
世界的なロックスター、デヴィッド・ボウイの遺作となったミュージカル『LAZARUS』が、2025年5月31日(土) から6月14日(土) まで神奈川・KAAT神奈川芸術劇場〈ホール〉、6月28日(土)・29日(日) に大阪・フェスティバルホールで日本初演される。記念すべき日本初演を前に、熱が入る稽古場の様子を伝えるレポートが到着した。
ボウイと多彩なアイデアを持つ劇作家のエンダ・ウォルシュが脚本を手がけた本作は自伝的な内容ではなく、ボウイが1976年に主演したSF映画『地球に落ちて来た男』の続編として、主人公・ニュートンのその後を描いている。劇中には、ボウイファンにはおなじみの「All the Young Dudes」「Changes」「Heroes」など年代を超えた代表曲のほか、本作のためにボウイが書き下ろした「No Plan」「Killing a Little Time」「When I Met You」が物語に深みを与えている。
稽古場に入ると、ボウイが1986年に出演したミュージカル映画『ビギナーズ』の主題歌として書き下ろされた「Absolute Beginners」を主演の松岡充らが歌う声が聴こえてきた。劇中のセリフは日本語だが、歌唱される全17曲については、ボウイの遺志によってどの国や地域で上演される際も、英語での歌唱が求められている。歌を通じての表現と共に発音の指導も徹底しており、本番に向けて細部を詰めている様子を感じられた。
本作で「Absolute Beginners」が歌われる場面は、松岡演じる地球に落ちてきた異星人・ニュートンが、好意を寄せられている女性・エリー(鈴木瑛美子)に全身を使って誘惑されるシーンで多くのキャストによって歌われる見せ場のひとつ。エリーのなまめかしい腰つきは、ボウイのミュージックビデオの中に登場するタバコの化身・ゼブラを思わせる。エリーにされるがままのニュートンは、中盤エリーの手を振りほどき、“希望”を持つ少女(豊原江理佳)に光を見つけていく。


歌唱シーンの確認を終えると10分ほどの小休止に入った。それぞれが一息入れた後、「さて、いくぞ」という様子で立ち上がった演出の白井晃は、台本を手に出演者らの前に立つと「今日からやることは、一つひとつのシーンで何を見せなくちゃいけないのかということに重きを置くこと。空間全体に緊張感が走るように。自分のキャラクターを前面に押し出して、セリフが持つ一つひとつの意味を考えながら動いて」と声をかけた。
小休止前の歌唱シーンから、舞台の終わりまで。約1時間をかけて、ブロックに分けた稽古が始まった。「Absolute Beginners」の歌唱中に、ニュートンに拒絶されたエリーは、悪魔のような男・バレンタイン(上原理生)にその隙をつかれてしまう。「♪お前をそこから出してやる」。エリーにすり寄るバレンタインは、手ぐすねを引くように「Dirty Boys」を歌唱。多くのミュージカルの経験を持つ上原のバリトンが、空間に闇を広げていくように響いていた。

1995年にロックバンド「SOPHIA」のボーカリストとしてデビュー。30周年の節目のツアーと、稽古を同時期に重ねていた松岡は、俳優としても23年のキャリアを持ち、映画やドラマなどで活躍してきた。ボウイの遺作となった本作は、がんに冒されたボウイがその病と、命と向き合いながら制作された“遺書”でもある。歌はもちろん全身で、言葉や心を伝えてきた松岡は、「ボウイの魂を表現したい」と心血を注いでいる。“希望”とすがる少女との幸福と思えた時間が苦悩に変わっていく──。ボウイとエンダが採用した楽曲に込めた思いと、ニュートンの苦悩を巧みに表現していく様子は圧巻のひと言だった。
本作のためにボウイが描き下ろし、劇のタイトルにもなっている「LAZARUS」は、イエス・キリストによって、死から復活を遂げた逸話が聖書に記されている男性の名前。別の星から地球に不時着したニュートンは、家族が待つ星に帰還することを願うが、いくつもの壁が立ちはだかる。混乱する脳内、人間関係のもつれなど、身体表現と共にある演出効果で視覚的に見せるシーンも注目してほしい。

松岡が何かを追い求めるように天に右手を伸ばしたラスト。ボウイがそこに降りてきたように感じた。じっと演技を見つめていた白井は松岡に「ゆっくり、ゆっくり」と声をかけ、余韻を残したまま最後のシーンが静かに閉じていった。静寂が広がった稽古場に「ふーっ」と松岡が呼吸する音が広がっていた。「15分休憩」の声がかかり、他の演者が水分を補給するなど舞台から離れていく中、松岡は自分と対話するようにジッと天を見つめていた。
白井晃「舞台を観た人それぞれが、自分の話と思ってもらえるようになればいい」
約15分後に始まった白井の振り返りでは「肩に力が入っている。腹から芝居をしましょう。言葉と身体の動きをイコールにすること。いつも言っているように、感情は下に下に」とアドバイス。
時に自虐的なギャグも交えていたが、何気ない一瞬でも、そこで演者同士が共に笑うことは“同じ経験”を重ねること。そうすることで、カンパニーの結びつきを強固にしているようにも感じられた。
白井は「ボウイが、自分ががんと分かってから作り始めた作品。ニュートンの話ではあるけれど、ボウイが経験した話かもしれない。メタシアトリカルな表現もあって、つまりそれは普遍性を持っているっていうこと。舞台を観た人それぞれが、自分の話と思ってもらえるようになればいい」と思いを吐露。「言葉の物語だけど、言葉以外に想像するものがあると今日、観ていて感じた」と回想。ニュートンが天に手を伸ばす最後の場面まで、90分以上をかけて、舞台をよりよくするための案が出されていた。


ボウイが最期に遺したかったメッセージは、何か──。
ボウイと坂本は親しい友人同士で、松岡と坂本もテレビ番組で共演経験がある。5月31日(土) に幕を開ける日本版ミュージカル『LAZARUS』は、いたずら好きのふたりが客席で見守っていてくれるはずだ。

また公式サイトでは、新しいスポットやキャストコメント動画が公開されている。
<公演情報>
ミュージカル『LAZARUS』
音楽・脚本:デヴィッド・ボウイ
脚本:エンダ・ウォルシュ
演出:白井晃
出演:
松岡充
豊原江理佳、鈴木瑛美子、小南満佑子
崎山つばさ、遠山裕介
栁沢明璃咲、渡来美友、小形さくら
渡部豪太、上原理生
ダンサー:Nami Monroe、ANRI、KANNA
演奏:益田トッシュ(Bandmaster)、フィリップ・ウー(key)、松原“マツキチ”寛(ds)、Hank西山(g)、三尾悠介(key)、フユミカワカミ(おふゆ)(b)
スウィング:塩顕治、加瀬友音
【神奈川(横浜)公演】
2025年5月31日(土)~6月14日(土)
会場:KAAT神奈川芸術劇場〈ホール〉
【大阪公演】
2025年6月28日(土)・29日(日)
会場:フェスティバルホール
チケット情報:
https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2558115(https://t.pia.jp/pia/event/event.do?eventBundleCd=b2558115&afid=P66)
公式サイト:
https://lazarus-stage.jp