東京・京橋のアーティゾン美術館で、モネ没後100年『クロード・モネ ―風景への問いかけ』が開幕した。実はこのモネ展は、2020年に深刻化したコロナ禍によって2度にわたって延期を余儀なくされた展覧会が、ついに満を持して開催となったもの。
独立した展示室で、モネの肖像や写真、年譜の紹介がある。左から、ポール・ポーラン《クロード・モネ》1911年 オルセー美術館/ピエール=オーギュスト・ルノワール《クロード・モネ》1875年 オルセー美術館
日本で近年開催されたモネ展としては、「連作」や「睡蓮」をテーマとしたものがあるが、今回焦点が当てられているのは「風景画」。11の章で、モネが制作の拠点とした場所を時系列にたどりながら、風景画家としてのモネの創作の背景や動機を探り、画業の展開をたどっていくことになる。
左からクロード・モネ《ノルマンディーの農場》1863年頃 オルセー美術館、同《サン=シメオン農場の道》1864年 泉屋博古館東京
最初の章は、「え、これもモネ?」と、意外な感じのする作品も登場する。海辺の街ル・アーヴルで育ったモネは、海景画でよく知られるブーダンに戸外制作を勧められ、後年には「自分が画家になれたのは、ブーダンのおかげです」と語っていたというが、展示の冒頭を飾る最初期の几帳面な筆致の風景画は、その師とも呼べるブーダンの絵と仲良く並んでいる。この章は、印象派になる以前のモネの自然主義的な作品を、バルビゾン派のコローといった先行する画家たちとの関連から見ることもできて興味深い。
クロード・モネ《かささぎ》1868-69年 オルセー美術館
ほぼ時系列の展示だが、テーマにフォーカスした章もある。それが、モネや印象派の仲間たちが「雪の効果」を探究した雪景色を集めた章。なかでもモネの《かささぎ》は、陽光を浴びた雪や雪野原に落ちる様々な色味を帯びた影などの繊細な色調に、白という色の探究成果がよく現れた初期の傑作。
クロード・モネ《トルーヴィル、ロシュ・ノワールのホテル》1870年 オルセー美術館
左から、クロード・モネ《昼食》1873年頃 オルセー美術館、同《アルジャントゥイユのレガッタ》1872年頃 オルセー美術館
モネの生きた時代は、社会の近代化が進み、風景も人々の生活も大きく変化した時代だった。1870年代の「風景画と近代生活」の章には、揺らめく光や大気の感覚、明るい色彩、自由な筆触などを特徴とした、印象派らしい生き生きとした作品が並ぶ。セーヌ河畔の街アルジャントゥイユに住んだモネは、レガッタや庭でのランチ後の情景など、レジャーを楽しむ近代生活を描き、またそうしたライフスタイルを支えた駅舎などの近代建築も題材とした。そこには、モネが印象派の風景画が担うべき現代的な使命を意識していたことがうかがえるという。ちなみにこの章に登場する《トルーヴィル、ロシュ・ノワールのホテル》や《昼食》は、日本初公開。今回はいくつもの新鮮な作品と出会えるのも嬉しいところだ。
クロード・モネ《サン=ラザール駅》 1877年 オルセー美術館
クロード・モネ《パリ、モントルグイユ街、1878年6月30日の祝日》1878年 オルセー美術館
1870年代末に同じセーヌ河畔の西に位置する村ヴェトゥイユに転居したモネは、特色のない平凡な村だったこともあり、うつろう気象現象に注目して制作するようになる。一方、1880年代には、新たな題材を求めて国外や国内の各地を旅し、さまざまな地形や季節、光のもとで風景を描いていった。そして、同じテーマを異なる季節や時間、天候で描いて光を表現する「連作」のアイデアを確立させたのは、1890年代のこと。風景画への取り組みを展開させ、「連作」に至った過程を丹念にたどっていくこの3つの章では、セーヌ川の洪水や解氷、荒れた海といった自然や、ルーアン大聖堂や霧のロンドンをとらえた連作など、多彩な作品が目を楽しませてくれる。
左から、クロード・モネ《ディエップ近くの断崖》1897年 オルセー美術館、同《ボルディゲーラのヴィラ》1884年 オルセー美術館、同《オランダのチューリップ畑》1886年 オルセー美術館
右:クロード・モネ《ポプラ並木、風の日》1891年 オルセー美術館 左奥:同《黄昏、ヴェネツィア》1908年頃 石橋財団アーティゾン美術館
左から、クロード・モネ《ルーアン大聖堂 扉口 朝の太陽》1893年 オルセー美術館、《ルーアン大聖堂 扉口とサン=ロマン塔 陽光》1893年 オルセー美術館
クロード・モネ《戸外の人物習作-日傘を持つ右向きの女》1886年 オルセー美術館
今回のテーマは風景だが、人物を描いた絵もある。
右:《ジヴェルニーのモネの庭》1900年 オルセー美術館、左には庭に佇むモネや庭園の情景をとらえた貴重なカラー写真(オートクローム)が並ぶ。
同時代の他の画家の絵に加え、浮世絵や写真、アール・ヌーヴォーの工芸など、他ジャンルの作品とモネの関わりを見ていくのも、今回の展覧会構成の特徴のひとつだ。ジャポニスムの章では、モネが浮世絵の構図や色彩、連作という形式に影響を受けていたことが、また「写真室」と呼ばれるセクションでは、同時代の写真家たちとモネの自然や風景に対する共通の関心の在り方が紹介されている。
クロード・モネ《ノルウェー型の舟で》1887年頃 オルセー美術館
最後の章では、1883年にモネが一家で移り住み、丹精込めて庭園と睡蓮の池を築き、終の住処としたジヴェルニーで描かれた作品が大展示室に並ぶ。さまざまな時期に描かれた睡蓮の連作からは、モネの視点の変化や晩年に画面の抽象性が増していく様子がうかがえる。この展示室にはまた、モネ同様に睡蓮などの植物や水辺の情景に魅せられていたエミール・ガレやドーム兄弟によるアール・ヌーヴォー様式のガラス作品も配されている。同じ空間のなかで絵画と工芸作品が美しく響き合うと同時に、睡蓮の連作がもつ装飾性が際立って見えてくる。
モネの睡蓮の絵画とアール・ヌーヴォー様式のガラス作品の並ぶ美しい5階展示風景。
5階展示風景。
展覧会の最後には、現代作家アンジュ・レッチアが、モネへのオマージュとして制作した没入型の映像作品が待っている。
アンジュ・レッチア《(D’) après Monet(モネに倣って)》2020年
取材・文・撮影:中山ゆかり
<開催情報>
モネ没後100年『クロード・モネ ―風景への問いかけ』
2026年2月7日(土)- 5月24日(日) 、アーティゾン美術館 6・5階展示室にて開催
公式サイト:
https://www.artizon.museum/exhibition_sp/monet2026/

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