
歌人、詩人として名を残した石川啄木の、わずか26歳で散った人生の苦闘の日々。井上ひさしが“青春葬送曲”として綴った名作が、こまつ座の舞台に再登場だ。
まるで後輩のように思える、人間・石川啄木に惹かれて
――こまつ座の公演は『連鎖街のひとびと』(2023年上演)に続く、二度目の出演になりますね。今回はタイトルロールへの挑戦です。
ちょうど『連鎖街のひとびと』の公演中に今回のお話をいただいて、思考が停止しました。本当ですか!?と、とにかくビックリして。演出の鵜山仁さんが、次はこの作品を西川に、と考えてくださったことが嬉しかったです。『連鎖街~』で僕が演じた役は、以前高橋和也さんが演じていらした役で、今回の石川啄木も、前回のこまつ座公演で和也さんが演じていらしたんですよ。和也さんに報告したら「頑張れよ」と言っていただきました。


――石川啄木という人について、どのような印象を持っていますか?
今、石川啄木の詩と日記を読み進めているんですけど、読めば読むほどその人間っぽさに……もう~嫌になりますね。(一同笑)今の僕から見ると年下になるので、お前さあ~まったく!みたいな気持ちに(笑)。いや、心の底では「分かるよ!」と共感出来る人間なんですよ。こうなりたい、でもなれない。
――本当ですね。単に著名な詩人とイメージしていたのが、貧困に苦しみ、これほどに悩み、早逝した人と知ると見方が変わってきます。
そうなんですよ。石川啄木の人となりを知って、可哀想と思うかもしれないし、腹を立てる人もいるかもしれないし、抱きしめたくなる人もいるかもしれない……人によって見方がバラバラなのではと。

鵜山演出の“レール”の上で転がされたい
――『連鎖街のひとびと』での経験を振り返って、井上ひさし作品、その言葉に感じたものは?
俳優としてはもちろん、台詞を腑に落として、自分の言葉として喋ろうとやっていたのですが、自分には手の届かない難しい日本語がたくさんあって、最初は自分のものに出来ないストレスも多かったです。先輩方とも話し合って、「分からなくても、やってしまえば見えてくることもあるよ」といったアドバイスを頂いたりしました。今、いち観客としてこまつ座さんの舞台を観に行っても、やっぱり井上さんの言葉は凄いな!と思いますし、それを演者の皆さんがしっかりと自分の言葉にされているのにも敬服します。今回の台本を読んでも同じように感じていて、もちろん自分の言葉にしようと努力はするのですが、そんなに意識し過ぎなくても、井上さんの敷いたレールの上に乗っていればいいんじゃないか、そんなふうにある意味、楽観的に思うことも大事だなと学びました。言葉の通りにコトが進むと、笑いが起こったり、涙が溢れたり。本番の舞台でも、ああ、やっぱりこうなるんだ!と感じていたので。井上ひさしさんの手のひらの上で転がされているようで、でもそれが楽しいんです。決して無責任になるということではなく。
――その言葉と向き合う稽古がまた始まりますね。演出の鵜山さんとは、『連鎖街のひとびと』の前にミュージカル『洪水の前』(2022年上演)でご一緒されています。

はい。『洪水の前』に参加した時は、僕のバディの役が文学座の浅野雅博さんで、浅野さんから鵜山さんの話をいろいろと伺いました。「ああは言っていたが、実はこうだぞ」とか、「たぶんこうすると鵜山さんからもっと面白いノート(指摘)が出て来る気がする」とか。『連鎖街~』の時も文学座の石橋徹郎さんや鍛治直人さんがいらして、石橋さんは浅野さんとユニットを組んでいらっしゃるんですが、やっぱり石橋さんなりの“鵜山さん考”があって(笑)。「鵜山さんのノート、俺はこういうふうに捉えたけどね」といった話を先輩方とするのが楽しかったんですよね。今回の座組には文学座の方がいらっしゃらないのでどうしよう(笑)。ただ鵜山さんの稽古場を二度経験して分かったのは、鵜山さんは俳優に考えさせるノートをポンと投げてくださるんですよ。その場で解消出来なくても、とりあえず持ち帰り、電車の中でぼんやり考えてみたり、風呂に浸かっている時に「あ、明日こうしてみようかな!」と閃いたり。そうやってじっくり考えていくと、鵜山さんが投げてくれた1に対して「1.5にしてみました」とか「やっぱりやめてBにしてみました」とか、どんどん表現が多面的になっていく、そんな気が、若輩者ながらしているんですね。なので、そこも鵜山さんのレールの上に乗っかっていこう!と、甘えておく精神も大事にしようかなと思っています。

――どんな石川啄木が現れるのか、楽しみです。ご自身の課題として準備しておこうと思っていることなど、ありますか?
実は僕、着物芝居が初めてなんですよね。
――そうですね、啄木の苦悩、葛藤に強く共鳴するのではないでしょうか。
本当に。自分のことを分かってほしい、いや、分かってほしくない。死にたいかも、いや、生きたい。愛なんだ、いや、愛なんてクソだ、みたいな(笑)。こんなふうに揺れ惑う感覚、ありませんか!? と問いたいですね。逃れられなくて足掻く姿が、他人から見ると笑えちゃう。そうした井上ひさしさんの言葉の旨みをしっかり味わっていただけるよう、頑張ります。

※石川啄木の「啄」は「キバ」付の「啄」が正式表記。
取材・文:上野紀子 撮影:You Ishii
<公演情報>
こまつ座 第156回公演
『泣き虫なまいき石川啄木』
作:井上ひさし
演出:鵜山仁
出演:西川大貴 北川理恵 山西惇 那須佐代子 深沢樹 眞島秀和
【東京公演】
2025年12月5日(金)~21日(日)
会場:紀伊國屋サザンシアターTAKASHIMAYA
【宝くじ文化公演 盛岡公演】
2025年12月24日(水)
会場:盛岡劇場 メインホール
【宝くじ文化公演 西和賀町合併20周年記念公演】
2025年12月26日(金)
会場:西和賀町文化創造館 銀河ホール
チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2526462(https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventCd=2526462&afid=P66)
公式サイト:
https://www.komatsuza.co.jp/index.html