『大地の子』初舞台化で主演を務める井上芳雄 「本当に奇跡のような巡り合わせ」
舞台『大地の子』製作発表会見より 左から)山西惇、上白石萌歌、井上芳雄、奈緒、益岡徹

山崎豊子による同名小説を初めて舞台化する『大地の子』の製作発表会見が11月27日、都内で行われ、主演を務める井上芳雄、共演する奈緒、上白石萌歌山西惇益岡徹が出席。壮大なスケールで贈る本作への熱き思いを語った。



戦争孤児となった日本人の少年・松本勝男は、死線をさまよう苦難を経て、中国人教師に拾われ「陸一心」(ルー・イーシン)として育てられる。しかし、成人した一心を襲ったのは、文化大革命に伴う大きな時代のうねりであった。2026年2月26日(木)から3月17日(火)に東京・明治座で上演。マキノノゾミが脚本を手がけ、栗山民也が演出を担当する。



『大地の子』初舞台化で主演を務める井上芳雄 「本当に奇跡のような巡り合わせ」

舞台『大地の子』本ビジュアル

主人公の陸一心(松本勝男)を演じる井上は、「本当に奇跡のような巡り合わせをいただいた。自分が参加できるなんて、信じられない」と、作品との出合いに感無量の面持ち。



『大地の子』初舞台化で主演を務める井上芳雄 「本当に奇跡のような巡り合わせ」

井上芳雄

座長としての心構えを問われると、「素晴らしい共演者の皆さんと手を取り合って、主人公の壮絶な体験、そこにある空気、匂いや重みを、演劇としてエネルギーあるものとして表現したい」と意気込んだ。



続けて、「過去を知ることは、未来を知ることだと思います」と語り、「戦後80年。もしも、自分が当時を生きた人間だったら、自分が一心だったかもしれない」と神妙な表情。「それも含めて、精一杯に伝えていきたいと思います。それがチャレンジですね」と抱負を語った。



『大地の子』初舞台化で主演を務める井上芳雄 「本当に奇跡のような巡り合わせ」

奈緒は、一心の妹・張玉花(あつ子)役を務め、「ここにいる皆さんと一緒に、稽古場でしっかりと、物語とも自分とも向き合っていきたい」と背筋を伸ばす。



『大地の子』初舞台化で主演を務める井上芳雄 「本当に奇跡のような巡り合わせ」

奈緒

演出の栗山からは、オファーの際に「奈緒、どうなの? 一緒にできる? できない?」と問われたそうで、「そこで実感が湧いて、少しだけ震えましたが、(栗山の存在が)心強いなと思っています」と全幅の信頼感。ストーリーテラーの役目も果たし、「経験のない挑戦だが、ご覧になる皆さんと同じ目線で、物語をたどっていければ」と話していた。



『大地の子』初舞台化で主演を務める井上芳雄 「本当に奇跡のような巡り合わせ」

妻の江月梅を演じる上白石は、「緊張感と高揚感に包まれている。戦後80年を迎えた今、この作品が上演されること、そして私自身が参加させていただけることに、大きな意味を感じている」と真摯にコメント。



『大地の子』初舞台化で主演を務める井上芳雄 「本当に奇跡のような巡り合わせ」

上白石萌歌

井上と姉・上白石萌音は共演経験も多く「勝手に親戚のような親しみを感じている」と語ると、井上は「役でお姉さんとも結婚しているし、今回は萌歌さんの夫なので、ファンの皆さん、どう思っているのか」と照れ笑いを見せていた。



『大地の子』初舞台化で主演を務める井上芳雄 「本当に奇跡のような巡り合わせ」

一心を引き取る中国人教師の陸徳志役を務める山西は、「最初に『大地の子』を舞台化すると聞いて、できるのかなと思った」と振り返り、「ですが、栗山さんとは10年以上にわたって、10本ほどご一緒している仲なので、信頼を置いている演出家さん。栗山さんのマジックで、すごい作品になる予感しかないし、自分自身も燃えている」と闘志を見せる。



『大地の子』初舞台化で主演を務める井上芳雄 「本当に奇跡のような巡り合わせ」

山西惇

益岡が演じるのは、中国に残した家族に自責の念を抱え続ける松本耕次役。



『大地の子』初舞台化で主演を務める井上芳雄 「本当に奇跡のような巡り合わせ」

益岡徹

1995年に放送されたテレビドラマ版では、同じ役を先日亡くなった“恩師”仲代達矢さんが演じており、「深い縁(えにし)がある方。30年前とはいえ、同じ役ということで、ある種の高ぶりもありますし、今思うのは、役を全うしたいということだけ」としみじみ。同時に「見てもらいたかったなとも思いますし、実はこの舞台に出ることもお話できなかったのが、今は残念」と後悔もにじませていた。



なお、製作発表会見では演出・栗山民也からの挨拶が届き、井上が代読した。



演出: 栗山民也 ご挨拶(全文)

『大地の子』初舞台化で主演を務める井上芳雄 「本当に奇跡のような巡り合わせ」

演出・栗山民也からの挨拶を代読する井上芳雄

戦争によってかけがえのない命を奪われた人々に、もう一度言葉を送り、全身を与える。これが演劇の一つの仕事だと、ある劇作家の強靭な姿勢から教えられたことがある。生者と死者は、いつも重なり合う。そのことが私の中に「記憶」という大切な言葉となって強くへばり付き、稽古場でのあらゆる事象と出会うたびに、それが今を映し出す 「記憶の再生装置」なのだと考えるようになった。



この山崎豊子さんの「大地の子」を随分と前に読んだとき、広く限りなく拡がる黄色の大地の上を、幾万人もの人たちが並んで歩む姿が、生まれては消える影のような運命の残像に見えた。その歴史をどこまでも深掘りした文章の奥には、その時代の陰惨ないくつもの光景が刻まれている。満蒙開拓団のリアルな歴史が、一人の青年を通して明らかにされていくのだが、お国のためという大義のもと、それは国を上げて推し進められた開拓という占領政策であった。そして、棄てられていった。



写真と文章で綴る江成常夫さんの「シャオハイの満州」という、旧満州の姿を写し出した記録の本が、わたしの机の上にある。この物語を考える中で、何度もページを開き、そこに写された残留孤児たちの顔を見つめる。今、何を語り掛けようとしているのか。そのぼんやりとどこか漂うような目の奥から、こちらに向かって厳しく無数の感情で問いかけてくる。



誰も置き去りにしてはいけない。

誰もが世界から必要とされているのだから。



そんな死者たちの無数の声が聞こえてくる。この「シャオハイ」という言葉は、中国語で子供のことである。



稽古に入る時、いつもこんなことから始める。物語に描かれた時代を見つめるため、その時代のその場所の真ん中に自分を立たせてみる。そこで見えてくるもの、聞こえてくるもの、肌で感じるものすべてを、全身で受け止める。時の記憶、場所の記憶を自ら体験してみることから始める。



素敵な俳優たちが、揃った。みんなで、この物語をしっかりと丁寧に力を込めて、嘘のない舞台にしたいと思う。



舞台『大地の子』プロモーションビデオ




取材・文・撮影:内田涼



<公演情報>
『大地の子』



原作:山崎豊子『大地の子』(文春文庫)
脚本:マキノノゾミ
演出:栗山民也

【キャスト】
陸一心(松本勝男):井上芳雄
張玉花(あつ子):奈緒
江月梅:上白石萌歌
陸徳志:山西惇
松本耕次:益岡徹

袁力本:飯田洋輔
黄書海:浅野雅博

増子倭文江
天野はな
山下裕子
みやなおこ
石田圭祐
櫻井章喜
木津誠之
武岡淳一

薄平広樹 岡本敏明 加藤大祐 越塚学 西原やすあき
咲花莉帆 清水優譲 武市佳久 田嶋佳子 常住富大
角田萌果 内藤裕志 松尾樹 松村朋子 丸川敬之(五十音順)

2026年2月26日(木) ~3月17日(火)
会場:東京・明治座



関連リンク

チケット情報 2025年12月6日(土)一般発売開始
https://w.pia.jp/t/sote/(https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2563019&afid=P66)



公式サイト:
https://daichinoko-stage.jp/



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