな身振りとは一線を画す方法で、自身の身体より大きな画面を覆っている。



また、福島秀子の絵画には、缶やスポンジなどを型にし、スタンプのように墨汁や絵具をつけて捺した円や矩形などの集積が見られる。福島は、それ以前の1951年に北代省三や山口勝弘らと総合芸術グループ「実験工房」を東京で創立し、舞台美術や衣装も手掛けた。近年、福島の再評価は高まっているが、男性中心のグループにいたために埋もれていた期間が長かったともいえる。



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中央:福島秀子《作品5》1959年 千葉市美術館 右:福島秀子《ホワイトノイズ》1959年 栃木県立美術館

前衛グループといえば、田中敦子、白髪富士子、山崎つる子も兵庫県芦屋市で吉原治良を中心に1954年に結成された「具体美術協会」のメンバーであった。アクションさながら足に絵具を付けて絵画を描く白髪一雄の妻である富士子は、一雄のサポートに徹するため制作を断念。今回は、シワやひび割れを活かした和紙やガラスなどを用いた絵画作品と、板を用いた立体作品を紹介している。田中や山崎は塗装用のペンキやラッカーで絵画を描いた。



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左:白髪富士子《作品No.1》1961年 高松市美術館 右:白髪富士子《白い板》1955/1985年 兵庫県立美術館 山村コレクション
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左壁面は《作品》1959年 兵庫県立美術館(左)ほか田中敦子作品 ©Kanayama Akira and Tanaka Atsuko Association、右壁面は毛利眞美作品

前衛集団「九州派」の主要メンバーであった田部光子は、フェミニズム運動が国内で広まるのに先駆け、妊娠や出産からの女性の解放を作品に込めた。無数のピンポン玉を紙(襖)に貼りつけた《作品》では、アイロンの焦し跡の上にキスマークを施し、家事労働と女性性を象徴した。

また、九州派の特色でもある異素材=黒くどろっとした塗装の補修材アスファルト・ピッチで、輪切りにした竹箒の柄を画面に無数に貼り付けている。



【展示レポート】『アンチ・アクション 彼女たち、それぞれの応答と挑戦』 時代に抗い、独自の表現を貫いた14人の女性作家たち

田部光子《繁殖する(2)》1958-88年 福岡市美術館(右)ほか展示風景。奥は田部光子《作品》1962年、福岡市美術館

また、宮脇愛子による真鍮の角パイプを連ねた可変的な立体は、光そのものを見せる。絵画から彫刻へと展開した多田美波は、鏡面加工を施した彫刻で環境の写り込みや光を取り込んでいる。



【展示レポート】『アンチ・アクション 彼女たち、それぞれの応答と挑戦』 時代に抗い、独自の表現を貫いた14人の女性作家たち

多田美波《周波数37303055MC》1963年 多田美波研究所(左奥)ほか展示風景

なお、草間彌生をはじめ、毛利眞美、芥川(間所)紗織、榎本和子、赤穴桂子、田中田鶴子ら出展作家の多くは海外での制作活動や発表の経験がある。1962年、女性として初めて「ヴェネツィア・ビエンナーレ」日本代表に選ばれた江見絹子は、自作から絵具層を引き剥がして次の作品に再利用するなど、循環的な制作方法も独創的だ。



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左:毛利眞美《裸婦(B)》1957年 東京国立近代美術館 右:芥川(間所)紗織《女(B)》1955年 東京国立近代美術館
【展示レポート】『アンチ・アクション 彼女たち、それぞれの応答と挑戦』 時代に抗い、独自の表現を貫いた14人の女性作家たち

左:赤穴桂子《埋もれた貝と骨》1954年 個人蔵 ほか展示風景
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福島秀子作品(左壁面)、榎本和子作品(右壁面)、江見絹子作品(奥壁面)展示風景

女性作家の再検証が進むのは今後も楽しみだ。と同時に、“多様性の後の揺り戻し”は、現在の社会でも懸念される問題である。今展では草間だけが現役であるが、存命のうちに正当に評価される世界であらねばという思いも強くした。



取材・文・撮影:白坂由里



<開催情報>
『アンチ・アクション 彼女たち、それぞれの応答と挑戦』



2025年12月16日(火)~2026年2月8日(日)、東京国立近代美術館にて開催
公式サイト:
https://www.momat.go.jp/exhibitions/566

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