綾野剛&亀梨和也の絆「どう向き合っても真っ直ぐ応えてくれるという信頼がありました」
左から)綾野剛、亀梨和也 (撮影/梁瀬玉実)

インタビュー中、お互いの言葉にじっくり耳を傾ける様子から相手へのリスペクトが漂っていた綾野剛と亀梨和也。映画『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』で綾野が演じるのは、殺人教師の疑惑をかけられた薮下。

その対象とされる児童・拓翔の母親・氷室律子(柴咲コウ)からの訴えで亀梨演じる週刊春報の記者・鳴海は実名報道に踏み切る。

最初に共演した14年前からお互い役者として気づきを与えてくれる存在だったというふたりが過去の共演と今を振り返る眼差しは、とても温かい。報道する側とされる側として劇中で思い切り火花を散らせたのは、信頼関係があるからこそ。真実に基づく、真実を疑う物語に真摯に向き合ったふたりの絆は、とにかく深い。



お芝居を真剣勝負でノーガードの打ち合いができる、こんな経験はなかなかできない

綾野剛&亀梨和也の絆「どう向き合っても真っ直ぐ応えてくれるという信頼がありました」

――20年前に日本で初めて教師による児童への虐めが認定された体罰事件を基に描かれたルポタージュ『でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相』を映像化するというお話を聞いた時、どんな風に思いましたか。



綾野剛 ワクワクしました。三池崇史監督の演出を17年ぶりに受けられる喜びもありましたし、共演者との芝居の総当たり戦ができる喜びもあり、皆さん世代も積み立ててきたプロセスも違う中で、お芝居を真剣勝負でノーガードの打ち合いができる、こんな経験はなかなかできないです。とくに亀ちゃんとのシーンは、そこに向かっていくためには、どうしたらいいか、とても大切にしていたポイントでした。一緒にお芝居できることを楽しみにしていました。



亀梨和也 僕も楽しみで仕方なかったです。でも、脚本を読んで、作品が持っているテーマの重みと、僕の役柄の難しさを知って、「自分に果たして務まるのかな」と。監督が三池さんで、綾野剛さん主演の作品へのオファーは嬉しかった反面、自問自答するところもあったんです。役者のお仕事は長年やらせてもらっていますけど、今回は週刊誌の記者役で今までやったことのない角度の役柄をどう構築したらいいのか……。

作品の中で、亀梨和也としての側面をどこまで捨てられるのか、しっかり整理して挑もうと思いましたね。



綾野剛&亀梨和也の絆「どう向き合っても真っ直ぐ応えてくれるという信頼がありました」

綾野 短い期間の中、役と濃密に向き合われていて。普段の亀ちゃんは他者に対してとても愛情深いですが、(鳴海のときは)目の中にまったく感情がなかったですから。お芝居って技術もあると思いますが、最後にはやっぱりそのエモーショナルな部分といいますか、技術では測れないものがありまして、それはこれまで鍛錬されて培われたものだと思います。



亀梨 いやいや、僕は綾野剛という俳優さんにリスペクトがあって、いい刺激をもらえているんですけど、今回演じる関係値においては、自分の中で負けずにちゃんと立とうと思っていたので、本当に濃厚な時間だったなって思いますね。



綾野剛&亀梨和也の絆「どう向き合っても真っ直ぐ応えてくれるという信頼がありました」

――綾野さんはこの作品のポイントの一つががお二人のシーンだとお話されていましたが、そこに向かうまでの気持ちの作り方や現場でお二人がどういう風に対峙したのか、聞かせて下さい。



綾野 薮下の心境としては、見える景色が少しづつ閉鎖していき、足元と地面を見るのが精一杯になり始める頃に記者の鳴海が現れます。足音も聞こえず、そこにいきなりいる。「どうも。薮下さんですよね」と言われて、反射で「はい」と反応してしまう。嫌な予感を察知する暇もなく、自然と返事をしてしまう速度で来るんです。生きているスピード感があまりに違うことを体感して、改めて危機感を覚えました。

1回、亀ちゃんのセリフが言い終わる前に、僕が家の中に入っちゃったんだよね。



亀梨 そうそう。僕は記者として薮下に突撃していくシーンは一貫して、吞まれないことをテーマにしていましたね。分かりやすく言うと、みんな裸一貫でいるけれど、1人だけ拳銃を隠し持ってるような強さを意識しました。鳴海の人間としての強さというより、週刊誌の記者という1個武器を持ってるからこその、ゆとりみたいな。どうやってその強さを自分の中に持つかは裏テーマとしてあった。あとは現場に入ってみて、剛くんの動きをちゃんとリアルに感じた時にどう行けるか。自分のアプローチがあって、「こうやりたいんです」っていうよりは、現場の流れの中で生まれていったものでしたね。



綾野剛&亀梨和也の絆「どう向き合っても真っ直ぐ応えてくれるという信頼がありました」

綾野 雨の日のシーンは、雨降らしをするので、1回やったら、衣裳を当然乾かさなきゃいけない。だから、緊張感がすごいんです。あの緊張感を亀梨和也と乗り越えられるという喜びと、彼とだからこそやり切れるだろうという安心感がありました。14年前「妖怪人間ベム」(2011年)で、亀ちゃんと初めてお芝居をした時に、亀ちゃんにたくさん引っ張ってもらいました。

カットがかかって「今の芝居すごい良かったよ。最高だったよ!」ってとても真っ直ぐ伝えてくれて。僕はその時、主演であり共演者に芝居を受け止めてもらえる事が初めての経験で。



亀梨 いや、あの時、シンプルに感動して。



綾野 僕はあの時、「なんてピュアで素敵な人なんだろう」って。



亀梨 決して、「いいよ、いいよ~」って偉そうな感じじゃなかったでしょう?(笑)。



綾野 もちろん。「すごい楽しかった、今のシーン」って。その時、初めて役の作り方が間違ってなかったって認めてもらえた気がして、最後までベムという作品を生き抜くきっかけを頂きました。その初めての経験が、ずっと支えになり、今でも心に残っています。だから、どこかで圧倒的な安心感があるので、大切なシーンに辿り着くまでの不安は全くありませんでした。亀ちゃんとのシーンがあることは自分にとっての支えでしたから。



亀梨 この作品を通して、薮下と鳴海のシーンは、変動の中で感じられる温度感をどうはめ込むかっていうのがあったので、その辺のライブ感を楽しませてもらいました。



綾野 あと、本当の嵐を呼んじゃいましたからね、亀ちゃん。本当にこの作品の持っている力だなと。雨降らしは途中からリアル豪雨です。



亀梨 1番最後のカットは、マジで雨降らしをしてないリアルゲリラ豪雨(笑)。そのタイミングを別に待ったわけでもなく。



綾野 風も使わず。雨ってあんなに痛いのって(笑)。



亀梨 話でしか聞いたことないですけど、もう黒澤映画の世界。「待とうよ、雨が来るぞ」って(笑)。



綾野 本当に打ちのめす雨というか、立ってても溺れそうだったので。



亀梨 これは僕の悪い癖でもあったりするのかもしれないですが、演じるにあたって、もう1個何かできるのかなと考えた時に鳴海は傘を持っているけど、お互い濡れてる方が象徴的なのかな、みたいな。

エンタメ的脳みそが働いてしまったけど、結局提案しなかったという裏話もあって。勉強になったシーンでした。



亀ちゃんは目の前にいる人の個性を受け止めてくれる豊かな人

綾野剛&亀梨和也の絆「どう向き合っても真っ直ぐ応えてくれるという信頼がありました」

――先ほど「妖怪人間ベム」で初共演した時のお話が綾野さんから出ましたが、当時のお互いの印象とお互いに役者として年月を経て今作で共演してみての印象を教えてください。



綾野 最初に出会った頃からちゃんと目の前にいる人の個性やオリジナリティを受け止めてくれる豊かな方という印象でした。亀ちゃんといると、すごく元気が漲るし、いろんな想像力が搔き立てられる。昔の共演の思い出がずっと大切に残っているので、今回はまた現場で再会できて幸せでした。亀ちゃんは、この仕事を始めてもう20何年?



亀梨 27年。



綾野 この仕事を続けていく理由のひとつには、もちろんファンの皆さんの存在がとても大きいです。同時に、14年の月日を経てまたこうして共演できる、長く続けているからこそ起こり得る再会は、ご褒美のような時間でしたし、お互いの成長をこの距離感で、目の前で体感し合えることが、とても幸せでした。



亀梨 「妖怪人間ベム」で共演することになった時、プロデューサーさんから、「すごく素晴らしい俳優さんをキャスティングできたから」っていう前情報を頂いてたんですよ。だから、勝手にワクワクしていたんですよね。僕はどこかで枠を設けたり、良くも悪くも、はみ出さないあり方と表現をしてきて。当時まだ24、5歳で「絶対、この枠は崩さないでくれ」って言われることが多かったから、もどかしさもすごくあった。

いつの日か、それを続けていることによって、自分のフォーマットになっていたんですけど、剛くんと共演した時に「こんなにお芝居って自由なんだ」って思った。



もちろん、剛くんはいろんなことを見て、分かった上でやっているんだけどね。僕は考えちゃいけないところまで考えすぎちゃっていることがあって。本当はやりたいけど、できないって、ちょっと行き詰まっていた時期で。1個外しきれないものがあった時、剛くんと出会ったから、その煌めきの強さを感じましたね。偉そうには言えないけど、そこからこの14年間で、綾野剛という人間をめちゃくちゃ積み上げてきてるわけでしょ。もちろん、作品での立ち位置であったり、責任であったり、そういうことも含めて、バージョンアップされていて。全体像を見極める冷静な目がありつつ、僕が当時感じた煌めきを失ってないところがすごいなと思いました。



僕もこれから次のステップに進むにあたって、剛くんの主役の作品に参加させてもらえて本当に良かったなって。



綾野 とても嬉しいです。頑張ってきたことがまたひとつ結実しました。



絶大な信頼を寄せているふたりだから作り上げられた

綾野剛&亀梨和也の絆「どう向き合っても真っ直ぐ応えてくれるという信頼がありました」

――綾野さんは『クローズZERO Ⅱ』、亀梨さんは『怪物の木こり』以来の三池監督作品になりますが、監督とどのようなお話をして作品を作り上げていきましたか。



綾野 監督は、現場での指示はほとんどありません。



亀梨 ない、ない。



綾野 ほぼフリーから始まります。



亀梨 マジでそれ(笑)。



綾野 すぐ次のカットに移行していくので考えている暇もないくらいです。



亀梨 無駄もないからね。



綾野 それでいて役者の気持ちに対しても必ず肯定してくれます。多弁でなく、言葉で表現しようとするわけでもなく、ちゃんとそのムードと起こっていることに誠実に向き合ってくれているといいますか。全部署の皆さんに対してジェントル。



亀梨 確かに。



綾野 一緒に作品と向き合えているという感覚がありつつ、結局監督の背中を追いかけるのに必死だったという感じがします。僕は1秒でも多く薮下の生きた軌跡を描くということに特化した作品作りをして、薮下をどう見せるかではなく、どう見られるかを重要にしていたのでいろんなパターンをやりました。最後のシーンは、10テイク以上はやったと思います。どれが使われているのか僕も分からないです。



亀梨 そうだったんだ。僕はね、いただいた役柄と亀梨和也という立ち位置は、意外と遠かったんですよ。だから現場に入るまでも結構勝負だなと思って。パッと目から入る情報としてのあり方、髪型とか髪の色、衣裳とかビジュアル面も監督と色々話しましたね。最初は髭を生やしてやさぐれ感を出そうとしたけど、作り込まないほうがいいということになり。スーツも、「何着てもシュッとしちゃうな」みたいに言われたり(笑)。ちょっとむくみを出して不摂生な感じを出そうとしました。



綾野 シュッとしちゃわないようにね。



亀梨 夜とか関係なく食べている感じというか。生活がキッチリ整ってない感じを出したかった。極端に10Kg増やすようなことはできなかったんだけれど。削いでいく怖さを出そうとすると逆に、亀梨感が上がっちゃって(笑)。



綾野 シャープだとキラキラが上がっちゃうよね(笑)。



亀梨 途中で監督に「監督、僕にこの役って間違ってません? 大丈夫ですか」みたいな会話もしましたからね(笑)。演じるにあたって、役が持っている角度を作品の中でどう強弱をつけていくかは大きなポイントでした。ただの嫌なやつ、悪者として立つのかとか、どれだけ記者としての考えがあるのか、原作者の方が現場に来て下さっていたので、ちょっとお話を伺いましたし。そういうヒントを頼りに演じた役になりましたけど、本当に三池組の温かさを感じられる現場でした。



綾野 亀ちゃんとのシーンは本当に真剣勝負で。自分が絶大なる信頼を寄せている人だから、本当に助けられました。どう向き合っても真っ直ぐ応えてくれる亀ちゃんだからこそ、成立したシーン。2人でなければ、生まれなかったケミストリーが作品に宿っています。



撮影/梁瀬玉実、取材・文/福田恵子

(綾野剛)
ヘアメイク /石邑 麻由
スタイリスト/佐々木 悠介
衣装協力/
ジャケット¥77,000 (ヴィンテージ/RESURRECTION)
中に着たシャツ¥16,500 (ヴィンテージ/King of Fools)
人差し指リング¥22,000 (ヴィンテージ/RESURRECTION)
小指リング上から¥24,200、¥11,000、¥22,000 (ヴィンテージ/RESURRECTION)

(亀梨和也)
ヘアメイク/豊福 浩一(Good)
スタイリスト/佐藤 美保子




<作品情報>
『でっちあげ ~殺人教師と呼ばれた男』絶賛上映中



綾野剛&亀梨和也の絆「どう向き合っても真っ直ぐ応えてくれるという信頼がありました」

出演者:綾野剛 柴咲コウ
亀梨和也 / 大倉孝二 小澤征悦 髙嶋政宏 迫田孝也
安藤玉恵 美村里江 峯村リエ 東野絢香 飯田基祐 三浦綺羅
木村文乃 光石研 北村一輝 / 小林薫
監督:三池崇史
原作:福田ますみ『でっちあげ 福岡「殺人教師」事件の真相』(新潮文庫刊)
脚本:森ハヤシ
音楽:遠藤浩二 主題歌:キタニタツヤ「なくしもの」(Sony Music Labels Inc.)
制作プロダクション:東映東京撮影所 OLM 制作協力:楽映舎
製作幹事・配給:東映 ⓒ2025「でっちあげ」製作委員会
映画公式ホームページ: https://www.detchiagemovie.jp/



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