「八月納涼歌舞伎」で上演の『火の鳥』 玉三郎、染五郎、團子が新作歌舞伎への取り組み、思いを明かす
松竹創業百三十周年「八月納涼歌舞伎」『火の鳥』合同取材会より 左から)市川團子、市川染五郎、坂東玉三郎、原純 (撮影:岡本隆史)

令和7(2025)年8月歌舞伎座 松竹創業百三十周年「八月納涼歌舞伎」第二部での上演が注目される新作歌舞伎『火の鳥』。7月7日、演出と火の鳥役で出演する坂東玉三郎と、市川染五郎、市川團子、また演出・補綴・美術原案を手がける原純が取材会に出席、報道陣に作品への思い、意気込みを語った。



再生を繰り返す火の鳥の伝説を、歌舞伎に

火の鳥を演じるとともに演出・補綴を手がける玉三郎。『火の鳥』という題材については、「数年前にはすでに頭の中にありましたが、なかなか実現できずにいました。『火の鳥』といいますと、ストラヴィンスキー音楽のバレエ、あるいは手塚治虫さんの作品ですが、僕は火の鳥伝説をなんとか歌舞伎座でやれたらと考えていました。昨年から染五郎さん、團子さんとご一緒しているうちに、この方々とやるのがいいかなと思い、数年前にできていた脚本を改訂しながら、今回の上演に挑んだというわけです」。また、「火の鳥はその命に限界が来たとき、自ら火の中に入り、再生していくということを繰り返す。今回はそれをもとに脚本を書いていただき、自らの身の上をふたりの王子と病の王さまに話していく、という筋立てになっています」とも。



「八月納涼歌舞伎」で上演の『火の鳥』 玉三郎、染五郎、團子が新作歌舞伎への取り組み、思いを明かす

話題は玉三郎と親交があった振付家、故モーリス・ベジャールの『火の鳥』にも及び、「(20世紀バレエ団の)来日公演を観ました。素晴らしいもので、とても追いつけるものではないですが、ベジャールさんは日本の演劇にも非常に精通していらして、青いジーンズ姿で踊り始め、引き抜いて赤の衣裳の火の鳥になるのは非常に鮮烈でした」と振り返る。



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歌舞伎座の新しい表現、新しいドラマの誕生に期待が寄せられるが、決して前衛的なものを目指すのではなく、いい作品を残すためにも、たくさんの作品が生まれる必要があると考える玉三郎。「鶴屋南北でも何でも、たくさんの作品が生まれ、淘汰されたうえでこれだけの人気作品があるわけです」と、新作歌舞伎への取り組みの意義を述べた。



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本作の脚本を手がけるのは、歌舞伎狂言作者の竹柴潤一。また玉三郎とともに演出を担う原は、数々のオペラを手がけてきた演出家だ。「今回お話をいただいて、一番驚いたのは私です」と笑う原だが、「一番こだわりを持たせたいと思っているのは、音楽で進行していく劇。

音楽でドラマが深まっていくとともに、俳優の皆さんのドラマも深めていく。今回は舞台美術の監修もさせていただいていますが、視覚的に重厚で耽美的なものにできたらと思っています」と意気込む。



「八月納涼歌舞伎」で上演の『火の鳥』 玉三郎、染五郎、團子が新作歌舞伎への取り組み、思いを明かす

玉三郎が共演を望んだ染五郎と團子は、王子のヤマヒコ、ウミヒコの兄弟を演じる。ふたりは演出家、脚本家との打ち合わせ、読み合わせを重ねたそう。「ふたりが俳優として何をやりたい役なのか、咀嚼したうえで、自分の魂としてこのことを言いたい、ということを聞き、また加筆していくというのが今回の作り方」(玉三郎)という。



「八月納涼歌舞伎」で上演の『火の鳥』 玉三郎、染五郎、團子が新作歌舞伎への取り組み、思いを明かす

「八月納涼歌舞伎」で上演の『火の鳥』 玉三郎、染五郎、團子が新作歌舞伎への取り組み、思いを明かす

ヤマヒコを演じる染五郎は、「伝説上の生き物である火の鳥を弟のウミヒコとともに追いかけ旅に出ますが、最終的には、生きるうえで大きなものを火の鳥から授かるお役です」と説明。玉三郎とは2024年9月の『吉野川』、10月の『源氏物語』で共演したが、「役の内面的な、細かい部分までご指導いただきましたし、一番は、声の出し方。人体の断面図のようなものを見せていただいて、こういうふうに空気が通るから、こういう声が出る、と。本当に新鮮な経験でした。それを経ていろいろなお役をさせていただいていますが、声の出し方が変わったなと自分でも感じていますし、役者として大事なことを教えていただいて、とてもありがたく思っております」。



「八月納涼歌舞伎」で上演の『火の鳥』 玉三郎、染五郎、團子が新作歌舞伎への取り組み、思いを明かす

一方、弟のウミヒコを演じる團子は、「兄と王位を継承しない側の弟には若干のしこりがある。そのふたりの関係性が、最後に火の鳥から学びを受けることにつながるという、抽象的な部分のあるお役だと思います」と話す。

「玉三郎さんとは昨年12月に『天守物語』で共演をさせていただき、どうやって一言一句に感情を乗せ歌舞伎座の奥まで届けるか、また『天守物語』の解釈もすごく深いところまで教えていただきました。その台本を読み解く方法は、大きな財産になっています」。



「八月納涼歌舞伎」で上演の『火の鳥』 玉三郎、染五郎、團子が新作歌舞伎への取り組み、思いを明かす

ふたりを前に玉三郎は、「自分の感覚が鈍くならないうちに、彼らにいい作品を作ってあげたいと本当に思っているし、できる限り話してあげたい、体験させてあげたい。僕は火の鳥のように再生できませんから(笑)」と、胸の内を明かした。



「八月納涼歌舞伎」で上演の『火の鳥』 玉三郎、染五郎、團子が新作歌舞伎への取り組み、思いを明かす

この時代に、素晴らしい人たちに巡り会えて幸せ

染五郎、團子にとっては大きなチャレンジの場であるとともに、魅力的な取り組みでもあるようだ。



「八月納涼歌舞伎」で上演の『火の鳥』 玉三郎、染五郎、團子が新作歌舞伎への取り組み、思いを明かす

「玉三郎のお兄さまの演出作品を拝見すると、演劇的な部分にこだわってお作りになっています。一方で、舞台美術、衣裳、お化粧といった部分も計算して作っていらっしゃるといつも感じます。今回は美術原さんが原案を手がけてくださいますが、そうした視覚的、芸術的な観点からも、お客さまに何か感じていただけるような舞台になると感じています」(染五郎)



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「今できている台本を読むと、セリフはかなり歌舞伎のものに近いところと、すごく現代的なところが混ざっている。そこのバランス、ハーモニーがどういうふうに出るのかなということが、私自身楽しみであると同時に、自分も頑張らなければと思います。自分で言うのはおこがましいのですが、そういうところに魅力を感じています」(團子)



「八月納涼歌舞伎」で上演の『火の鳥』 玉三郎、染五郎、團子が新作歌舞伎への取り組み、思いを明かす

玉三郎は、「本当は三人のポスターで、第一弾が僕ひとりになってしまって決まりが悪いんですけれど(笑)」と、取材会の時点では未公開だった染五郎、團子のビジュアル公開を急ぐよう、スタッフにアピール。



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染五郎、團子についてあらためて問われると、「非常に真っすぐに生きていらっしゃる。ふたりとも十代の頃から知っていますから、共演するとは思っていませんでした。

素直で謙虚で真っすぐであるかどうかは、舞台で一緒になってみなければわかりませんが、ふたりともそうであると確信を得ました。どんな舞台人、音楽家、絵画でも、芸術家として我を張ることも虚勢を張ることもあるとは思いますが、芯の芯がそうであるかということは、一生進歩し続けられる鍵。ふたりともそれを十分に持っていると思ったので、ご一緒しています」。



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若いふたりの成長、未来にも、思いを馳せる玉三郎。「他人のお子さんであろうがお弟子さんであろうが、すれ違いざまに注意をしたりアドバイスをしたりする時代ではなくなったと思います。私はすれ違いざまに彼らにいろいろ言ってきたわけですが、ふたりはそれを受け止めてくれていました。それで去年からご一緒しているわけですが、彼らにいい女房役を、ということが歌舞伎界の課題です」。



「八月納涼歌舞伎」で上演の『火の鳥』 玉三郎、染五郎、團子が新作歌舞伎への取り組み、思いを明かす

ふたりの役への取り組みはすでに始まっている。



「兄弟の関係性、距離感が、別のひとつの筋になっているところでもあります。人物の違いをどう出していくかということは、(團子と)ふたりで話し合って作らなければ。今月の歌舞伎座では『蝶の道行』でご一緒して、恋人役と兄弟役とではまた違いますが、今月作ったふたりの距離感、熱量のまま、『火の鳥』にのぞめたらいいなと思っています」(染五郎)



「八月納涼歌舞伎」で上演の『火の鳥』 玉三郎、染五郎、團子が新作歌舞伎への取り組み、思いを明かす

「染五郎さんとは、舞台で思ったことをいい意味で赤裸々に伝え合い、コミュニケーションをとっています。今回は兄弟の話がひとつの筋になるくらい大切なところで、かなり深くセッションをして作ることが大事。

言いたいことを言い合える関係性は、とてもいい方向にいくのではないかというふうに思います」(團子)



「八月納涼歌舞伎」で上演の『火の鳥』 玉三郎、染五郎、團子が新作歌舞伎への取り組み、思いを明かす

振付を手がけるのは、ダンサー、俳優としても活躍する森川次朗。原は、「自分の中のイメージでは、歌舞伎的な動きと洋舞の動きのコラボレーションができないかなと模索しております」という。さらに、「玉三郎さんの美に対しての概念、極め方は想像以上でした」と明かしたうえで、「火の鳥は人間ではない生き物。ジャン・ジロドゥの『オンディーヌ』や泉鏡花の『天守物語』でも描かれていますが、人間でない存在が人間を語ることで、その精神の美しさが描けたら。それが、美──視覚、精神が全部結合したものに創造できたらいいなと思っています」とも。



「八月納涼歌舞伎」で上演の『火の鳥』 玉三郎、染五郎、團子が新作歌舞伎への取り組み、思いを明かす

玉三郎自身は、「僕は、耽美的とか美を追求していると言われがちですが、あまりよく考えたことがなく、単純に心地いいかどうか」と自然体。「でも、おふたりとも十分に耽美的。この時代に、歌舞伎の中で、素晴らしい人たちに巡り会えて、僕は幸せです」と締め括った。



「八月納涼歌舞伎」で上演の『火の鳥』 玉三郎、染五郎、團子が新作歌舞伎への取り組み、思いを明かす

「八月納涼歌舞伎」で上演の『火の鳥』 玉三郎、染五郎、團子が新作歌舞伎への取り組み、思いを明かす


<公演情報>
松竹創業百三十周年
「八月納涼歌舞伎」



【第一部】11:00~
一、男達ばやり
二、猩々 団子売

【第二部】14:15~
一、日本振袖始
二、火の鳥

【夜の部】18:15~
一、越後獅子
二、野田版 研辰の討たれ

2025年8月3日(日)~8月26日(火)
会場:東京・歌舞伎座

※【休演】12日(火)、20日(水)



チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2560825(https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2560825&afid=P66)



公式サイト:
https://www.kabuki-bito.jp/theaters/kabukiza/play/936



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