
唐十郎の初期の傑作『アリババ』『愛の乞食』を連続上演。今年6月の「新宿梁山泊」によるテント公演に続き、金守珍が演出を、安田章大が主演を務める。

囲み取材より、前列左から)風間杜夫、伊東蒼、安田章大、壮一帆、金守珍 後列左から)福田転球、温水洋一、伊原剛志、彦摩呂
ある雨の日、真夜中の高速道路で駆け抜けていった黒い馬を探している宿六(安田)。すると妻・貧子(壮)と暮らす家に突如赤子を抱いた老人(風間)が現れ、あの馬は赤いはずだと告げる(『アリババ』)。生命保険会社に勤務する田口(安田)が、公衆便所でミドリのおばさん(伊原)の介抱している。そこにセーラー服姿の少女・万寿シャゲ(伊東)が帰って来ると、今夜からここはキャバレエ「豆満江」になると言い……(『愛の乞食』)。
一見難解だと思われがちな唐作品。確かに物語だけを追っていくと迷子になってしまうこともある。だが頭と心をグッと柔らかく、劇世界に没入することで、その醍醐味を存分に味わうことが出来るはずだ。美しくも儚く、そして猥雑な言葉の応酬と、ロマンチックとグロテスクが行き来する世界観。そして波のように観客を飲み込んでいく演者のパワー。2年前の『少女都市からの呼び声』から早くも3本目の唐戯曲となる安田は、その魅力を「ジェットコースターみたいな、体験型、体感型の舞台だと思います」と言い表す。
そして唐戯曲の多くで核となるのが“女性”。

『アリババ』より、壮一帆=妻・貧子
特に伊東の存在感は圧巻で、金も「ものすごい力を持った人が現れました。こういう少女を唐さんは待っていたと思います」と太鼓判を押す。今年二十歳を迎える伊東は、小学生の時に観た『ビニールの城』(2016年)が忘れられず、ずっと唐の世界に憧れ続けてきたという。念願の唐舞台出演に際し、「すごく緊張しているんですけど……」と切り出しつつ、「なによりもまずは自分が楽しんで、唐さんの書かれた世界の中でどれだけ自由に、楽しく遊べるか。その上でさらに皆さんにも楽しんでいただきたいと思います」と目を輝かせた。

『愛の乞食』より、伊東蒼=万寿シャゲ
また唐作品に欠かせない要素のひとつが“笑い”。今回全編“関西弁”での上演に挑んだ金は、「やっぱり唐さんの戯曲って笑いのセンスがないとダメで、標準語だとどうしても硬くなってしまう。そこで関西弁の持つユーモアは生きてくると思いましたし、こんなに楽しくて、カッコいい舞台はないと思います」と自信をのぞかせる。特に今回で6度目のタッグとなる風間への、「風間杜夫ワンマンショーみたい(笑)」とのひと言には、風間に対する金の強い信頼が伺える。さらに川平慈英と漫才コンビ「なにわシーサー’s」を結成し話題を呼んだ伊原にも触れ、「こんなハードボイルドな方が漫才なんて思いもしませんでしたが、笑いのセンスがハンパじゃない。驚きました」と絶賛した。

左から)伊原剛志=ミドリのおばさん実は尼蔵、温水洋一=チェ・チェ・チェ・オケラ
宿六と田口を演じる安田は、主人公ながら役者としては実は損な役回りかもしれない。やはりパッと目がいくのは前出の面々で、安田はそれらを受ける側の役どころだからだ。しかし彼の芝居に対する真摯な姿勢と戯曲への深い理解が、作品の推進力となっていることは間違いなく、彼がいなければやはりこの舞台は成り立たない。そしてそんな座長がいてくれるからこそ、カンパニーの全員が伸び伸びと、唐戯曲の世界を泳ぎ回ることが出来ているのだろう。

『アリババ』より

『アリババ』より

『愛の乞食』より

『愛の乞食』より
最後に観客へのメッセージを求められると、「エンタメのフルコースです。お腹空かして観に来てください!」と彦摩呂。安田も「本当にお腹が満たされると思います(笑)」と続け、さらに「生前唐さんがおっしゃっていました。『丸の渦ではなく、四角の、ガタガタした渦を巻かせたい』と。ぜひそれを体験しに来ていただけたらと思います」と力強い言葉で締めくくった。
取材・文:野上瑠美子
<公演情報>
Bunkamura Production 2025
『アリババ』『愛の乞食』
作:唐十郎
脚色・演出:金守珍
出演:
安田章大 壮一帆 伊東蒼 彦摩呂 福田転球 金守珍 温水洋一 伊原剛志 風間杜夫
花島令 水嶋カンナ 藤田佳昭 二條正士 宮澤寿 柴野航輝 荒澤守 寺田結美 紅日毬子 染谷知里
諸治蘭 本間美彩 河西茉祐
※伊東蒼、伊原剛志は『愛の乞食』のみの出演。
※風間杜夫は東京・福岡公演の『アリババ』のみの出演。
【東京公演】
2025年8月31日(日)~9月21日(日)
会場:世田谷パブリックシアター
【福岡公演】
2025年9月27日(土)・28日(日)
会場:J:COM北九州芸術劇場 大ホール
【大阪公演】
2025年10月5日(日)~10月13日(月・祝)
会場:森ノ宮ピロティホール
【愛知公演】
2025年10月18日(土)・19日(日)
会場:東海市芸術劇場 大ホール
チケット情報:
https://w.pia.jp/t/aino-alibaba2025/(https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2560093&afid=P66)
公式サイト:
https://www.bunkamura.co.jp/cocoon/lineup/aino-alibaba2025/