PFF(ぴあフィルムフェスティバル)が、2019年に創設した映画賞「大島渚賞」の第7回受賞者が、『ルノワール』の早川千絵監督に決定。3月22日に、東京・丸ビルホールで記念上映会が行われ、早川監督をはじめ、出演する河合優実、大島渚賞の審査員長である黒沢清監督が出席した。
今回の対象作品となった『ルノワール』は、第78回カンヌ映画祭コンペティション部門に選出された話題作。日本がバブル経済真っ只中だった80年代後半の夏、闘病中の父(リリー・フランキー)と、仕事に追われる母(石田ひかり)と暮らす11歳の少女・フキ(鈴木唯)の物語だ。マイペースで想像力豊かなフキは、空想にふけりながら、それぞれに事情を抱えた大人たちと触れ合う。
黒沢監督は「本当に驚きました。感動したし、衝撃を受けた」と本作を激賞。「相米慎二監督がかつて得意とした構造の物語だが、相米慎二とはかけ離れて、フキのひと夏の経験が、人間が一生分味わうであろう多くの悪意と残酷さ、嫌悪、それに死ですね。それが連続で立ち上がり、しかもフキが積極的に引き起こしている。恐ろしくもそれこそが魅惑的な経験になっている」と魅力を語った。
そんな黒沢監督の言葉を受けて、早川監督が「前情報を知らずに観ると、心温まる子どもや家族の話かと思われるが、観るとこれかと(笑)。自分では割と普通の感覚で、多かれ少なかれ(フキが抱く)この感覚は持っている」と語ると、黒沢監督は「これ怖いでしょ、じゃなくて、これが普通だと」と納得した表情だった。
脚本を書き始めた当初は「どういう映画を作りたいのか分からなかったが、作っている自分が心を揺さぶられる映画を撮りたいと思っていた」そうで、「子どもの頃に感じた胸の痛みやさみしさ、欠落したもの。いつか撮りたいと思っていたシーンをとにかく書き連ねて、バラバラのエピソードを1本にまとめた」と語った。
映画の全体像は「撮っているうちも分からず、編集の段階で言いたいこと、作りたかったことがおぼろげに見えてきた」と述懐。80年代を舞台にした理由については、自身の少女時代であると同時に、「伝言サービスは重要な要素で、映画から外したくないなと。当時は普通に超能力もテレビでやっていましたし、インターネットのない時代は、世界が遠くて、不思議なことを信じられる無邪気さがあった」と説明していた。
河合は、早川監督の初長編作でカンヌ映画祭カメラドール・スペシャルメンションを授与された『PLAN 75』にも出演。本作では、同じマンションに住む久理子を演じ、誰にも話せずにいた夫の死にまつわる秘密を、フキに打ち明けるという役どころを務めた。
黒沢監督から「あのシーンは、ありきたりな映画なら、河合さんが泣く芝居になっていたはずだが、実際には泣いていない」と指摘すると、河合は「最初から泣く台本じゃなかったですね。泣くというゴールがない設計図のもと、撮影前からそのシーンについては、早い段階で早川監督が時間をとってくれて、いろんなトライをしてくださった」と舞台裏を明かした。
河合をはじめ、数多くの俳優との共演シーンで、独特な存在感を放ったフキ役の鈴木について、早川監督は「演技指導をした記憶がほとんどない。何も言わなくても、彼女がそのまま、彼女の解釈で演じた結果、ああなったと。子役の演出は難しいだろうと意気込んでいたが、何もしなかった」と感嘆していた。
「大島渚賞」は、映画の未来を拓き、世界へ羽ばたこうとする、若くて新しい才能に対して贈られる賞。かつて、大島渚監督が高い志を持って世界に挑戦していったように、それに続く次世代の監督を、期待と称賛を込めて顕彰するもの。
取材・文:内田涼

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