待望のシリーズ第29弾『名探偵コナン ハイウェイの堕天使』がいよいよ4月10日(金)から公開になる。劇場版『名探偵コナン』シリーズはアニメ放送開始の翌年からスタートし、原作漫画ともテレビシリーズとも異なる独自のテイストを持つ作品を発表し続けてきた。
大スクリーンで観たくなる、劇場に何度も足を運ぶファンが続出する“劇場版名探偵コナン”はどのようにして生まれるのか? 最新作の脚本を手がけた作家・脚本家の大倉崇裕に話を聞いた。
毎年、“劇場版名探偵コナン”はこうして始まる
圧倒的な推理力と行動力で難事件を解決する江戸川コナンと仲間たちの活躍を描く本シリーズ。毎春に公開される劇場版では壮大なスケールの物語、豪快なアクション、ファンのハートを掴む“ここでしか観られないドラマ”が見どころだ。
「みなさんが想像されているよりも最初の段階ではアイデアは固まっていなくて、最初に決まっているのは、メインキャラクターぐらいなんです。私は数年に1度ですけど、(原作者の)青山(剛昌)先生もスタッフの皆さんも毎年のことなので、劇場版の“作り方”みたいなものが出来上がっているんだと思います。
だから最初の打ち合わせは、みんながアイデアを持たずに集まることが多いんです。ある年ですと、まず青山先生から『今回は(服部)平次を出して、告白のドラマをメインにしたい』とアイデアが出ます。すると私が『であれば、時代劇みたいなことをやりたいですね』と言って、告白と時代劇の似合いそうな場所を探したら……函館があるじゃないか、と。『名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)』はそうやって設定が決まったんです。
だからまず最初に青山先生が考えているアイデアがあるんです。私もコナンは大好きですし、ある程度は把握していますけど、やっぱり青山先生にしか分からない部分、青山先生にしか知り得ない部分はいっぱいあるんです。だから、まず先生のアイデアを伺って、そこからみんなでアイデアを出し合って、3時間ぐらいでほぼ内容が決まってしまう。そしたらプロットを書いて、次の打ち合わせをしたら、脚本を書き出すんです」
大倉は「他のシリーズではこんなにすぐ書き出すことは滅多にないですね」と笑うが、それだけ『名探偵コナン』の世界がしっかりと確立されていて、シリーズを知り尽くした原作者やスタッフが集まっているから、短時間で精度の高い創作が可能なのではないだろうか。
「そうだと思います。他のシリーズでこのやり方は難しいでしょうね」
目指すは日本のスパイアクション!
観客を魅了するキャラクター、舞台が固まった後も創作は続く。近年の“劇場版名探偵コナン”の見どころのひとつは、スケールの大きなアクションにあるからだ。緊迫感のある狙撃シーンもあれば、豪快なカーチェイス、スケートボードを駆使したアクションもある。大倉は「コナンの劇場版を書くときに意識しているのは“007”」だという。
「意識しているのはスパイ映画です。スパイ映画というのは、やはりミステリなんです。謎を含んだ物語があって、主人公が黒幕を追っていく。その過程でアクションがあるわけです。私はロジャー・ムーアがジェームズ・ボンドを演じていた時期の007の映画を何度も観てきましたから、体に染み込んでいる部分がありますし、普段はミステリ小説を書いていますから、謎やミステリの立て付けについては慣れています。
映画を観た方の多くは、最後にはキャラクターのことが頭に残っていると思うんですけど、その域に達するためにはミステリの部分がしっかりとしていないといけないんです。だから私個人としては、お客さんが最終的にミステリの部分のことを忘れてしまっても構わないと思っているんです。でも、ミステリの要素が疎かになると、キャラクターのドラマも崩れてしまう。
その一方で、本作は他の人気シリーズにはない世界観やテイストがあるのがポイントだ。
「それはありますよね。ここにしかない世界観がありますし、それは30年間積み上げてきたからできる部分があると思います。ちょっとだけ野暮な話をすると、ミステリで爆発を起こそうとしたら、誰がどのような経緯で爆弾を手に入れて、どのように仕掛け、どのように起爆装置を用意したのか、を描かないといけないのですが、コナンだとその部分はいらないんです。なぜだか分からないけど爆弾が出てくる。それが許される世界観があるというのはすごく大きいと思います。
もちろん、この世界観は一朝一夕にできるものではなくて、時間をかけて積み上げてきたものです。だから、コナンの特殊性はここにしかないものですし、この世界観を観たくて、毎年多くのお客さんが映画館に足を運んでくれる。それに真似しようにも、コナンと似た構造のシリーズって他にないんですよ。ホテル一棟が丸ごと破壊される展開になっても、なぜか爽快感があって、面白い話だったと思ってしまう。冷静に考えると少し不思議な話なんですけど、ここにしかないものなんですよね」
コナンは、原作が持つ少年漫画のテイストとリアリティライン、歴代の監督・脚本家たちが積み上げてきたアクション・サスペンス映画の面白さが混ざり合うことで、唯一無二の世界観を作り上げることに成功しているのだ。
キャラクター配置の妙。青山剛昌の天才性
さらに面白いのは、本シリーズには毎回、レギュラーメンバーとは別に“メインキャラクター”が登場すること。通常のシリーズでは脇にいるキャラクターが、劇場版では物語のカギを握る立場に立つ。あるときは服部平次、あるときは安室透、前作は大和敢助がメインキャラクターだった。そして、最新作では神奈川県警所属の白バイ隊員、萩原千速がメインキャラクターを務める。
「こんなシリーズ、他にはないですよね。普通はコナンの劇場版なわけですから、コナンが主役なわけですけど、このシリーズはさらにメインとなるキャラクターがいる。そこは強みだと思います。脇のキャラクターとして描かれているわけですけど、劇場版の主役を務められる強さがある。それはこのコナンのキャラクターがいかによくできているのか、ということだと思うんです。
劇場版でもキャラクターのセリフというのは、青山先生とやりとりをする中で、実際に先生に考えてもらうことも多いんです。千速は自然体で“天然”なキャラクターなんですけど、周囲が彼女を動かしているんです。だから、千速の周りに配置されている人たちがすごく大事なんですけど、青山先生はそのバランスがやっぱり天才的なんです。
そういう意味では、千速とコナンはちょっと似ている部分があります。これはあくまでも私の主観ですが、コナンと千速にはふたりだけに通じるテレパシーみたいなものがあるじゃないかと、原作を読んでいるときから感じていたんです。彼女はコナンの正体には気づいてないんでしょうけど、ふたりの間には何か通じ合うものがある。具体的なセリフや展開にはしていないんですけど、そんなことを感じながら脚本を書いていました」
怪盗キッドや安室など本シリーズには人気キャラクターが多いが、萩原千速と江戸川コナンはコンビを組んだときが最強のようだ。最新作はバイクが主役。ふたりのタンデム(ふたり乗り)が最大の見どころになりそうだ。
コナンが海外でも愛される理由
現在では“劇場版名探偵コナン”の人気は日本を飛び越えて、海外にも広がっている。なぜ、本シリーズは世界的な人気を獲得したのだろうか? 大倉は「日本的なものだからかもしれませんし、他のシリーズにはないことをやっているからではないでしょうか」と分析する。
「キャラクターの関係性はとても日本的だと思うんですけど、このシリーズにしかないバランスがあって、そういう部分を海外の方もちゃんと感じ取ってくださっているんだと思います。
だからこそ、大倉は本シリーズを執筆する上では“爽快感”を強く意識しているという。
「コナンってやっぱり観ているとスッキリとすると思うんです。SFでもないですし、宇宙人が出てくるわけでも、転生するわけでもないのに、これだけの大きなドラマが描ける。それを30年も続けているわけですから、なかなかできることじゃない。だから私としては書いていて本当に楽しいんですよ。もちろん、苦労もありますけど、普段書いているミステリと比較すると、コナンは圧倒的に自由度が高い。自分が子どもの頃から観てきた映画やドラマの面白さは体に染み込んでいるわけですけど、それを現代のミステリ小説に反映することは難しい。でも、コナンは受け皿が大きいので、スケールの大きな話も、荒唐無稽に思えるような要素もスッと受け入れてくれる。
最新作についてはまだ多くは語れないんですが、“バイクアクション映画にしたい”とずっと思いながら脚本を書いてきました。要は、お客さんがどこまで千速とコナンと“一体”になってバイクに乗っているような気分になれるか?ということですよね。そこはすごく意識しましたから、映画館で千速とコナンと一緒にバイクに乗って神奈川を走りきった気分になって、スカッとした気持ちで帰ってもらいたいです!」
劇場版『名探偵コナン ハイウェイの堕天使』
4月10日(金)公開
(C)2026 青山剛昌/名探偵コナン製作委員会
撮影:源賀津己

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