東京都写真美術館で『遠い窓へ 日本の新進作家 vol.22』が2026年1月7日(水)まで開催されている。写真・映像の可能性に挑戦する将来性のある作家とその新たな創造活動を紹介する「日本の新進作家」展。
22回目の今回は、人と時代の流れ、場所、風習といったものごとの結びつきから生まれる小さな物語に焦点を当てる5名の作家を紹介する。キュレーターの大﨑千野は「作品を『窓』として、窓から垣間見える暮らしや、窓の向こうの遠く離れた時間・場所・風景・記憶へと想像を巡らせることで、異なる価値観を持つ他者や遠く離れた世界の出来事にも寄り添うことができればと企画した」と語る。プレス内覧会で取材した作家の言葉などを交えて展覧会を紹介したい。
左から、寺田健人、スクリプカリウ落合安奈、甫木元空、岡ともみ、呉夏枝 撮影:いしかわ みちこ(★)
ケーキを買って帰る、公園で遊ぶといった典型的な家族写真。だが写っているのは寺田健人一人である。社会の枠組みやジェンダーへの問い。小道具としての子供服や玩具には、女の子として生きてみたかったという思いも含まれている。今回は、このシリーズ〈想像上の妻と娘にケーキを買って帰る〉に、寺田の視線の先の風景を写した〈trace his scent〉を加えて「あこがれの日曜日」として展示している。
寺田健人 左から《Toys in the sand, Shadows in the Sea》〈想像上の妻と娘にケーキを買って帰る〉より 2025年、《Daddy,boxer shorts》〈想像上の妻と娘にケーキを買って帰る〉より 2020年、Daddy,why do u pray in restroom》〈想像上の妻と娘にケーキを買って帰る〉より 2020年
〈想像上の妻と娘にケーキを買って帰る〉は、「ステイホーム」「家族との時間」が推奨されたコロナ禍に、社会から置いてきぼりになりそうという不安から、LGBTQ+というアイデンティティーと向き合うように制作を始めたという。「失われたものを取り返そうと想像力を駆使するうちに、自分にとって“存在していい形”をつくるようになった」と寺田。透明な存在が、見る人それぞれに新しい家族像を思い描かせる。
寺田健人《a Sunday that never came, yet already gone》2025年
寺田健人 左から《Melting Ice Cream, Falling Tears》2017年〈trace his scent〉より、《Daddy in Wonderland》2025年、《After playing in the park with my daughter》2021年 〈想像上の妻と娘にケーキを買って帰る〉より
日本とルーマニアという二つの母国を持つスクリプカリウ落合安奈(スクリプカリウおちあい・あな)は、2022年12月、30代を前に初めてルーマニアへの旅に出た。その約一年にわたる季節の一巡りを写真とテキストで表した《ひ か り の う つ わ》を、5台のスライドプロジェクターが時を刻むように映し出す。自然の営みの中で、情報よりも身体の感覚を使って世界に直に触れる生き方。この土地で生きていくための術を教えてくれた、血縁を超えた“親”のような人々。
スライドの中に「村の赤子は/たくさんの腕の中で育つ/川の向こう/戦争の終わる時/銀河で最初の/ミルクの一滴/羊たちは丘を登る」という一説がある。2022年2月に始まったロシアとウクライナの戦争は続いている。ルーマニアの隣国であるウクライナは15メートル先の川の向こう。藪を分け入って撮った川の写真が映し出される。帰国後、惨禍の写真などを直視できない時期もあったという彼女が、戦争の終わりを願って記した言葉だった。
スクリプカリウ落合安奈《ひ か り の う つ わ》 2023/2024年
スクリプカリウ落合安奈《ひ か り の う つ わ》 2023/2024年
映画・音楽・小説などジャンルを超えて表現している甫木元 空(ほきもと・そら)は、余命宣告を受けた母が亡くなるまで、高知に戻って暮らした4年間を記録した写真群〈窓外〉を展示。「作品化を目指して撮り始めたわけでなく、民俗学者の宮本常一がハーフカメラを記録に使っていたことを知り、外からの移住者としてハーフカメラを持ってリサーチを始めた」のだという。同居する祖父、時々訪れる弟、弟夫婦の間に生まれた赤ん坊。家族の生と死が、故郷の山や海の時間ともに編まれている。「母が亡くなった後も、今も風景は変わらずある。いつも通り、動き続ける風景を見て、日常も自然の一部だと思った」と語る。順に歩きながら見ていくと、映画に包まれるような鑑賞体験でもあった。
また、甫木元の映画《はだかのゆめ》《BAUS》《1991》の上映もあるので、東京都写真美術館のウェブサイトでチェックしてほしい。
甫木元空〈窓外〉より 2023年
甫木元空〈窓外〉より 2023年
岡ともみは、闇の中、12台の古時計からなるインスタレーション〈サカサゴト〉を展示。
岡が祖父の棺に青い紫陽花を手向け、火葬された遺骨が薄青に染まった経験から、その行為を自分にとっての儀式であったと考え、日本の葬送の風習を調べ始めたという。「現地に行ってみると、集落などでも今は失われている風習が多く、語れる人も少なくなっていて、地域の図書館などにある文献資料から調査することが多かった」という岡。「葬儀までの魂の依代になるように枕元に1本の花を添える」「死人が出て親戚に飛脚を立てるときは2人1組でなければならない(1人で行くと死者が後からついてくるなど理由は様々)」など、葬送の風習には死者への祈りや死への畏怖が込められている。また、生者が身近な人の死を受け入れ、その後も生きていくための儀式になってもいるのだろう。
岡ともみ〈サカサゴト〉より 2023年 撮影:いしかわ みちこ(★)
岡ともみ〈サカサゴト〉より 2023年 撮影:いしかわ みちこ(★)
最後に呉夏枝(お・はぢ)の布のインスタレーション《Seabird Habitatscape #️2-banaba, Nauru,Viti Levu》へ。織り込まれたイメージは、オーストラリアの機関が所有する写真アーカイブから引用した、ナウル島、バナバ島、ビディ・レブ島(フィジー)で撮影された写真から写し取られた農園や採掘跡などの風景だ。それらは、欧米諸国や日本、オーストラリアによる占領の歴史を伝えるもので、サイアノタイププリントで青く染められている。布の裏面には、現在のオーストラリアで撮影されたマングローブの風景が写し取られており、過去と現在が層になっている。
織り、染め(プリント)、ほどくなど、一連の手仕事をすべて一人で行いながら、語られなかった他者の声に耳を澄ます。
呉夏枝《Seabird Habitatscape #️2-banaba, Nauru,Viti Levu》〈Seabird Habitatscape〉より 2024年
呉夏枝《Seabird Habitatscape #️2-banaba, Nauru,Viti Levu》〈Seabird Habitatscape〉より 2024年
5名の作家による作品を通して見ると、家族、生と死、コミュニティ、土地といった事柄が、形を変えながら重なっていくように思われた。それぞれの違いは違いのままに、すれ違う無数の物語に耳目を傾けたい。
取材・文・撮影(★以外):白坂由里
<開催情報>
『遠い窓へ 日本の新進作家 vol. 22』
2025年9月30日(火)~2026年1月7日(水)、東京都写真美術館にて開催
公式サイト:
www.topmuseum.jp

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